パールに転生して
12章
目が覚めてからパールとして生きると決めた生活は、知らない場所で、知らない人と生きて行かなければならい、その上、フラグメール国の王宮は安全でない。賢い本物のパールが逃げたくらいだ。
モンスールはマリージョン側妃への不快感をあらわにしているが、実は早くメゾンドオリザボシ帝国へ向かった方が自分的には楽なのではないだろうかと、ベットの上で考えていた。
「モンスール、私、早めにメゾンドオリザボシ帝国へ向かって、結婚相手に会ってみたいわ」
「そうですね、ここよりは安全だといいのですが・・ナナミリたちはどうします?」
「彼らは孤児院に残った方がいいでしょう。生活全般を孤児院で見てもらってますし、課題は常に与えてます。課題が達成できなければ、今後、孤児院への援助がなくなる事がわかっているので大丈夫でしょう」
2、3日が過ぎると、寝室にいるのはモンスールだけ、母親であるマリージョンは様子を見に来る事もなく、時折他のメイドも出入りするが、落ち着いた状況が続いていた。
体調も戻りはじめた時に、側妃のメイドであるフルルーメンがやって来て、国王陛下との面会が告げられる。
「お嬢様、体調はいかがですか?申し訳ございませんが、体調が回復されたならお受けして頂けませんか?」
「はい、大丈夫ですと、お父様とお母様にお返事してください」
フルルーメンがドアの外に出でから、パールの心情を思い涙が流れた。
フラグメール国の国王の私室に呼ばれ、メゾンドオリザボシ帝国への留学の話を聞かされた。温和そうで立派な髭を蓄えた国王は、皇后と側妃の間の揉め事に終止符が打たれる事を願っているようで、パールはその期待に答えた。
「メゾンドオリザボシ帝国のアカデミーに通うことができるのですか?」
「そうだ、メゾンドオリザボシ帝国王は若年であるために王妃になる方に、この国で勉強して欲しいそうだ」
「わかりました。メゾンドオリザボシへ向かいます」
パールは絶対に断られないと思っているのか、2人は頷き、マリージョン側妃は満面の笑顔で見送り、その後、国王へ感謝を述べた。
◇◇◇◇◇◇
パールがフラグメール国を発つ日は、王宮の広場に沢山のグリフォンが並び、二度と戻らないような荷物と少ない使用人たちが立ちパール皇女と共に出発する。
マリージョン側妃はパールの手を取り、
「しっかり学ぶのですよ。リネガーケント国王はすでに卒業していますが、アカデミーで困ったことがあれば相談に乗って下さると聞いています。将来は夫婦になるのですから仲良くね」
母親からの注意点は常に結婚してからの事が多く、メイドのフルルーメンだけは体調を心配してくれる。
(まったく!パールの気持ちを考えると笑顔を保つことも困難に思える)
「さぁ、行きましょう!」
見送る人を振り返る事もなく、グリフォンの集団は青空に向かって羽ばたいていく。二度と戻ることはないと決心しているように、バサバサと大きな音を立てて旅立った。
メゾンドオリザボシ帝国に到着しても歓迎されるわけでもなく、用意されたのは敷地内にある離宮で、他国の皇族留学生のための部屋だった。
(まあまあな部屋で自由に外に出かけられる。他国の皇族も在室されていて、ありがたい)
「お嬢様、到着されてお疲れですが、リゾット皇后にご挨拶に向かいますか?」
「そうね、贈り物もこの部屋に入りきらないでしょう」
気合いを入れて面会の依頼を出したが、返事はなく数日間は荷物整理で過ぎ、落ち着き始めた頃に、リゾット皇后から呼び出しを受けた。
フラグメール国よりも数段豪華な宮殿が並び、広大な敷地を見て眩暈がしそうになったが、気を引き締めて皇后の宮殿に向かった。
豪華な扉をいくつも通り皇后が待つ部屋に到着し、ご挨拶を申し上げます。
「メゾンドオリザボシ帝国、皇后陛下にご挨拶申し上げます、フラクメール国皇女、パールでございます」
リゾット皇后は、上から下までパールを見て、
