バルコニーの陛下
第17章
バルコニーのテーブルの上には、それぞれの好みの料理が並ぶ、パールは小さなポシェットから特別なハンカチを出し、その青年に渡す。
「ポシェットに湿ったハンカチを入れているのですか?」
「はい、これで手を拭かないとお腹が痛くなりますよ」
「・・・・・・」
「え~~と、実は特殊加工をしてありますのよ」
「あなたは、確か先程のスピーチではメゾンドオリザボシ帝国を絶賛していましたが、この国は腹痛の予防をしなくてはならないような環境ですか?」
「いいえ、その様な事はありませんよ。嘘偽りなく、この国は素晴らしいです。・・予、予防ですよ」
パールは嘘偽りなく薄味の美味しい料理に舌鼓を打ち、疲れた足の回復を待ちながら青年と話をする。
「そう言えば先程のスピーチですが・・」
パールは露骨にイヤな顔をして青年を見る。
「はい、何でしょう?」
「運動できる場所とはどのような場所でしょう?闘技場ですか?それとも乗馬場、狩場もありますが、どのような場所を想像していますか」
公園をイメージして話したけど、公園って、やはりないんだ。この会場にいた人たちには伝わっていないのかしら?いやいや参った~~どうしよう…
「緑が多い広場で、貴族も平民も自由に安らげる場所でしょうか?」
「街の広場とは違うのでしょうか?」
「街の広場は緑が多いとは言えませんし、常に兵士が立っていますし、運動には向きません」
「では、私にあなたが望む施設をプレゼントさせて下さい」
「あの、それは・・どういう事ですか?」厳しい顔でパールはその青年を見る。
その時、バルコニーの扉が開けられて、見た事のある文官が、彼に耳打ちする。
「ポリアンナ家のミリンダ様とスペイン様が同席を求められています」
「・・・・・・」
この時、パールはこの青年の正体を知り、引きつりながら「どうそ」とパールは答えた。
◇◇◇◇◇◇
身分を隠す必要がなくなった4人が同じテーブルを囲むと、豪華な料理や飲み物が運ばて来て、パールは、なんて煌びやかな料理なんでしょうと思っていると、ミリンダが話かけた
「陛下、こちらの方をご紹介願いますか?」と言うと、リネガーケント国王は面倒な様子も隠さずに、
「婚約者のパール・フラグメール嬢だ」
パールはとっさに立ち上がり、二人の前まで赴き、握手を交わし、優雅に再びテーブルへ戻る。
「何のお話をしていらっしゃったのですか?」とスペインが尋ね
「優秀者に選ばれたお祝いに、好きな運動場をプレゼントすると告げていた。君たちの父上が彼女を選んだのだから、それは素晴らしいレポートだったのだろう?」
リネガーケント国王は、軽く嫌味を残し二人に質問する。
「わたくしは、今年度、公開された論文、レポート類はすべて読んでいますが、王都の街並み、平民の生活水準が高い事などが事細かく書かれてましたね?パール嬢は良く王都の街に出かけるのですか?」
彼女は悪役令嬢でもなく、真面目で勉強熱心な美しい学生で、陛下が嫌な顔をする意味がわからない…そんな感想を持ちながら、
「はい、良く出かけます。学生の内にこの国に馴染んでいたくて・・」
スペインが、「メゾンドオリザボシ帝国の経済に馴染むという意味ですか?」
ミランダが、「ご商売もなさっていますよね?」
「商売ですか?商売かは良くわかりませんが、福祉として彼らの事業の手助けをしています。国王陛下へご報告はしていませんが、わたくしは、今、独立した孤児たちの手助けをしていまして、彼らにほんの少しのヒントを与えただけです・・親がいなくても学べて、事業を起こす事が可能なこの国が素晴らしいと考えました」
「そうですね、陛下は婚約者様のレポートは読まれましたか?」
「私は全部読みました。内容も素晴らしく、だから、彼女の視点に立って見てみたいと思い、今、運動場のプランを聞いていた所です」
「陛下…もしかして、あの土地を・・・ウッ!・・」
微かに効果が出て来たのか、二人は段々顔をしかめて行く様子が感じ取れた。
