悪役令嬢の主人公ムーブその3 限定品の攻略対象の入手には、早めのご予約が不可欠でしてよ!!
※今回のお題は、幼少期に出会う系攻略対象とのあるあるテンプレについて。
痴女描写やクソ女へのツッコミを流せない方は、ブラバを推奨いたします。
黄薔薇姫は、この間持ち帰った、孤児院のショタで遊ぶことにした。
一緒にお風呂に入ってピカピカにしてあげ、綺麗な高級使用人服に身を包ませて、従僕見習いへと取り立てる予定であった。
「あの……。事前に、使用人教育とかしなくても、いいんですか?」
どう考えてもおまゆう案件だが、執事レビは様式美に沿った質問をした。
このナーロッパ世界のとある国では、階級社会を謳っている。
代々仕えてきた使用人や、分家貴族や寄子の下級貴族の家臣だっているだろう。
屋敷の主である、公爵家ご家族の目に触れる、上級使用人に孤児を雇うなんて、聞いたこともない。
雑用や下働きとしての雇用ならば、まだあり得るが、そのようなエリアに、普通の令嬢は、立ち寄りすらしないもの。
下々にも慈悲深いのが売りの黄薔薇姫とは言え、教育も経験も全くない、異性の孤児を、いきなり側付へと大抜擢しては、さすがに角が立つのではなかろうか。
既に、不審な悪魔が、どこからともなくやってきて、執事をやっているのだ。
これでは、従者枠だって被ってしまう。
あとさらっと流したが、どうして一緒にお風呂?
黄薔薇姫、もう十歳だよね?
もう恥じらいとか、性教育の基本ぐらいは、抑えていても、おかしくないのでは?
「失礼ですわね!!当然、閨教育まで受講完了いたしましたわ!!」
アウトー!!
「子供同士だから大丈夫ですわ。ハァハァ」
その言い訳を口にしている時点で、絶対に大丈夫じゃない。
既に、実技演習がしたくてしたくて、堪らなくなってるだろうがっ。
「わたくしはこの子のお風呂の入り方から、何からナニまで、その身体に丁寧に、刻みつけるように、教えて差し上げるのですわぁ……。ぐへへっ」
ほれみろ、完全にアウトだ。
身体年齢プラス前世年齢という、意味不明な足し算による精神年齢を自称して、日頃は枯れたアピールをしている、転生悪役令嬢の分際で。
どう考えても危ないので、執事はショタ孤児を、先輩の下働きに、任せることにして、早々に離脱させた。
拾って来ちゃった以上、責任持たないといけないからね。
もちろん、バレバレな黄薔薇姫の、欲求解消的な意味じゃなくて、教育と就労支援するっていう、道義的責任のほうだよ。
これ以上、無邪気を装って、駄々捏ねても、無駄だからね。
セクハラ攻撃のターンで「なんのことかわかりませんわー」とすっとぼけようが、本音が丸見えなんだよ。
さぁ、早く、その鼻血を拭くんだ。
全くもう。どうしていつもいつも、入浴、添い寝、嵐の夜での慰め合い、深夜の雷眠れないのイベントでのハグ等を盛り込みたがるんだっ!!
未成熟な者同士の美しい思い出、あるいは性の目覚め的な淡い表現のつもりでも、ショタに悪戯したいだけという、邪さだけがポロリしているんだぞっ。
文学味が足りてない。しっかりしたまえ!
アニメの風呂回や水着回と違って、挿絵パワーにも頼れない、描写力も足りてない、この作者には激ムズで、何のサービス感にも繋がらないんだ……。
悲しいことだけど。
さあ、落ち着いて。その中身を、創作というガワの中へと押し込むんだ。
チャックもしっかりと締め直すんだよ。
ゆるふわ設定という服の下には、建前という下着も、きちんと身につけなくていけないんだぞっ!
暑いからって、ノーブラは駄目だぞっ!
