チャリチャリ亭①
13章
アカデミーにも慣れて、余裕ができたので積極的に街に出かける事にした。これもこの国を知る為と理由をつけて、その為には、王都の隅々まで歩き回れるように衣装もグレードを落とした。
ここで平民服を選択しなかったのは、入店を拒まれるレストランがあるからだ。
温かい料理はその場でなければ食べられない。朝食は離宮の食堂から調達したモーニング、昼食は学生の立派な食堂、しかし、夕食は、各自で用意かするかまたは離宮の厨房に注文する。
「一度、外の世界を知ってしまうと、外の料理の種類の多さに驚きますね」とモンスールは言う。
パールは驚くも何もフラグメール国では薄味すぎて食べた気がしなかった。スープも衰弱していたので薄いのかと思っていたが、最後の晩さんに出された肉も肉の味がしただけで、調味料の足りない国だと認識していたくらいだ。
「離宮の料理は多くの国からの留学生を受け入れている為に、あまり味をつけていないフラグメール国様式でしょ?この前なんか狼族の国の生徒さんは、生肉を注文していたくらいですからね・・」
「引きますよね・・」
そこで、パールが考えたのは、洩れの少ないお鍋に料理を入れてくれるお店を探す事だ。本当は洩れないお鍋が欲しかったが、さすがのメゾンドオリザボシ帝国でも見つからずお鍋を二重にして持ち帰る事にした。
「大きなお鍋を購入して、その中に入るお鍋も購入しましょう」
「はい、わかりました」
雑貨屋を求め街中をさまよっていると、小さな子供達がやって来て、お店の案内をかってくれた。
「君たちは街のガイドみたいな人なの?」
「はい、そうです」
「何か物を売ったりはしていないの?花とか?」
「はい、王都には出入りの業者や観光客、外交で訪れる人たちが多くいまして、在庫の管理をしなくていいガイドで生計を立てています。それに、花はすぐ枯れますよ」
(花売りって、貧しい子供の仕事だと思っていたけど・・・、この子しっかりしているワ)
「・・・自分で稼いでいるの?」
「はい、僕たちは孤児なので・・・」
メゾンドオリザボシ帝国は一流の先進国で王都のどこを歩いても綺麗で安全だ。そして、ストリートチルドレンは存在しないし平民の服も清潔感のあるものを着ている。
「孤児院で生活していないの?」
「今は孤児院で生活していますが、その後の仕事はキツイ仕事ばかりで体を壊す事が多いから・・」
「そっか、お金があれば薬も買えるし、起業もできるものね」
自分たちの話を真剣に聞いてくれる貴族の人は珍しく、
「お嬢様は・・、商人の方ですか?」
「いいえ、留学生なの、では、今日一日、私たちの専属で王都のお店を案内してくれる?」
パールは目配せをして、モンスールが目をつけた男の子に前金で支払った。
「こんなにたくさん頂けません」
「大丈夫よ、この後、たくさん注文するから・・」
「・・・・・・」
これが、自称カメールの弟ノムシルとの初めての出会いだった。
パールの要求は多く、鍋、魔石のコンロ、履きやすい靴、雑誌や書籍、美味しいパン、果物、お茶、洋服、日用品、雑貨、大きめの家具まで購入し、すべてをマジック収納へ入れて行った。
「お嬢様、疲れませんか・・?」
「ええ、疲れました。3人でどこかで食事しましょう」
3人でと言うと、ノムシルは困った顔をして「僕が同席できるお店はありません・・」と答えた。
「平民のお店でもいいわよ。それでも駄目なの?」
「貴族さまは平民と一緒に外のレストランで食事をする事はありません」
「じゃ、この辺の出店は?」
「お嬢様・・、路地でお食事することはお勧めしません・・」
パールは、張り切り過ぎて足が痛いのだ。だからドレスの中の靴も履きやすい靴に変えたい。
「モンスール、わたくし、本当は直ぐにでも椅子に座りたいのよ・・お願い・・」
子供が涙を溜めてお願いしている姿は痛々しく同情を引く、そうすると、ノムシルが、
「僕たちのお店に来ますか?路地裏で人目も多くありませんし、多分、一緒に食事も出来ます」
「あら、そう?そうしましょう、それがいいわね」
パールは元気を取り戻すと、ノムシルが観光客用の馬車を探し出し、ノムシルのお店に向かった。