「パール嬢、申し訳ありませんが、他にもご挨拶にまわりますのでこの辺で・・失礼します」
二人は、突然、忙しそうに扉を出て行き、話は途切れ沈黙が流れたが、リネガーケント国王は気にせずにパールが望む広場の話を継続する。
「陛下、国民に訳ありの土地に新しい施設を開放するのはよろしいのですか?」
「なぜ、なぜ怪しい土地だと思ったのだ?」
「ポリアンナ公爵家のお二人があの土地と・・申していましたので・・」
「私が未来の王妃にプレゼントする予定の土地は、当然一等地だ。ただ何代か前は、ポリアンナ公爵家の土地だっただけで、何度も返還または、購入の打診を受けてはいるが、広大で、それなりに良い土地だと思うが…」
「・・・あら、そうですか、では、好きにしてよろしいのでしたら頂きたいです」と笑顔を向ける
人は少し話しただけで、この人とは気が合うと感じる事が出来る。それは男女関係でも存在しているとパールは思い、このまま目の前の人を好きになるかはわからないが真っ黒な未来がグレーに変化した。
メゾンドオリザボシ帝国の太陽リネガーケント国王は「君は、僕との結婚で得る物はあるのか?」と聞き
「そうですね…、自由ですかね、双魂の子供が誕生すれば、誰も弱小国の王妃には見向きもしなくなるでしょう。皇后、両親、夫、もしかしらが産んだ子供からも必要とされなくなるかも、でも、そこには自由があるのでしょう。わたくしは、それを待っています」
「今の生活は自由ではないのですか?羨ましい程、自由だと感じるが?」
「アラ・・そう言えば、自由ですね」
「では、結婚前に自由を楽しんでみてはいかがですか?」
「その土地でですか?」
「そうです。自由に国家予算を使い、誰もが利用できる広場をご自分で施工してみてください」
「ーー私は自由を楽しみ、あなたは仕事を減らすのですか?」
「嫌だな~~違いますよ」
その後、二人は、互いに振り返る事もなく、その場を離れ、数年後の結婚式まで会う事はなかった。
◇◇◇◇◇◇
部屋に戻るとマスク姿のモンスールが急いで駆けより、パールを上から下まで確認した後、入浴を促す。
「お嬢様、本当に心配しました。何かあったらと考えて・私・私・・」
「大丈夫よ、モンスール、入浴が済んでから話します。とにかく疲れたわ・・・眠い・・」
しかし、モンスールを落ち着かせて眠りについてしまった。
翌日から、チャリチャリ亭の全員には、国王陛下より賜った土地についての情報を集める仕事が加わり、それと同時に、王宮の官僚たちとも会議をしたり、視察に出る時には騎士団からの護衛もつき、パールの周りを取り囲む環境は一変した。
「お嬢様・・結婚式までの自由時間は、濃い自由時間ですね」
「わたくしも陛下より賜った仕事があれば、帰省せずにいられますし、国にも情報を流す事は出来ず、魔力塔の研究室も使い放題、優秀な学者の論文も読め、国家の予算を使用でき、良い事だらけと思っていましたが、実際は、濃い自由時間になったわね」
「はぁ~~結局、お嬢様もお仕事がお好きなのでしょう…」
モンスールが呟いた言葉を否定したいが、婚約者として同年代のお嬢様方とお茶会を開いたり、お妃教育を受けるくらいなら、チャリチャリ亭でご飯が食べたいと本気で思っていた。
メゾンドオリザボシ帝国のデビュタントは14、5歳と遅く、その後、社交が本格的に始まり、16、7歳で結婚するのが一般的である。
貴族のご令嬢は互いの家を行き来し、お茶会を開き、親睦を深め友達を作ったりするが、パールは他国の皇女、屋敷もなく、離宮を賜っているのでもない為、ご令嬢たちを招く事も出来ない、また、お妃教育は自国の貴族の令嬢に施すもので、他国の皇女を教育する事は外交的にタブーとされている。
パールは皇族留学で、すでに優秀者として名を受けているので必要もないのだ。
「しかし、この招待状の山はいかがなさいますか?出席するお友達はいらっしゃいますか?」
ーーすでに1年以上アカデミーに通っているのにひとりもお友達がいません!社交に難あり!




