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悪役令嬢の主人公ムーブその2 ▶庇う

謎の庇うムーブと自己犠牲、非暴力主義、あるいは「キズモノのわたくしでは王子には相応しくないのだわっ」などについて。


長いので、前置きの小話の後、以下の項目に分かれる。


前置き小話

1,どうして庇うのか

2,『庇う』を決めた後の負傷について

3,ヒドインとの対決での、負傷について 

 孤児院への視察への帰り、狭い道で怪しげな集団に囲まれてしまった、黄薔薇姫と婚約者の王子。


 護衛たちの隙をついて、王子を狙う襲撃者。 


 黄薔薇姫は王子を庇おうと、彼の前へと身を投げ出すと、胸元で大きく両腕を広げ、通せんぼするように構える。


 王子を守らなくては、その一心で盾になるも、恐怖のあまりに、思わずギュッと目を瞑ってしまう。


 キンキンキン。

 迫りくる刃が煌めく。


 キンキンキンて、黄薔薇姫、武器とか所持してなかったのに、いつの間に三回攻撃したの?


 ただのレーサパンダの威嚇みたいな構えだよね?

 あんなにかわいくもないから、なんの攻撃力も無いのに。何が起きたの?


「お嬢様、またもやテンプレがすぎますよ」


 そう指摘した、執事の介入による擬音魔法によって、黄薔薇姫は無事だったのだ。


 なんだよかった。

 これなら怪我も無くて、安心だね。


「特殊スキル系も、剣術経験もない素人が、どうして飛び込むんです? なんで縮地かませるんです? 本職の護衛騎士に任せずに出しゃばってくる意味が、全く分からないし、短距離ワープを使える私よりも早く動けるなんて、お嬢様の火事場の馬鹿力は、おかし過ぎます」


 火事場の馬鹿力ではなく、黄薔薇姫の主人公ムーブ時におけるテンプレ補正の掛かった強制力である。


ご都合主義のバワーは、偉大なのだ。


「だって、放っておけなくて……。わたくしだけが守られてるなんて、嫌だったの」


 ちなみに、図にすると、こうなる。



―襲撃者が現れた!―――――――


 ● 

 ●   ○ ○

 ●  ○ ○◎○    ◆□◇ 

 ●   ○ ○                                        

   

――――――――――――――――

王子◎

護衛○

襲撃者●


黄薔薇姫◆

執事レビ◇

孤児□

――――――


「この距離感で、護衛を抜いて庇えるって、明らかにおかしくないですか?せっかく後方にいたのに、いきなり飛び出して護衛対象が増えては、騎士たちも混乱して、動きにくくなってしまいますよ」


「確かに、王子が心配で無茶をし過ぎましたわ。ちょっと記号が多すぎるし、閲覧環境によっては崩れてしまうから、これは叱られても仕方がありませんわね……。反省しておりますわ……」


 コイツ、本当に口だけだなと、執事レビは呆れた。


 黄薔薇姫はいつだって、隙あらば、主人公ムーブを決めたがるのだ。


 近くに悪魔執事がいたことから、絶対に自分は怪我をしないと分かっての、行動だろう。


 いくらテンプレ主人公ムーブだって、状況をみてからにしてくれ。

 騎士たちへの負担だって、少しは考えて欲しい。


「あと特に説明しておりませんでしたが、図にあるように、お嬢様は、孤児院からイケショタをテイクアウトしています」


「この子は隣国の王子ですの、うちで側付の執事にするために調きょ……教育をしてあげるのですわ」


「余所の国の王子って分かってるんなら、お国へ帰してあげましょうよ」


「内乱とか、妖精の悪戯とかいろいろあるのですわ」


「このままだと、確実にお嬢様に()()されてしまうじゃないですか……」


「そのテンプレは又の機会にして、今は目の前の襲撃者に集中よっ!」


「……それならもう護衛騎士さんたちが、制圧してくれましたよ」



◇◇◇◇

1,どうして庇うのか



 黄薔薇姫。 

 どうして、剣術や護身術やってる系じゃないのに、王子を庇いに行ってしまったんだい?


