王都の内情
第10章
ナナミリとマルマンは、早朝に魔法紙を受け取った。
「二人で王都に向かう事、新聞、雑誌の購入、チャリチャリギルドを使用して正確な情報を得る様にと記入されていて、残りは、食べ物と料理注文がびっしり・・・」
「出かけるか?」
「料理は、王都で全部そろうかな?」
「その為のチャリチャリギルドへの応援要請だろう?彼らに任せれば大丈夫だ。ギルド長からの命令だからな」
カメールは、孤児たちを集めたギルド長だった。ギルド経営が立ち行かなくなった時にパールに拾われ、筆頭政務官のような立ち位置で、メゾンドオリザボシ国でパール王妃に仕えていた。
ナナミリたち4人はフラグメール国の孤児であり、魔力持ちと忠誠心で選ばれパールが密かに孤児院で育てた。
「チャリチャリギルドで宿屋も紹介してもらえるといいな」
「子供たちに頼むのが、なんだか嫌だけど、今回は頭を下げて協力してもらわないと、俺たちでは王都全部は回れないだろう・・」
「新聞さえ購入できなかったら、流石に役立たずだ」
「だから、カメールがギルドを頼るように指示を出したのだろう・・」
「でも、到着してから相談相手がいるだけでも、心強いよ。ポータルが禁止だとお嬢様に聞けないしな・・」
二人は、午前中に、リガーネントを出発した。
◇◇◇◇◇◇
王都には平民用の通用門はなく、すべての人は一律に身分証の提示を要求され、王都での保証人も聞かれる。今回は、チャリチャリ亭の店主を保証人にした。大勢の人たちが並んでいて、やっと二人の順番になり。
そして、聞き取り調査が始まった。
「今後、チャリチャリ亭で働くのか?」
「ええ、まぁ、知り合いを頼ってきました。ーー仕事にありつけるかと思いまして・・」
「アードレ―領からやって来たと言う事は、雪で村や町が大変なのか?」
「俺たちの街はそうでもないですが、雪は懲り懲りで・・王都で職探しと買い出しです。どちらにしても、また、アードレー領に戻ります」
王都の兵士たちも政府に情報を集める様に通達されているのがわかる。それ故、今までにない質問ばかりで時間がかかる。
「実は王都も、今は、雪の影響で不安定な状況が続いてるから、まぁ、とにかく気をつけて、次!」
王都門を抜けると、チャリチャリ亭ことチャリチャリギルドを目指して馬を走らせた。
到着は、夕食が始まる前の空いている時間だ。食堂の看板がかかっているが、奥の部屋にはギルドが存在し、顔見知りのナナミリとマルマンはすんなりと奥に通された。
対応に出たのはカメールの弟だと思い込んでいるノムシルだ。
「サイコベルムで何かあったのですか?」少し青ざめた顔で二人に聞く。
「イヤ、こっちは大丈夫だ。大雪だったが何とか切り抜け住人たち誰一人も欠けていない」
「さすが兄上です。信じていましたが、やはり、心配でした。それで今日はどのようなご用ですか?」
ナナミリとマルマンは説明下手なので、カメールから送られて来た魔法紙をそのまま見せる。
「こちらでも、多くの情報が入りますが、憶測もあり、精査している段階です」
「最近では、どんな噂がある?」
「国王陛下の体調不良です!」
「えっ?」
「王都は寒いと感じませんか?」
「まぁ、周りの領土はまだ雪で埋まってるんだから仕方ないだろう…」
「魔力塔は御覧になりましたか?」
「いや」
「魔力塔の大きなシンボルはわかりますか?あのシンボルの中身が枯れ始めたのです」
「え?」
魔力塔のシンボルはひょうたん型で、大きなガラスで出来ていて中の魔力は紫色に輝いていた。
「いつから?」
「雪雲を消し去った後からでしょうか、サイコベルムでも雪は止んだのですよね?」
「あぁ、雪が止んで出発して来たから・・」
「皇后一族を排除したのは陛下ではないのか?」
「そこはまだわかりません。しかし、魔力持ちでない王室なんて、今は、国民のお荷物でしかない状態です」
「クーデターは成功したと考えていいのか?」
「成功しても陛下が倒られたなら成功と言えるか?です」
「パール王妃を残念に思っている記事が多いです」
「・・・・・・」
「食事をしましょう。宿はこちらに泊まりますか?」
「悪いが、よろしく頼む、すまない」