たまたまウッカリで、つけ忘れちゃっただけなんだろうけど、スケスケにしていてはバレバレだ。
はしたなくってよ。
夏の暑さに開放的になって良いのは、ひと夏のバカンスで経験値を高められる、リア充だけの特権だ。
「あんまりですわ。せっかくのチャンスを……」
「駄目ですよ。連れて来られた先の屋敷のお嬢様に迫られては、あの孤児だって、絶対に嫌って言えないでしょう。児童に対する性的な強要と虐待に繋がります!」
「そんなつもりでは……」
「つもりがなくても、アウトです。仲良くなりたいなら、他の方法にしましょうよ」
「……仕方ありませんわね。早めに調教して、性癖をしっかりと、わたくし色へと、染めておかなくてはなりませんのに」
「だから、十歳児が身体使っての調教はいけませんてばっ!」
「貴重な限定品の攻略対象は、先取りですわ。自宅に連れ込んだら、唾をつけての即予約ですの!」
ああ、十歳の濡れ場の描写からは逃げれたけど、黄薔薇姫自体が、手遅れなクソ女であることには、変わりがなかった……。
今日も男をアクセサリー感覚で語る、バレちゃいけない本音が、バレバレだ。
まぁ、婚約者の高嶺の花の王子より、身近でずっと支えてくれた相手を選ぶという流れのテンプレは、共感されやすいものなのだ。
だけど、ずっと、他の男を側においていたのなら、王子の塩対応や浮気を責める権利はないのでは?と、執事は訝しむ。
「何を言ってますの?この家の使用人はみな、わたくしの家族のようなもの。浮気には含まれませんのよ?」
「ヒドインの『みんなとは、友達なのに酷いですぅ』と変わらない、酷いテンプレ言い訳ですね。さすがです。お嬢様。そのテンプレ遵守精精神には、思わず痺れてしまいますぅ……」
「もちろんですわ。家族ですので、一緒にお風呂も入りますし、添い寝も当たり前なのですわ」
「それって、もう完全に浮気してますよね。ココロの浮気だけでなく、身体的にも危険水域に入ってますよね」
「貴族令嬢として、きちんと乙女は守っておりますわ」
「それ完全にアウトなヤツのテンプレ言い訳ですよね……。本当に、お見事です。お嬢様」
「今回の話での、わたくしは『一番身近な、家族のような存在と思っていたのに……いつのまにか……、ポッ。』をやりたいのですわ」
「ですが、そのテンプレでは、清らかな関係が前提なんですよっ!冷遇期間を味わった後や、婚約破棄された後で、これまで支えてくれた彼の素晴らしさに、ようやく気が付くのです。相談女が、身体で慰められている関係では、読者だって共感は致しませんよ」
「そんなことありませんっわ。皆様だって、やってますわっ! 『わたしってば、魅力ないのかしらっ』て、無自覚に他の攻略対象に迫っては、チュッチュしたりされたりしてますのよっ! 『家族なのだから、コレは普通のことよ……』と言いつつも、独りベッドで身体を火照らせる……。わたくしはこーゆう、女主人公ちゃんがやりたいのですわっ!」
「供述内容もクソですが、自覚的に迫ろうとしている段階で、既にアウトなんですってば!! せめてもっと他の……、捕まらなさそうな、相手にしましょうよ」
「……仕方がありませんね。今回はそう致しますわ」
そう言った黄薔薇姫は、午後のティータイムの楽しみながら、カラーグラビアのついた雑誌のようなものを、眺め出した。優雅に紅茶を味わいながら、誌面をじっとりと目を凝らすように見つめている。
「……その、お嬢様は先ほどから、何をご覧になっておいでで?」
「今期の攻略対象のカタログですわ。家族枠キャラは、チェンジも逆ハーできない貴重品。選べるのは、たった一人だけ。この中から次のわたくしのお相手を、見つけるのです。最初のポ◯モンと同じぐらいの慎重さで、選ばなくてはなりません」
黄薔薇姫、口では一人と言いながらも、コンプリートしたいという欲望を、隠しきれていないぞ……。
執事は呆れつつも、監督するべく、カタログを横から一緒に、覗き込んだ。
―――兄弟親戚枠――――――――――――――――
お義兄様 ヤンデレな支配系モラハラ
義弟ちゃん、反抗期拗らせ腹黒厨二
従兄弟くん 素直になれないデレ無しツンの毒舌クソ野郎
―――使用人枠――――――――――――――――
側付の執事 実は隣国の王子
側付の従僕 孤児院出身の記憶喪失
側付の護衛騎士 敬愛を抑えきれない
庭師の孫 敬語無しを許すほど特別扱い
男の娘系侍女 町で拾った調教済
コック見習い 素朴で感激屋で女主人公強火担
家庭教師 大切なことは、その身体に全部教えて、ア・ゲ・ル♡
――――番外 ご都合装置の不思議枠――――――
聖獣 ペット枠兼任 元気っ子ショタ
精霊 外部魔力バッテリー ヤンデレ不思議ちゃん
悪魔 ざまあ補助器具 クール系性格破綻者
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「……十三人も。めちゃくちゃ、多いですね……」
「今シーズンの兄弟親戚枠はハズレばかりですわね。となると……」
黄薔薇姫は、菓子皿に並べたクッキーの中から、赤いジャムの乗ったものをつまもうとするが……。
「あらかじめ宣言させて頂きますが、私は謹んで辞退させて頂き来ますっ!!」
「……では、聖獣か精霊のどちらかですわね」
代わりに、チョコレートとクリーム色の二色の生地をリボンのように絞ったチョコレートリボンのクッキーを選ぶと、口へと運んだ。
聖獣と精霊、その二体ならば、身体年齢もおそらく成人済なので、悪戯をしても問題はなかろう。
結局、両方ともお取り寄せした黄薔薇姫は、楽しい日々を過ごし、無事に王子との婚約も解消したんだとさ。
めでたしめでたし。