 仮にちょっと経験があっても、お稽古程度のものだろうに。

 本職には程遠いのに、どうしてなの? 


 訓練ではツヨツヨ特級魔法使いや剣聖なのに、人を傷つけたくない系の非暴力無抵抗タイプも、執事にはよく分からない。

 

 格闘家がプライベートでは喧嘩しないとか、警察官や自衛隊員が、変なのに絡まれたりなどの、苦労話も聞くが、ここは異世界だ。

 

 さらには、要人警護中での制圧目的の正当防衛のはずでは?


 命奪うのまでは、自分にはちょっと……というのは、まだ分かる。

 戦闘職や護衛にはつけなくても、支援職や自衛はできそうだから、安心だ。


 そういうところの葛藤やリアリティを追求する表現もあるだろう。


 でもこういう時に前に出たのなら、キチンと反撃しようよ。


 「護衛や侍女が傷つくのは見たくないの。だから、わたくしが」

 

 それで無茶されても、下手したら全員が(物理的にも)首になるんだが?


 大人しく守られるという役目に、徹することが出来ないならば、引きこもっとけ!!


 虫は殺せても、流血体験は魚を捌く程度。肉はスーパーの加工済しか知らない。そんなテンプレ日本人がモチーフのキャラが、食肉加工や害獣駆除に抵抗を感じる描写には、共感もする。


 だが『庇う』ものの、打つ覚悟も打たれる覚悟もない上に言葉での抵抗もしないヤツは、本当に毎回毎回、何なんだよ!!


 監禁先で他の被害者が虐げられる姿に思わず飛び出すも逆らえない状況や、ドアマット歴が長すぎて暴力に身を竦ませるしかできないという状況ならば、理解もできる。


 だけどこういう謎防御には、疑問を感じてしまうのだ。

 

 主人公の葛藤や、精神的な成長は、余所でやって欲しい。

 非暴力主義や無駄な自己犠牲描写を、事件現場で貫かなくても良かろうに。

 

 その後護衛が怪我をして、自責の念に駆られる流れは、マッチポンプというのでは?  

 

 瞳を潤ませ、慈愛の表情を浮かべつつ、傷を負った護衛を看護する黄薔薇姫の姿を、執事は怪しんだ。


 もし、彼女がわずかでも傷ついていたら、もっと大変なことになっていたはずだ。


 傷物になったから「責任を取って下さいましな」の展開か、「ここまで僕を大切に思って庇ってくれるなんて」の王子感激か、「傷物のわたくしでは王子には相応しくないのですわっ、ヨヨヨッ」とかを延々と繰り広げる、そんな恐ろしいお約束を招くのだ。


 周りの迷惑よりも、自分の心情が第一の主人公ムーブ。


 『庇う』とは、なんとあざとくて、迷惑で、見事なテンプレ芸なのだろうか……。


執事は、ただため息をつくしか、無かった。



◇◇◇◇

2,『庇う』を決めた後の負傷について



 大きな痕や火傷が残って、容貌に深刻な変化が生まれてしまえば、戸惑う気持ちは分かる。


 大怪我や大病で大事なイベントを逃し、葛藤する展開もあるだろう。


 しかし、これらのテンプレでは、大概「え? たったそんだけ?」とツッコミ待ちとしか、思えない軽傷しか負わない。


 ちょっとした怪我、光に当てるとわずかに跡が透けて見える程度、服で隠れるもの、ほんの小さな切り傷など。 


 え? そんなの現実世界でも、よくあるよね? 

 


「本人的にはどうにも気になっちゃうのぉ!!」な前髪を切り過ぎた問題のようなもので、ヨヨヨッっと大騒ぎされても「そう……」と真顔で返すしかない。


 「ソンアコトナイヨー」待ちなの?


 でも、前髪問題ってそれでは解消されないから、問題なんだよね?


