悪役令嬢の主人公ムーブその4 キレイの秘密は、自然体でしてよ!!
※残酷な表現とちょっと辛口な女性あるあるブッコミました。
閲覧の際には、ご注意下さい。
1,主人公の自然体ライフスタイルへのアゲについて
「おほほほほっ!わたくしってば、パーティでも甘いお菓子をたくさん摘まんでしまうし、お肉だって大好きなんですのよ。おほほほほっ!!」
スイーツを皿へとこんもりと盛り付け、バランスの悪いタワーまで建造した黄薔薇姫に、友人のファンティーヌ・グリーンの侯爵令嬢は、無難に返答した。
「今日の主催者の侯爵家って美食家で有名ですもんねー。ごはんも本当おいしいから、ついつい食べちゃうの分かりますー」
「ワカルワカル」
色気より食い気アピールを通り越した、視界への暴力展開はスルーするに限る。
バイキングに浮かれるお子様貴族だって、もう少しマナーを弁えている。
大丈夫だ。何かあっても、スタッフがおいしくいただいてくれるから、お残しはないし、無駄にもならない。
公爵家の愛娘で王子の婚約者という立場の相手には、「はしたなくってよ」なんてご意見は無用。
適当に合わせるのに、限るのだ。
「わたくしは、美容にばかり囚われずに、おいしいものは好きに食べるって決めてますのよ。オーガニックで、ナチュラルで天然由来の令嬢でしてよ!!」
貴族令嬢とは、徹底管理された教養や儀礼を身につけ、指の先まで意識を払うように教育された、人口添加物的な淑女という存在なのでは?
野生の本能を丸出しにした、ただの雌の獣ならば、良家の御令嬢扱いなどされないだろうに。
今日もあざとい黄薔令嬢の姿に、背後に控える執事は、顎の下で指をLの字にして訝しんだ。
「黄薔薇姫様はスタイルが変わらないから、羨ましいですわ。お肌もとっても色が白くて、お綺麗ですもんね。何か意識されていることってあるんですか?」
「そーですよ。キレイの秘密、わたしたちにも教えてくださいよー」
お調子者のイエッテ・グリーン伯爵令嬢もこう尋ねる。
これは、女同士の定番世間話ネタだ。本当に知りたいわけでも何でもない。
黄薔薇姫が、女優、メイクアップアーティスト、インフルエンサー、美容研究家でもなんでもないことなど、既に分かり切っている。
大した知識が披露されるとは、全くもって考えていない。
それでもあえてこうして聞くのは、相手のこだわりや日々のルーティーンが伺える話題の中から、無難に「いいね」と共感しやすいネタだからだ。
見るからに気合い入れてないズボラさん相手でも「へーそうなんだー」「分かる分かる」「困るよねー」「わたしもついついサボっちゃって」という、自動音声のような返答が、可能だからだ。
健康ネタは、年寄り的には身近でも、深刻でない若者には、あまり関心がない話題。
いつか行く道でも、今からそんな話ばかりを、聞きたくはないのだから。
宗教・政治・スポーツなどを避け、無難そうな話題を、選んでいるだけなのだ。お嬢さん方にとっては、お天気の話ぐらいに手堅い無難さがある定番のお約束だ。
「肌キレイ」「カワイイ」「若いって初々しくて良いわね」「年齢よりも全然お若く見えますよー」などは、本当に思っている時もあるが、特に他に褒めるところがない相手にも使える、魔法の呪文なのだ。
もう少し突っ込んだ細かいファッション関係の話題だと、「わたしの考える最強で理想のファッションとライフスタイル」から外れるタイプが、目の前にいることも多く、場が荒れる危険性があるので、アイメッセージで語るを徹底するのが、ここでの流儀である。
「そうですわねー。やはり、自然体であることでしょうか?」
「へーそうなんですか」
「なるほどー。それでそれで」
一体お前は、どこの女優なんだ? な謎の精神論を、取り巻き二人は受け流した。
「わたくし侍女に帽子や日傘をちゃんと差すように、いつも叱られてしまうのですけれど、お日様の日差しって、本当に気持ちがいいんですものっ。日焼けなんて、気にしていられませんわ」
「へー、そうなんですか」
「なるほどー。それでそれで」
「香水臭いのも厚化粧も苦手で、いつも侍女にお任せしてしまうのですが……。コルセットを締めすぎて、おいしく食べられないような圧迫感のある服も、実は苦手ですの。枠にハメられたドレスアップスタイルは、どうも好きになれなくて。やはり自分らしさって大切にしたいなって」
「へー、そうなんですか」
「なるほどー。それでそれで」
パーティにはジャージで来ないで欲しいし、ドレスアップしたのに、ノーメイクでは、浮いてしまう。
つけ過ぎはNGでも、程よく衣装に合わせたお化粧や、香水を身に纏って欲しいものだ。
こんな暑い季節に日焼け止めもせず、臭いケアもしないとか、ナーロッパとは言え気になってしまう。
ナチュラルメイクは、全然ナチュラルじゃないし、清純派女優ぐらいの、清純さを持ち合わせる体裁を整えているに過ぎないのだから。
◇◇◇◇
2,異世界の臭い問題、衛生観念について、深く考えると悲しくなるから、今すぐやめたまえっ!
