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チャリチャリ亭②

 14章

 

 店に馬車をもう一度呼んでもらい、ノムシルを伴って離宮に戻る。

 離宮には留学生が使う業者を登録する規則がある、店名、店主名、従業員の名前を記入してもらう為だ。


 「ここに記入して、店主はカメールって言うのね」

 「はい、そうです・・兄です」


 ノムシルの表情にほんの少し違和感を覚えたが、あまりにも疲れていたのでスルーして部屋に戻って行った。


 次の日、アカデミーが終わった頃にノムシルはやって来た。あの日、夕方の夕食の前には必ず御用聞きに来るように言って聞かせた。


 「お嬢様、ノムシルからの伝言ですが、家具の入れ替えはいつになさいますか?」


 「氷室が手に入ったのかしら?早いわね」

 「はい、業務用の物が手に入ったらしいですよ。氷室をこの部屋に運び込む場合は人手が必要ですよね?」

 「そうね、今度の休日にしましょうか?新しい家具はマジック収納から出しておくから、配置してもらって、その間、面会室に店主を呼んでくれる?」


 「はい、承知しました」


 ノムシルは出会った日からせっせとパールたちに品物を運び、仕事を終わらせていく。


 氷室が運ばれてくる休日にはチャリチャリ亭の店主のカメールも同行して来た。荷車でやって来ると思っていたが、当日来たのは店主、ノムシル、従業員が2名で、氷室はカメール店主のマジック収納に入っていた。


 パールたちの部屋に全員が揃うと、パールもマジック収納からこの前購入した他の物も出し、カメールも氷室をだした。それを見てパールは、

 「魔力持ちですか?」

 「はい、今までは興味がなかったのですが、今回、氷室を入れる為、マジック収納の魔力講習に通いました」


 「この国にはそのような講習があるのですね。初めて知りました」


 「はい、今はこの大きさが限界かも知れません」


 「この前、ノムシルは在庫管理したくないからガイドの仕事をしていると言ってましたが、マジック収納は大きな設備投資になりますが、大丈夫なのですか?」


 「・・・・・・」カメールは答えない。

 「私は、卒業後もこの国に嫁ぐ予定ですから、何かお力になれるかも知れませんよ」


 頭のいいカメールは、その場での返事を濁し、家具の設置が終わると戻って行った。


 それから2ケ月、ノムシルは用事がある時もない時も御用聞きにやって来て、真面目に働き賃金を得ていたが、突然、パールへの面会の手紙を持って来た。


 「店主からですね・・、どうしますか?」

 「いいわ、お受けします」

 「・・・・・・」


 面会場所は、チャリチャリ亭のあの席でカメールは高校生くらいの年齢、大人とは言えない青年は、直立不動で立っていた。


 「本日は、わざわざ、ありがとうございます」

 「いいわよ、気軽に話して、それで何か問題が発生したの?」

 

 「はい、少し・・ご相談の前に私の事を話します。私は名誉孤児だったのですが、私を引き取った親戚は、私の親が残した遺産をすべて持っていなくなりました。彼らがやっていた商売の借金を残してです。ノムシルよりもっと小さい時でした」


 「残ったのは商売の売れない在庫だけで、今も倉庫にあります」

 「何を売っていたの?」

 「服です。服には流行がありどうしても売り切ることが出来ませんでした」


 「そう?洋服を解体して布やボタンにしたりバックや帽子、クッションや枕にでもリメイクして売れば?倉庫が勿体ないわよ」


 カメールは真面目で女の子とも付き合った事がないのか、呆然とパールのアイデアを聞いていた。


 「それで?」

 「はい、それでですね。ノムシルが、毎日、離宮に出入りするようになって、他の方からも注文が来るようになったのです」


 「大勢?」

 「はい、本当に大勢です。ここからは、ご相談ですが、マジック収納の魔力講座は高額で、つまり、その、仕事はあっても資金がなく、このままではチャリチャリ亭の存続が厳しくなりました」


 「魔力持ちの従業員はいるの?」

 「はい、10人程です」


 「わかりました。魔力講座の所で読み書きも教えてくれるの?」

 「いいえ、読み書きは別の講座に通います」


 「例えば、経理、法律などを学ぶ時は学校があるの?」

 「いいえ、講座を受けて、試験を受けます」

 「資格みたいなものかしら?勉強になったわ・・あなたは帳簿はつけてる?」

 「はい、簡単にですが・・」

 「見せて下さい。帳簿も見ずに融資はできませんから」


 16歳のカメールは何が何だかわからないまま、自分の覚書のような帳簿を持って来た。

 

