第1話~迷子~
―――××五九年
誰もが魔法を使える世界。
人々は魔法で空を飛び、水の中を歩き、そして仲間と共に戦う。
その魔法たちの元を辿ると、原初の神たちの神話へとたどり着く―――
六神は炎神、水神、雷神、草神、風神、太陽神と居り、彼らを『原初の神』と呼ぶ。
原初の六神に生み出された六つの原初魔法は、あらゆる魔法の基礎にあたる。
人々はその基礎から星の数ほどの魔法式を編み出してきた。
凶暴な魔獣たちや、知恵を持った魔物たちから身を守るために人類は魔法を極めていく。
しかし、一般人にとって野良の魔獣は脅威でしかない。
魔物となればそれこそだ。
だからこそ、人々は作った。
人のための自警団を―――
「……うーん?ここは……どこ……?」
地図を眺めながら首をかしげる青年。
腰に下がったドックタグは、そんな主を哀れむように木漏れ日を反射しキラリと光る。
森の奥で一人ポツンと佇む彼―――レイソは、絶賛迷子中である。
散々地図とにらめっこを繰り広げたあと、諦めたように溜息をつき地図をしまい込む。
―――さてと、どうしようかな。
そろそろ日も落ちるころで、流石にもう森を出なければ遭難まっしぐら。
取りあえず、行くべき方向だけは見極めなきゃならないか。
―――と。ある程度目標が決まったレイソは軽く肩を回し、地面に足を滑らせ―――
―――力強く地を蹴り、空高く飛び上がった。
「あ!見つけた、街!」
木の枝を掴んでぶら下がりながら嬉しそうな声をあげて足を振り上げ、反動で木の上へと上がる。
到底凡人とは思えぬその身のこなしは、他でもない彼の実力を指し示していた―――
自警団団員の一人、レイソ。
成人の日、14歳になったその日。
誰よりも早く自警団へとおもむき、入団届を申請した少年。
彼はたった一本の魔剣と共にソロで様々な依頼をこなし、
3年のうちに―――E~Sまで段級がある中―――A級まで登り詰めた。
その上A級の中でも最年少でありながら人格者で、旅する先々に良いウワサが触れ回っている。なんていうハイスペックな彼。その彼は―――
「うん、なるほど。確かにドッグタグは本物だな、転勤申請も二日前に届いてる。んじゃ、これからは紛らわしいことはしないよーに。」
「はい……。」
―――見事職質を受けていた。
数時間森をさまよい歩き、
やっと街を見つけ浮かれポンチになっていたレイソはあろう事か、木の上を跳んで渡ったのだ。
この世界の人々は基本的に空を飛べるために
木の上を跳んで渡るなんていう奇行、人っ子一人するものなんて居ない。
結果、これからこの部署での先輩になる人から直々に職質にあっていた……といういきさつである。
なんとも間抜けな理由だが、レイソにはそれをしなければならない理由があった。
「……ま、『加護持ち』なら仕方もないな。風神サマ以外の加護じゃ飛ぶことも出来ない。」
「あはは、確かにちょっと羨ましいとは思いますよ。でも加護のおかげでボクは今ここに居るので……。」
―――彼は、魔法を使うことができないからだ。
正確には、原初六神の生み出した魔法の内
炎神が生み出した魔法しか使うことができない。
それが加護という、原初魔法への途方もない適正による代償だった。
「……とりあえず宿を取るところからだな。先輩として、おススメの宿教えてやるよ。」
「あっ、ありがとうございます!お世話になります!」
職質を担当していた青髪の青年は気の良さそうな笑顔を浮かべながら
レイソを自分の行きつけの宿へと案内すると、レイソが名前を聞くより前に居なくなっていた―――
―――次の日。
一点の曇りもない昼空の下、レイソは早速依頼を受け昨夜の森へと向かっていた。
「―――依頼の内容はD級大型魔獣討伐依頼。
森の奥から出てきてしまったようで、街を襲う可能性を加味し討伐することになったらしいです―――聞いてますか?ルミアーシアさん。」
そう言って後ろを向いたレイソの手には―――
「うんうん聞いてるよ。なんで俺はわざわざ昨日の少年にお手手繋いで引き摺られてるのかを知りたいわけだけど。」
―――昨晩の青年―――ルミアーシアと呼ばれた青年の手が握られていた。
どうしてこんなことになっているのか、事は少し前にさかのぼる―――
続く
初めまして。皆さんご息災でしょうか?私は元気です。
まずはこの小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
初めてのなろうのため、つたないところがあったらすみません。
もしよければ温かく見守ってくれると幸いです。
次回からはD級大型魔獣討伐依頼の話になると思います。
少しずつ更新していくので、これからも見てくれると嬉しいです。