 『ベストなわたしちゃん』に回復するまでは、他人がどう言おうが、気になっちゃうもんなんでしょうが。


 乳癌での乳房切除後の葛藤、大きな火傷、傷によって発生した、自己肯定感が損なわれる問題や水着着たくない・温泉入りたくない問題みたいな、深刻そうな容貌ネタを、安易に取り扱いたくはないのかも知れないが、前髪感が出てしまうと、どうにもシラケてしまう。


 転生者ならば、その程度で騒がれない文化があると、既にご存知だろうし、目立たないメイクや、サポーターの開発研究も、出来そうだから、そんなも深くは、思いつめないのでは? 

 

 そう思うも、こういったことに関しては、何を言っても「気になっちゃうの」だから仕方が無いのだ。 


 執事だって、その複雑さには、すっかりお手上げなのだ。



◇◇◇◇

3,ヒドインとの対決での、負傷について  



 とりわけ解し難いのが、ヒドインちゃんの最後の悪あがきに、付き合っての負傷展開テンプレだ。


 それ、護衛置いてまで、わざわざ一人で行く必要あったの?

 

 どうして行ってしまうのか、全く理解できなくて、頭を悩ませた執事は、ひとつの結論に達した。



 これは、きっと、書いてない部分ってやつだ。

 

 この手の書いてないには「言わせんなよ。馬鹿」な察して欲しいタイプのあえての『無記述』と、単なる伏線の回収忘れ、記述漏れなどが想定される。


 ちなみに、素人執筆者であるテンプレ使いは、後者をやり勝ちである。

 

 書いたつもりのことは、大体いつも書いてないから、毎回こっそり加筆を繰り返している。


 だから、あれって? 感じた時にはどうか優しく指摘して欲しい。


 モラハラ上司染みたムーブでのご指摘では、素人執筆者だって、怯えてしまうんだ。


 お互いに傷つけ合うばかりの、悲しい悲劇を生むのはやめにしよう。 


 わざわざ立ち止まり「お前、鼻毛が出てるぞ」と手間をかけてまで、教えてくれる優しい気持ちは、本当に有難いのだが、刺激的な物言いでは、こちらの心も筆も荒れてしまう。

  

 ムカムカが募りどうにも我慢が出来なさそうな時は、ささくれ立ったコメントを残すよりも、ブラバか、行間を読もう。


 多少の抜けがあろうと、空気や流れから、そこは読み取って欲しいのが、読書体験というものだ。


 だから、たった一人で、ヒドインに立ち向かう主人公に対して、執事は以下のような分析をした。


――――――――――――――――

 ①公爵令嬢は被害者にも関わらず、ヒドインの暗躍を許す隙があったのが悪いと、周囲の批判に晒されていた。


 ②このまま王子と結婚するには、貴族たちからの根強い反対がある。


 ③身を危険に晒してまで、ヒドインとの対話による解決を望む姿勢を見せたのならば、名誉回復からの、結婚展開に持ち込むことが出来ると目論む。


④結果、そんなのマッチポンプだろ。あざといんだよと叩かれて、余計に炎上。


⑤この国、民度低すぎ。メンタルの弱いわたくしでは、王家の嫁とか絶対に「ムリー!!ヨヨヨッ」っとなってしまった。


――――――――――――――――

 そういう流れ、だったんだよ……。


 悪魔執事には、人間社会や文化への理解が不足している。

 きっと、まだまだ読み解きが足りなかったのだなあ。



 ①や②の段階で、既に「ムリー!」となっていて、破談を狙っての、破滅的行動の可能性もあり得るのだから、人間社会とは、本当に不可解なものだ。



 同じ人間でも、前髪主人公ちゃんとは、相互理解が足りてなかったのだろうね。


 それは、仕方がないね。


 拾ってきた孤児にも、黄薔薇姫が類似した問題で、騒ぐ時には「ソンナコトナイヨ―」を使わず、真顔で受け流すように、勧めておこうと執事は決意した。

 

めでたしめでたし

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