悪役令嬢の主人公ムーブその1 罪を憎んで、過激ざまぁを望まず?
お題は、テンプレあるある展開のざまあ調理について。
1,女主人公が加害者ヒドインの減刑を望む謎
時系列がいきなり盛大にぶっ飛ぶが、今回は、最初からクライマックス。
本日の黄薔薇姫は、断罪イベントを仕掛けてきた男爵令嬢ピンク・ヘッドとの対決だ。
このヒドインであるピンク嬢は、王子や攻略対象に魅了を掛けて、逆ハーを築こうとしていたのだ。
けしからん、なんて破廉恥なヤツなんだ。
ピンクは、当然のようにいじめや犯罪の冤罪をし掛け、当然の様に証拠不十分に陥った。
冤罪、ダメ絶対っ!!
テンプレを重視する黄薔薇姫は、ここで正論論破をかました。
「愚かなことをっ! 魅了では、本当の人の心は手に入らないのよ!!それに攻略対象の皆様たちは、既にわたくしを囲む逆ハーレムのメンバーでしてよっ。いまさら魅了なんて、無駄無駄無駄ですわっ!!」
自分の逆ハー要員って、そのテンプレはアリなのか?
「なんと、あざといテンプレっぷり。さすがです。お嬢様!」
執事レビは、黄薔薇姫の見事なテンプレ仕事ぶりに、ハンケチを噛み締めるほどに嫉妬した。
「ズルい! 婚約者との関係作りや、幼少期のトラウマ改善までは見逃すけど、婚約者以外までしっかり誑し込むなんて、そんなの酷いわ!!」
解説のピンクも発想が変わらないから、正直どっちもどっちだ。
「そんなつもりはなかったのぉー。トラウマ成分を除去した心の隙間にウッカリ、わたくしへの愛が芽吹いてしまっただけ。皆様は悪くないわ!わたくしたちの培ってきた絆は、伊達ではなくってよ!」
「そんなのあんまりよ~!ならアリバイは?あなたがいじめをしたって言う証拠がココに……」
「アリバイに関しては、お約束の影軍団と王城での王妃教育の履歴がありましてよ! ほほほっ!! このアリバイは崩せまいっ!!」
「ぐぬぬっ」
もう、完全にどっちが悪役だったのか、分かんなくなってきた。
待てよ、証拠不十分って……。
もしかして、黄薔薇姫。いじめは本当にやってたんじゃないんですか…………。
「あの。お嬢様、ちょっといいですか?」
「なんですの?」
「今回のざまぁ対象は、ヒドインのピンクだけで、王子へのざまぁはないんですか? テンプレなら浮気婚約者王子へのざまぁも、かかせないのでは?」
盛り上がってるところになんだが、こちらのテンプレも見逃せないため、執事は確認を取った。
「そちらのざまぁは、また別件でしてよ。この作品内では、設定や時系列が常にパラレルですのよ。今回の話での、王子は裏切者ではなくってよ。浮気クソ野郎に関しては、いずれまた語りますので、今はただ目の前のヒドインちゃんへと、集中なさいっ! よろしくて?」
「アッハイ。でも王子が裏切ってもないのに、何で逆ハーを築いちゃうんですか?それってむしろお嬢様のほうが、裏切ってませんか?」
「全く、あなたという人は……。何をおっしゃってますの? いいですか? ヒドインにマウントを取るには、ハイスぺイケメンは不可欠でしてよ!! 特に逆ハー展開は装備品の相乗効果によって、更なる高みから馬鹿女を見下せるという、ハイマウントポジションを、決められるのですわ!!」
コイツ、男はマウントのためのアクセサリーって認めやがったな。
今回の黄薔薇姫は本当に悪役な方の、テンプレクソ悪役令嬢だ。
いくらピンクが犯罪者だったにしろ、黄薔薇令嬢だって虐めもしてたみたいだし、身分や財力、男とのコネを勝ち誇っているヤツでは、主人公適性に欠けているのでは?