「しっかり学ぶのですよ。リネガーケントは愚かな人間が嫌いですから・・」
「わかりました。助言をありがとうございます」と言って座るように言われるのを待っていると、手を振られ出ていくようにと催促された。
「ーーそれでは失礼いたします。フラグメール国からの贈り物をお持ちしましたが、こちらに運び込んでよろしいでしょうか?」
「そう、運び終わったら、離宮のメイドを使うようにしなさい。他の国からの留学皇族も従僕は1人だけしか受け入れられません。ねぇ、皆さんそうでしょう?」
周りの取り巻きはニヤニヤしながら頷いているが、パールにとってこれ以上ない条件だったので、優雅に微笑み、
「わかりました、連れてきた大勢のメイドは自国に戻るようにいたします、ありがとうございました」
最後のパールのお礼の言葉は本心で、マリージョン側妃のスパイが多過ぎてうんざりしていたからだ。
部屋に戻りスパイたちに説明し、側妃に手紙を書いてお引き取り願って、モンスールと一緒に笑って眠った。
◇◇◇◇◇◇
アカデミーが始まってもリネガーケント国王に会うことはなく順調に学校生活が始まった。その中で特別扱いを受けることも意地悪をされる事もなく、側妃から情報要請の手紙は来るが、のらりくらりと返事をして、里帰りもせずに、食堂で知り合ったチャリチャリ亭の経営を回復させて、現在の基盤を作っていた。
アカデミーでは、魔力の多い生徒は、魔力の使い方の授業があったり、薬草に関してもいくらでも勉強できる資料室もあり、授業、施設を見る限り、多くの国から皇族が送られてくるのがわかる。
「お嬢様、離宮もアカデミーも多人種で驚きの連続ですね?」
「そうね、この前、お話した方も、面白くて楽しかったわ」
「そうなのですか?勉強ばかりしていらしゃるのに珍しいですね」
「そうでしょ、図書館で会ったのですけど、いきなり木の実を下さったのよ、食べれるからどうぞって」
「お嬢様、召し上がったのですか?」
「ええ、美味しかったですよ」木の実を食べる事に抵抗がないのは前世の記憶があるからだけどね。
「お嬢様、木の実は地面に落ちたものが多いので不潔ですよ」とモンスールは丁寧に教えてくれた。
メゾンドオリザボシ帝国に来てからこの国の高水準には驚きの連続で、文化、文明、すべてに於いてフラグメール国との差を感じた。
アカデミーも素晴らしく、生徒たちもよく教育されていて、勤勉でお行儀もよく上級貴族、皇族留学の生徒しか存在していないので争いも少ない。
だから、上級学生ばかりの中で、木の実を渡して来た彼のことは印象に残った。
図書室で調べる内容は、ポータルの仕組みの解明と秘薬についてが殆どだったが、たまにこの国についても勉強するようにしている。基本学習はすでに経験済みでテスト勉強をする必要はないが、メゾンドオリザボシ帝国についてのテストは必修科目で、次期王妃としては、皇后に文句を言われない為にも頑張るしかない。
図書室に向かうと、木の実の男性は明るい窓際に陣取って窓の外を見ている。
「こんにちは、面白い本は見つかりましたか?」
「僕はここにサボリに来ているから、本は飾りで窓から空を見ているだけだよ」
「勉強はどう?頑張っている?」
「はい、メゾンドオリザボシ帝国はいい国ですね。学ぶべきものが多いです」
「君は街にでているの?」
「はい、メイドのマジック収納は小さいので、食料を調達する為に外出しています」
「国からの支給はないのか?」
「この国の料理以上に美味しいものは私の国にはありません」
「離宮の厨房に頼む事もできるはずだか・・」
「外の物を食べることができるのは、アカデミーにいる間ですよ、フフフ」
青年は少し間をおいて尋ねる。
「ねぇ、君はこの世界をどう思ってる?」
「不思議な世界だと思っています」
「どうして?」
「だって、すべての国が独立して浮かんでいるんですよ。不思議でしょ?」
その青年は、パールの顔をまじまじと見て、「そうだね、不思議だよね」と答えた。