「勿論です。兄上から頼まれた仕事はきっちりとこなしますよ」
「新聞と雑誌はあるか?」
「はい、ご用意できます」
「急いで、現在の王都の現状を報告するか?」
「お嬢様、ご心配なさるだろうな・・」
◇◇◇◇◇◇
その日の夜、ブルーの執務室に魔法紙の報告書が送られて来た。
カメールが不在で、ブルーは一人でその報告書を読む。
「・・あやしい、あやしいわ・・、国民の前では仲良く振る舞っていたが、王宮では口も利かない仮面夫婦を装っていたのに、こんな記事、それに魔力不足って・・泉のように湧き出る魔力持ちが、たったこれだけの事で結界が薄れる?魔力塔のシンボルが枯れる?そんな軟な陛下ではない!変よ!絶対に変!」
ブルーは机に肘をついて額を抑え唸って考える。
この前の銀行での会議だって、健康そのもので、みなぎる魔力、幽体の方にも強い魔力を感じた。ブルーから見たらリネガーケント国王は二人分の魔力を持っているように感じるのだ。
ちなみにパール王妃も魔力は多い方だが、一人分しかない。たまに怒ると揺らぐと言われる事があるが、それは、魔力持ちの特徴だ。
それに、長年、抑えつけられていた外戚たちを一掃で来たのに、病気になって寝ているはずがない。
多くの罠をしかけ、今までの鬱憤を晴らすように相手をいたぶるに違いないのに・・・、この体たらくは何?本当に怪しい。
(許しを請う姿を見て微笑むを浮かべる姿しか思いつかない)
疑心の塊のブルーは、もう一度、最初から読み直していると、カメールが報告にやって来た。
「お嬢様、薬師がお見えになりました」
ここ男爵邸では大きな問題を抱えている。ブロウが熱を出したのだ。ブルーは秘薬の改良をする為に、10歳から薬の勉強を始めていたが、小さな赤ん坊に自作の薬を飲ませる事は出来ず、新しく来た若い薬師にお願いする事にした。
「今回、わたくしが母親ですから対応しましょう。病状の説明はガンターにお願いする事になるでしょうけど・・」
「はい、わかりました。ブロウも辛そうで、心配です」
カメールは多くの孤児の面倒を見て来たからか、子供が病気だと物凄く心配する。昔はナナミリ達の事も良く心配していた。
心優しいカメールです。
階段を降りて、1階の育児室に向かうと、薬師と一緒に10歳くらいの男の子が同行していた。
「男爵夫人、お初にお目にかかります。こちらは弟子のキースです」
ブルーはチラッと男の子を見て薬師と話し続ける。
「子供が急に熱をだしまして、薬師さんにお願いできますでしょうか?」
「はい、かしこまりました」
ブロウはこの1ケ月で随分と大きくなり目が合うと笑ったりして、ブルーにとっても、可愛い存在になり始めた。だから、熱を出したと聞いた時に驚き、自分で抱き上げオデコを合わせたりした。
ブロウは、ブルーにとっても大事な家族の一員だ。
薬師はブロウを診察して、近くのテーブルの上で調剤を始め、その薬草に危険が無いかをブルーはじっと見つめ、今後の事もあるのでメモも取りたいが、男爵夫人は絶対にそんなことはしないので、黙って見ていた。
モンスールはパン粥を持って来て、薬師はそのパン粥に薬を混ぜ込み、ブロウに与えた。
ブロウは、お利口さんで全部の見込み、抱き上げたまま動かないガンターを安心させた。
「ありがとうございます。薬師さん」
薬師にお礼を言うと、部屋の隅に立っている男の子にキリっとした顔で問う。
「それでは、陛下、説明して下さい」
「・・・・・・」
「陛下?」
「うん?」
部屋は一瞬で静まり返り、子供の返事を待つ。
「まったく、もうちょっと、このあやふやな関係を楽しもうよ~、こっちだって聞きたい事はたくさんあるんだ!別れた後、死亡を装い、ポータルでは行けない国へ逃げると言って、さよならしたよね?」
「それにしては、随分と近くに住んでいるではないか?まったく、離縁された国にいるとは、近すぎて驚いたよ」
「陛下は、遠くに行くと言ったわたくしの言葉を、本当に信じたのですか?」
しばらく間を置いて小さなリネガーケント国王は「うん、信じた」と答えた。
ブルーは唇を噛み「バカ」と涙ぐんだ。
「信じて、探して、魔力がなくなった!」
「嘘つき」