これではいいねという、みんなからのガンバエ―の声援だって、貰えなくなってしまうぞ。
「仕方がないですわね。逆ハーで、いろんな殿方との胸キュンを味わい尽くした今のわたくしは、寛大でしてよ。今回は軽めざまぁで、済ませてあげましてよ」
ヒドインを見逃す展開も、軽めざまぁも、その程度でざまぁタグつけるなとか、揉める原因になるというのに……。
お前は一体、何を言っているんだ?
「えっと……。つまりピンクは情状酌量の余地ありってことですか?」
刑を軽くする理由が、相手側の抱えている事情を配慮してではなく「わたくし今リア充だから、細かいことは気にしないわ」で、本当に良いのか?
そんなざまぁって、アリなのか?
誰得なんだ? 執事レビは訝しんだ。
「分かったよ、君がそう望むのなら……。フフフ。本当に、君という人は……。そんなふうに慈愛に満ちた君は、やはり未来の王妃に相応しいね」
え? 王子許しちゃうの? チョロ過ぎない?
黄薔薇姫がアリって言ったらアリなの?
こんなふうに、気分で法を曲げて、犯罪者を庇う女が、王妃ではマズイのでは?
この国、本当に大丈夫か?
わたしが法だ的な王族が法の上に立つ国だとしても、法を曲げるからには、それなりのお題目が必要なのではないかと、執事レビは疑念を抱いた。
①情状酌量の余地があるから
②階級社会の生んだ被害者だから
③まだやり直せる若さだから
④乙女ゲームでは主人公だったから
②③は、分かる。未来のある若者。
敵キャラとはいえ、大したことはしていないなら、直接の被害者としては、思うところは多々あっても、法に則った更生を願っても無理はない。
①は場合にもよるが、今回に関しては、さすがに意味不明だ。
こういうのは、身内が人質にとか、貧困で追い詰められてなどの動機だからこそ、配慮されるのである。
ムシャクシャしてやった、遊ぶ金欲しさ、チヤホヤされたかっただけなどでは、そのような理由にはならない。
同様にリア充だから見逃してやるも、あり得ない。
④にはあまりにも、共感ができない。
黄薔薇姫ってば「ここはゲームの世界ではないのよ」とか、散々語っといて。
現実世界を持ち込むの野暮だが、被害者側目線に立つと、加害者が精神疾患扱いで罪が軽くなると、プロのお墨付きにも拘らず、詐病じゃねえの? って疑うほどに、性格の悪い執事的には、ヒドインが乙女ゲーム脳だからって、助ける展開は無しなのだ。
◇◇◇◇
2,ざまぁ不要論とざまぁを望む声について
ラブコメを読みたかったのに、過激ざまぁは不要という理屈も、理解できる。
確かに、あれは時にノイズになる。
本来、主人公とヒドインとの攻防とは、ラブコメを盛り上げるための一種のスパイスなのだ。
ラブコメのラブの部分にこそ、ピリリと際立つ刺激が欲しいという考えにも共感する。
もちろんコメに力を入れたラブコメや、ラブアクションやら、ラブファンタジーやら、本当にいろいろとある。
恋愛要素は、非常に汎用性が高いのだ。
マンガ原作のドラマとか、混ぜなくていい所にまで、混入されてしまうほどに恋愛要素は、使い勝手がいい。
だから当然、ざまぁとも共存ができる。
しかしざまぁ由来のスパイスは、依存性が高いし、効かせ過ぎてしまうと、他の風味を殺してしまうこともある、難しい調味料でもあるのだ。
『過激ざまあ派』『ざまぁ控えめ派』で対立やレッテル張りが発生することもあるが、たぶん、普段見ている創作物の畑が違うせいだ。
どっちの思考が上等だとか、そういうことが言いたいのではなく、トウモロコシとイモとでは、全然違うというだけの話だ。
お互いの創作物に求める普通の価値観が違うから、すれ違っているだけだ。
ここはジャンルコメディなので、論争は期待していない。
違うなと感じたら、そっとブラバを推奨する。
