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第3話︰こうして俺へ対する誤解は加速する。

「――世界はあまりにも残酷だ。あまりにも非情でお情けすら与えられない。俺はただ彼女が欲しい! ハーレムを作りたい! ただそれだけを願っただけなのにッ!」


 教室に響き渡るのは悲しみに暮れる田中による魂の叫び。そして、そんな彼に絶対零度の視線を浴びせる女子一同。

 モテない俺が断言しよう。今のままでは田中に彼女が出来ることはないだろう。

 対象的に透は過激派3人娘に囲まれていた。なお、この娘共はお近づきになろうとしている他の女子を威嚇し牽制している。女子って怖いな。

 助けを求める視線を向けている透に親指を立ててサムズアップし、心の中で「頑張ってくれ、俺には無理だ」と合掌する。

 とりあえず夏休みに入ってしまえば適当な理由をつける事で3人娘の猛攻を回避できる筈だ。

 なんだかんだ鷹司家はそれなりの名家であり、本家の事情もあるのでその事を伝えれば手を退くだろう。


「鷹司君、夏休みは一緒に海へ行きましょう!」

「賛成賛成! 行こう行こう!」

「うちも行く!」

 この夏休みで距離を近づけようと躍起になっている彼女たちには申し訳ないが、余程のミラクルCが起こらない限りは負け戦である。君たちが狙っているのは彼ではなく彼女なのだ。

「ゴメンね。夏休みは当主様――祖父のところへ行く予定なんだ」


 透がやんわりと断りの言葉を紡ぐ。

 事実、嘘は言っていない。これで彼女たちが退いてくれる――ワケがなかった。


「本家ですか……これはチャンスですね」

 顎に手を当てながら白鷺は言う。


 何を考えてチャンスだと認識したんだ、この女。


「しっちゃん? なにがチャンスなの?」


 高天原の疑問は正しい。普通の感覚なら「それなら仕方ないね」で終わる筈なのだ。

 そんな疑問符を浮かべている高天原の隣で、ぼそっと「なるほど」と呟く南野。

 おい待て、何がなるほどなんだ?


「どういうことなの、りっちゃん」


「うちの予想が正しければ、何か適当な理由を付けて本家へ行って外堀を埋めてしまおうと考えているだよ、詩音ちゃんは」


「しっちゃん、そうなの!?」


 え、そうなの!? そいつは随分と傍若無人ではないですかね?


「流石ですね、高天原さん。ええ、その通りです。鷹司君の家系は由緒正しい歴史があります。そして、我が白鷺家も鷹司家ほどではないにしろ、それなりの家系です」


 ……この女、いいところのお嬢様だったか。


「お父様にお願いしてお見合い申し入れしましょう」


「え、しっちゃん!? それはズルだよ!」


「お黙りなさい。恋は戦争とは言うように、私は手にある武器を全て使ってでも、この恋愛(せんそう)に勝利します」


 何が彼女をここまで駆り立てるのか? そして、そんな人に好かれてしまった透には同情を禁じ得ない。


「えーっと……鷹司家ではお見合い申し出全てを断っているから、たぶん無理かな」


 透は苦笑しながら告げる。

 当主である透の祖父が鷹司家本家と分家の全てへ通達したらしいので間違いない筈だ。なお、情報源は透のお母さんである。


「そ、そんな……」


「なら、うちはその本家の家に同行しよっかな?」


 南野が言う。

 が、そこは俺が口出しする事にする。


「残念だが、それは出来ないぞ」


「……幼馴染というだけで雨宮君には関係ないと思うけど?」


「ところがどっこい、残念だったな南野。俺は鷹司家の当主に毎年お呼ばれしていてな、同行が決まっているんだ」


 俺の言葉に真顔になる3人娘。え、怖いんだけど。

 と、少々不機嫌そうな声音で白鷺が口を開く。


「どうして雨宮君が同行出来るのに、私たちはダメなんですか?」


「ダメ以前にそもそも呼ばれてないのと、当主である透の爺さんが君たちの存在を認知していない」


 俺の言葉に3人娘は「ぐぬぬ……」と歯軋りする。

 流石にこれで諦めてくれたら助かるのだが……。


「で、でも夏休み中ずっとじゃないよね?」


 高天原が問う。

 確かに夏休み全てを本家で過ごすワケではない。

 去年は適当に誤魔化して回避したが、今年も同様の理由での回避は難しい。

 極力、俺の目の届く範囲で透の願いを叶える為にも、何としてでも秘密を防衛しなければならない。

 去年の文化祭で透と白鷺が2人きりで会う時間があったのだが、俺はちゃんと監視していた。それくらい俺は神経使っているのである。

 どうしたものか――俺が思考を巡らせていると、透が口を開いた。


「残念だけど、夏休み中はずっと本家にいる予定なんだ」


 おや? 今年は随分と攻めるじゃないか。


「そ、そんな……どうしてなのさ!?」


 南野の言葉に同調するように白鷺と高天原も驚きの声を上げる。

 すると透は意を決したような表情を浮かべて言う。


「僕が海音とデートするからね」


 …………なんて?

 明日から夏休みという浮かれた状況でにぎわっていた教室内がしーんと静まりかえった。なお、一部の女子が鼻血出して「キマシタワー」と叫んでぶっ倒れた事には目をつぶろう。


「あれ? 僕、変なこと言ったかな?」


 教室内の空気に透は不思議そうに首を傾げる。

 なお、3人娘が「「「最大の敵はお前かー!」」」と叫んでいるが無視しよう。


「――はぁ……」


 俺は天井を仰ぎながら深い溜め息を吐く。

 間違ってない。確かに間違ってないんだよ、透。


「――はぁ……」


 きょとんとしている透を横目に、俺は再び深い溜め息を吐いた。

 

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