異世界の香害問題は、香水に限定されがちだが、ガチ中世なら、もっといろいろと、衛生問題はキビシイはずだ。
体臭を誤魔化すための香水文化の発達だとか、ハイヒールは排泄物除けだとかよく語られているが、現代人には、もうすべてがあり得ないぐらいに、やばいと感じてしまう。
排泄物の始末いい加減問題や、風呂に入ると(感染症のせいで)病気になるので入らない習慣、病気になったら瀉血の文化、洗濯だって一回しか着てない服を洗ったりはしないだろう。
ナーロッパがガチ中世・近世な設定は、医療や衛生観念、もうすべてが、遠くの異世界のことであって欲しいぐらい、カルチャーショックの連続なんだ。
江戸時代の貸服屋で、吉原に行く前の殿方が気合を入れて、綺麗なふんどしを借りていくエピソードなんかを知ると、とても厳しい。
当時の価値観に立てば、彼らは清潔感を大切にしていた訳である。
女性に配慮した、好ましい男の見栄だと、ポジティブに思われていた文化だろう。
「コイツは、毎日パンツも変えてないの? その上今は他人のパンツを借りて履いてるの? ないわ~。キモ過ぎて、まぢ無理なんだけどっ!」
悲しいことに、現代的な女性感覚さんからは罵倒の言葉しか聞こえてこない。
江戸時代のイケメンは、現代では非モテなのだ。
そんなあまりに違う異世界の、風俗業界に飛び込むなんて、絶対に不可能だと思う。
小指を切って太客に「あなただけよ」と送るつけるのが、流行ったこともあったらしいが、その刃物と指先の消毒は、本当に大丈夫なんか?
指を詰めることが流行ったことや、他の客に送りつける用の替え小指を集めるブームなど、意味不明が過ぎて繊細な現代人には理解できないことが、多すぎる。
すまんが、本当に無理だ。
「そんなわけで、わたくしは自分らしい生き方とライフスタイルを大切にしておりますのよ。我慢をしない。ストレスを貯めない、それが何よりの美容法なのですわ!!」
「へーなるほどねぇ」
「当たり前だけど、逆に深いかもー」
ぺらっぺらで中身がない。
美容・健康あるあるな手堅い鉄板のオチが出たところで、二人は良いお時間になったので、又の機会にと去っていた。
◇◇◇◇
3,他の女サゲからの俺の女アゲ!!はヒーローの必殺技だ
「やぁ、黄薔薇姫。先ほどの楽しそうな会話が僕の方にまで聞こえてきたよ」
そう言ってクスクス笑いながら、シャンパンを差しだしてきたのは、スパダリ系王子のアレクサンダー王太子殿下だ。
「あらやだ、聞いてらしたの。もうぅ、照れてしまいますわぁ」
ストローグラスを受け取った黄薔薇姫は、ポッと頬を赤らめ、身を捩じらせた。
「ドレスに散財する厚化粧の香水臭い女性よりも、君のような自然体で美しい女性にこそ、着飾って欲しいと思ってしまうのが男の性かな。ハハハッ。君のような慎み深い女性こそ、王妃には相応しいなっ」
女褒めるだけのためにわざわざ敵を作る発言カマしたり、金のかからなそうなナチュラルウーマンへの賛辞は、異世界あるあるである。
毎回、他人のライフスタイルサゲで共感を促すのは危険だ。
「もうぅ、そんなことばっかり言って。わたくしは流行にも疎くって恥ずかしいですわぁ」
「そんなことないって、むしろ、時期王妃の君は、流行を発信する側なんだ」
散々、経済を回すのも貴族の務めとか、領地の素材、手工業や職人のアピールとかを語っておいて「わたくし流行りのファッションとか分からなくてぇ」アピールする女もテンプレだが、オシャレ女子を下げた直後に、野生の令嬢を持ち上げてからの、俺色で着飾ろうとする流れは、何なんだ。
ちなみに、今回の話のハイティーン設定な黄薔薇姫においては、プロローグの十歳の時に開発した化粧品も、既に回収騒ぎを起こしているし、美容体操もすっかり廃れている。
そんな女でも、本人の努力と王族パワーがあれば、再びファッションアイコン化させることは可能なのだろう。
それでも、婚約者を褒めたいなら、他人を下げずに、本人だけを誉めたら良いのでは?と執事は疑問を感じた。
とはいえ、バカップルの会話に口を挟んでも、みっともない。これは仕方がないことなので、隅の方で独り静かに食事を取ることにした。
黄薔薇姫がタワー盛りにしたヒルズ皿は、舐めたように綺麗になっていたので、スタッフも安心だ。
きちんとお返ししておいた。
今回のテンプレでは、執事のお腹はあまり膨れなかったので、しっかり食べておかないといけない。
後日、黄薔薇姫は、新たに「フードファイター・ローズマリー」「自然が爆発・黄薔薇姫」という新たなタイトルを、獲得した。
めでたしめでたし。
特に覚えなくても平気な、キャラ設定。
アレクサンダー・レッド王子 スパダリにも浮気クソ野郎にもなるご都合王子。
ファンティーヌ・ブルー 友人枠太鼓持ち 全力でふぁぼってくれる
イエッテ・グリーン 友人枠全肯定 イエス・ウーマン