「わたくしのお口には合いませんでしたわ」は良いけれど「辛すぎクソ」「この程度で激辛を名乗るな」という書き込みは、みんなも控えようね。
そんなわけで、謎の御都合機関である修道院や、手頃な怪しい商人への嫁入り、あるいはそっとフェイドアウトというような、ソフトスライディングざまぁは、読後感を汚さないという手堅い安心感から、好まれる。
物語の締めの部分で、着地に失敗し、あまりにトンチキなお花畑理論へとたどり着いてしまうと、それまでの、読量で培ってきた主人公との一体感が、崩れさってしまう危険性があるからね。
ここまでせっかく面白かったのに、なんだか勿体ないなぁという思いから、それまで培った好意が裏返ってしまった結果、ざまぁ過激派的呪詛を生みだしてしまう危険性には、執事だって、冷や汗を掻くのだ。
◇◇◇◇
3,適切なざまぁとは、何か
アン〇ンマンは、ばい〇んまんを「ハヒフヘホ」する。
ポケ〇ンでも、〇ケット団は「やな感じ」になる。
さすがに、あれにはクレームも入らないのだろう。
たまに、違うオチで終わらせる回もあるが、基本は毎回これで、閉めている。
一話完結、三十分なら、こういうお約束的なフェードアウトで終わらせたほうが、まとまりが良いのだ。
「謝ったらみんな仲良し。平和だよ」の「仲良し」にまで持っていくのは、難易度が高い。
序盤のドアマット描写がハード過ぎると、(直接の被害者ではない読者的にも)仲直りは不可能だし「ごめんね」的な禊も、重要なのだ。
全部スルーして、今の黄薔薇姫みたいに「喧嘩はやめて!わたしのために、争わないでー!!」みたいなノリは、正直キツイ。
そもそも黄薔薇姫自体が、応援したい主人公ちゃんではない。
ただの御都合テンプレ、クソビッチなのだから。
ガチ箱入りな人格的にも、ぐう聖な聖女キャラな主人公ちゃんならば、ヒーローくんの暗躍による、お任せざまぁも、アリだろう。
このタイプの子、ドアマットターンでも、自分だけが、酷いことされてるって自覚が、あまりないからね。
勝手に心配になってしまう。
「ヒーローくん。うちのコ、少し頼り無いところもあるんだけど、根は真面目な良い子なの。どうかよろしくね」って、勝手に保護者気取りになることすらある。
(お前んちの子じゃねーから)
ヒーローくんがダメ男っぽいと、「大丈夫よ、ほらココに、もっといい人がいるから」ってお見合いオバさん化して、当て馬くん推しにも、なってしまう。
主人公ちゃんが追放されて国から捨てられてるのに、ピンチを助けに戻る展開には、毎回悩まされてしまう。
職業倫理への過剰要求、やり甲斐搾取感を、勝手に受信しては、ハラハラしてしまうのだ。
元聖女や元貴族の役目でしょ展開には、公務員だからって、何でも押し付ける系モンスターや、神様扱いを要求するカスハラ臭を感じ、何だかゲンナリしてしまうのだ……。
そんな現実世界でのつらたんを、物語の中でまで、深く味わいたくないのに。
主人公ちゃん、それでいいんか?
搾取され続けてて、君は、本当にいいのんか?
オバちゃん、主人公ちゃんには、ちゃんと幸せになって欲しいんだよ!!
(だから、お前んちの子じゃねーから)
この辺りの地雷除去が適切な作品は、心地よく、非常に安心感を感じる。
長年野放しにしてきたクソ妹を、公衆の目前で正論論破しただけで、同居継続での、再教育。
冤罪吹っ掛けや迷惑行為を繰り返した、頭ピンク男爵令嬢を、側付きの侍女にして雇用。
白い結婚で長年DVかましてきた元夫と、今後も取引先としてお付き合いしたり、落ちぶれ展開なら、使用人として、わざわざ雇う。
そういう展開は、本当によく分からない。
(※特定の作品への批判ではなく、人や世の中を信用できないタイプの、個人の感想です。)
警戒対象を、わざわざ、自分のテリトリーに入れる意味が、全くもって理解できない。
ドMなの? フラグなの?
