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第2話:いつもの朝はコンビニより始まる。

 日々の生活の中で各々「これだけは必ずしなければ!」というルーティンがあると思う。

 朝起きたら必ず熱い緑茶を飲む、朝食は必ず米とみそ汁、或いはトーストといちごジャム――と様々だろう。

 とにかく決められたルーティンをこなさなければ調子が出ないという者いる筈だ。特にプロのスポーツ選手ほど重要視しているかも知れない。

 当然クラスで目立たない存在の俺でも譲れないルーティンがある。


「今日もいつも通りだねぇ、チョコチップマン」


 登校途中のコンビニでチョコチップスティック(5本入)とブラックコーヒーを買う――それが俺の譲れないルーティン。


 そして、いつも同じ商品を買うが故に顔を覚えられてしまったのは必然と言えるが、そのチョコチップマン呼びはいただけない。


「……俺は思うんだ」


 小銭を取り出しながら俺は言う。


「毎日同じ商品を買い続けたら、その商品名+マンであだ名を付けるのは安直だと。だったらタバコを毎日買う人にはタバコマンってあだ名を付けるべきじゃないかってさ」


「う~ん、仮に該当者にタバコマンってあだ名を付けちゃうと体感的にお客さんの半数くらいがタバコマンになっちゃうねぇ。分けるにしても紙タバコマンか電子タバコマンかなぁ。あ、女性だとウーマンかぁ」


 ……うん、言わんとすることは分かる。

 だったらチョコチップスティックを毎日購入する人も俺以外にいるのではなかろうか。


「私の知る限り、毎日チョコチップスティックを買って行くのは君だけだねぇ」


「そんなバカな⁉ 確かに本数は減ったけど美味しいだろ!」


「世の中は味の良し悪しだけでは決まってないんだよ。あと普通は飽きるからねぇ」


「いやいや、日本人は毎日米を食しているけど飽きないだろ? あとほら毎朝トーストを食べる人もいるじゃないか」


「う~ん、たぶんそれとこれとは別問題だねぇ」


 解せぬ。

 おつりを貰いながら俺は悲しみに暮れる。

 だがしかし俺のチョコチップスティックへ熱意は本物であり、望まれているのならばそのあだ名も甘んじて受け入れようではないか。


「……時々、君の頭にある螺子が緩んでいるんじゃないかと心配になる時があるんだよねぇ」


 あだ名を受け入れるという話をしたら、アルバイト店員である女子大生――鳴海月渚(なるみるな)は心底心配そうな表情を浮かべながら言う。

 この女、緩い口調の割に毎度酷い事を言いやがる。

 支払いの終わった商品を鞄の中に突っ込みつつ、壁に掛かっている時計へ眼を向ける。


「君の待ち人は外で待ってるみたいだねぇ」


 その言葉の通りにコンビニの外へ顔を向けると、スマホを弄っている透の姿が在った。俺の視線に気付いたのか、こちらを向いて笑顔で手を振っている。


「う゛っ……なんてイケメンッ!」


 口元を手で押さえ、アイドルに遭遇したかのような感動の涙を流し始めそうになっている鳴海。それに対し、俺は口外できない故に心の中で告げるのだ「アイツ、実は女なんだぜ?」と――。


「しかし、私は彼を応援することに決めているからねぇ」


 グッと胸の前で拳を作って、鳴海が俺の方を力強い眼差しで見る。

 ……嫌な予感がしてきた。


「彼が君に向ける熱い視線は間違いなく普通の友達に向けるものじゃあないッ! ならば、それは一体なんなのか? 分かる、分かるよぉ、私には!」


 突然、熱の入ったセリフを言い始める鳴海。たぶんなにも分かってないし、「絶対に間違っている」と高らかに断言してやりたい。


「――故にチョコチップマン! 君は彼の全てを受け入れるべきだよぉ!」


「……一応聞くけど、俺はアイツの何を受け入れろと?」


 俺の問いに鳴海はポッと頬を薄く赤らめて言う。


「愛の形はいろいろだけど、私的にアリだねぇ。仏頂面な君と中性的な彼の絡みはきっと目福だと思うんだぁ。ちなみに君は――攻めだねぇ!」


「オーケー、とりあえずくたばれッ!」


 思わず叫んでしまったが、きっと俺は悪くない筈だ。

 

 

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