 パールはその帳簿を見て、

 「几帳面に記録してありますが、これでは初期の設備投資は難しそうですね、先ず借家のこのお店をわたくしが買い取りましょう」


 「担保もなしに投資は出来ません、その後、あなたは王都で学べる講座はすべて受講して下さい。そして、新しい事業として、離宮での御用聞きを認めます。その為の資金も出しましょう。お金が貯まったら借地権ではなく、チャリチャリ亭を買い戻す事ができます」


 「え?」驚いているカメールに説明する。

 「この帳簿から、家賃とマジック収納の魔法講座(予定)の項目がなくなります。わかる?」


 「その間、あなたのお給料はわたくしが出します。他の講座の合格1つにつき100万シリです」

 「良くわからないのですが、どうしてそこまでしてくれるのですか?」


 「それは、これからのわたくしに必要だからです。ふふふ、今は言えませんが、あなたがもう一つの試験に合格したら教えます」


 「試験はなんでしょうか?」


 「わたくしのアイデアでもいいですし、あなたが考えでもいいですから洋服の在庫をなくしなさい。それが第一の試験です」


 「・・・・・・」

 「過去はキレイにしましょう、断捨離ですよ」と、パールは微笑む


◇◇◇◇◇◇


 たまに会うノムシルが色々報告してくれているが、カメールは残っていた服を色々な布製品にリメイクして、チャリチャリ亭の隅や外の出店で販売しているらしい。


 「カメール兄は、頑張って、講座の合格をもぎ取っていますよ。本当に凄いのですよ!それにお嬢さまの帳簿のやり方にも慣れて素晴らしいと叫んでいました」


 「僕も読み書きの講座に行くように言われて・・・ます」


 「ノムシル、私の国にも勉強が好きでない人がいたのですけど、肉体労働の現場に出た時に周りの人達に頼りにされて、間違いが起こらずにその現場を終わらせた時、本当に役立ったって思ったみたいよ」


 「勉強して、覚えられるのは子供の時だけだから、機会がある時に合格した方がいいわよ」と、ノムシルと変わらない背丈のパールは言う。


 その後、カメールが服の在庫を処理して、倉庫も空になったと報告に来た時に、ノムシルの事も聞いてみた。


 「ノムシルはどうしてますか?」

 「はい、読み書き講座に通っています。そのノムシルを見て、チャリチャリ亭の全員が通い始めました」

 「ねぇ、ノムシルとは本当の兄弟ですか?」


 「・・違います。でも、このまま兄弟と思って欲しいです。ノムシルを保護したのは僕ですから・・」


 「ノムシルには、魔力がないのね?」

 「はい、周りはみんな気づいていますが、ノムシルは兄弟だと言っています・・」

 「いいのでは?兄弟がいれば互いに助け合えます。私が出したノムシルへの課題はあなたが助けたのでしょ?」


 「すいません、小さい子供には抱えきれない事業になったので・・」

 「そうね、わたしもこんな大勢の顧客を抱えるとは思ってもいませんでした」


 いつの間にかアマゾンと宅急便が合体したような御用聞き事業で、顧客はすべて金払いがいい貴族だけ、在庫も持つこともなく元手は馬車とマジック収納講座で、粗利がいい商売だ。


 「それで、カメールには話しておいたほうがいいと思いまして、お話しますが、わたくしが本当に欲しい物は、情報です。主に貴族のドロドロした関係や趣味、思考、なんでもいいので商品を購入する時、搬入する時に聞いた噂話をすべて報告してくれますか?」


 「・・・・・・」


 「なぜ?と思っているかも知れませんが、わたくしはメゾンドオリザボシ帝国の国王と婚約しています。数年が過ぎると王妃になる予定で、その時はあなたに、わたくしの筆頭文官を務めてもらいたいと考えてます」


 「え?」

 「上席公務員は大変でしょうけど、名誉孤児には国に貢献すれば爵位を与えられると、授業で習ったの、だから、必ず合格して下さいね」


 「後、チャリチャリ亭の後任も育てなくてはなりませんけど、小さいノムシルは大丈夫かしら?」


 その時のカメールの表情は、一生忘れられないと思った。辛い時に思い出してクスッと笑おう・・!





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