ソイツ、絶対に反省してないよ。
例え、その場では後悔してるにしろ、またやらかすに、決まってる。
主人公ちゃんには歯向かわなくとも、力を得たら、絶対にまた迷惑行為を繰り返すんだ。
周囲に保護責任を問われることにだって、なるんだよ!!
オバちゃん、主人公ちゃんには、もっと安心できる生活を送って、欲しいんだよ!!
(※手も貸さないくせに、口だけ挟むような、厄介な親戚タイプの、個人の感想です。)
分かっていて、檻の前で「カワイソウ」って煽る作品は、大好きなんですがね。
◇◇◇◇
4,今回のお裁き
そんなわけで、黄薔薇姫の御慈悲によって、ヒドインである男爵令嬢ピンク・ヘッドには、甘いお裁きが下された。
薬物乱用、王族・上位貴族への敵対的魅了行使、窃盗・器物破損、上位貴族への冤罪なすり付けによる名誉棄損等という罪状でも、判決への疑問からの、政治不信は招かないよう、王子だって、配慮は欠かしていない。
命にはかかわらないけど、しっかりと後悔して、更生ができそうな、安心安全の修道院送りだ。
今回は「わたくしの幸せに嫉妬して、遠くでハンケチでも噛み締めてなさい!」という、フェードアウトのオチとなった。
ピンクちゃん、特殊研究所での治験モルモットにならずに済んで、本当によかったね!
◇◇◇◇
5,ヒドインその後
今日も、彼女は特定保護施設、通称『修道院』での、勤労に励む。
黄薔薇姫に感謝を捧げる『ハンケチ噛み締め』の儀がその役目。
「キー、悔しいぃ。あんまりだわぁー」
虚ろな目をしたピンクは、今日も棒読みで、ハンケチを口元へと掲げると、しっかりと噛み締め、食いしばる。
前歯と胸元の両の手で、ひたすら引っ張り続ける。
緩みたるみ、手抜き、力任せの引きちぎりは許されない。
ハンカチが破ければ、新しいものへ交換し、再度噛み締めの儀を続ける。
通常の下働き以外の時間は、毎日これを監視付きで、正しい姿勢の元、五時間行う。
なんて、無意味で馬鹿らしくて、退屈で、前歯と顎だけが発達する苦役なんだろう……。
日々の作業の影響で、すっかり鍛え上げられてしまった。
小動物みたいで、カワイイが売りだったピンクの今のあだ名は、げっ歯類。
同じ小動物系でも、完全に前とはニュアンスが違うし、顎が異様に発達したせいで、顔の輪郭までもが変わってきてしまった……。
もう、取り返しがつかないよ…………。
お顔のバランスが崩れて、明らかにおかしな感じに、なってきている。
ここまで変わってしまったら、美少女キャラを自称することなんて、もはや、出来る訳もない。
こんな目に遭うとは、思ってもいなかった……。
シャバに出ても、頭のおかしい権力者には、絶対に近寄らんとこうと、ピンクは堅く誓うのであった。
めでたしめでたし
じゃあお前は、どんなざまぁならいいんだよって言われると、悩んでしまいますね。
それぞれの物語的に、しっくりくるオチが書きたいですね。
今後も必要に応じたざまぁを書きますが、タグがあるのに肩透かし、みたいなのは避けたいので『ざまぁ』タグは慎重に付けたいです。
あと『ギャグ』タグ付いてるのに、笑えないとかは、どうか許してあげて下さい。
(どんなに滑ってたとしても)本人的には面白いと思って、書いてしまったんです。
「お寒くてよ」という御指摘は受け付けますが、そのタグ不適切では?とは触れないであげて下さい。
そっと付け替えておきますので。