「馬車を早くから活用するべきでしたね」
「ええ、自分の体力の無さを実感しました」
「さっき購入したお茶はそのお店で煎れる事は出来るかしら?」
「・・教えていただければ、で、できると思います・・・、馬車に乗るのは初めてでして・・・」
「あぁ、そうね、ごめんなさいね。後で別料金をお支払いします」
馬車は薄暗い路地裏手前で止まり、そこから歩いてチャリチャリ亭を探した。路地裏だが日も差し、緑に覆われている小さなレストランは孤児院を卒業した10代の若者と孤児院に住んでいる子供達で構成させていて、腕のいい料理長がいてとても繁盛していた。
「奥に、少し綺麗な席がありますから、そちらにご案内します」とノムシルに案内されて座る。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、あなた達のいた孤児院よりは清潔が保たれてるでしょ?」
「はい、あの時の事は思い出したくありません・・」
水を運んできたノムシルに
「メニューはある?」と聞くと、
「はい、ございます」と答えたので、多めに料理を頼み、マジック収納から取り出したお茶をモンスールに渡した。
「ノムシル、このお姉さんも孤児だったのよ、だから、厨房に入る事に抵抗はないの、お姉さんにお茶の煎れ方を学んで、持って来てくれる?その後、また、仕事があるから…」
ノムシルは頷き、モンスールを見て案内する。その間、パールは途中で購入した靴に履き替え、この後の予定を書き出し、ノムシルに頼む事を箇条書きにしていく、席の周りの空間は広く、まるで小さい温室にいるようで、花も飾ってあって、店主のセンスがいい思って見まわしていると、お茶が運ばれて来た。
「カップとソーサーがひどくて、茶器がありません・・・、こちらでよろしいでしょうか?」
「あら、そう、大丈夫よ、明日、用意してくれれば・・」
「??????」
「・・頂きましょう」
ノムシルが食べやすくなるようにモンスールは取り分けて、パールが食べるとノムシルに目をやる。
「ナナミリ達に会いたいわね・・、ところでノムシルはいくつ?」
「9歳です」
「私は自国でも孤児を教育して雇っているのよ、丁度、あなたくらいかしら・・?」
「お嬢様、マルマンとガンターは10歳です」
「そう、彼らより小さいのね、明日からも頼みたい仕事があるのだけど、字は読める?」
「よ、読めるものと読めない・・、事もあります」
「このお店の人たちで読める人はいる?」
「はい、います」
「その人に聞ける?」
「はい、聞けます」
「ノムシルはナナミリよりしっかりしているわ~~ほんと、これもお国の差かしら?」
モンスールは、
「ナナミリ達は体を動かす方が得意ですから・・今は、お嬢様の課題で苦しんでいるでしょう。目に浮かびます・・」
ノムシルはわからない会話を聞きながら、ちびちびお皿の料理を急いで食べていた。ノムシルが食べ終わるとパールはノムシルに向かって
「ノムシル、明日から離宮にいろいろな物を届けて欲しいのできる?」と聞いた。
ノムシルは急いで飲み込んで、「はい、で、できます」と答えた。ノムシルがはっきり答えたので、紙に書いた物のを見せた。
モンスールは、その紙を覗き込んで、「こんなにたくさん・・」
「ええ、そうよ、何があるかわからないでしょ。国からの支援も永遠だとは限らない。帰省するつもりがないのに、帰省させる為に、最悪、支援も打ち切られる場合もあるし、部屋の模様替えもしたいのよ。今のうちに、メゾンドオリザボシ帝国の物に慣れていた方がいいと思って・・」
「離宮まで運ぶのはどうするのですか?」
「馬車と人手を頼むの、それが出来たら、もっと、もっと稼げると思うけど、ノムシルが考えて行動してちょうだいね」
9歳のノムシルには荷が重いと思ったが、モンスール、ナナミリ、マルマン、ガンターにも元のパールは課題を出し、誠実性や判断力、適応性などのテストをしてから支援を始めている。
ノムシルへの信頼は、自分のアジトに招き入れてくれた事で合格をだした。
ノムシルは、しばらく考えて、「やってみます」と返事をした。