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ビックリした!! 本当に驚いた。


プーが咥えて持って帰ってきたのは、牡鹿だった。立派な枝角は片方は折られて欠けているが、揃っていれば威厳ある大きさだっただろう。




そろそろアンディさんに話をさせてもらうつもりで、腰を上げたら奥から足元を黒い塊が通りすぎた。

扉側の小さい扉はランディ用の出入口みたいだ。扉がヒラヒラと稼働している。


用を足しに外に出ていたイーゴルの声が聞こえてくる。


「ビックリした! ランディ、先生を呼んでこい」

キャン!

と、ランディの声がすれば、ヒラヒラと稼働している扉からランディが顔を出す。


「聞こえていたよ。外に出れば良いのかい?」

と、ルディー医師は顔だけを覗かせているランディに話しかければ、


キャン! と、ランディは返事をする。


「先生?」

と、身支度をしていたカミールが声を掛けてきたが、イーゴルは2人を呼んでこいとは言わなかった。


「大丈夫だよ。イーゴルが呼んでいるようだ」

と、手を振って扉を押し開けて驚いた。


目の前には大きな牡鹿の長い首を咥えているプーがいるのだから。


これが街の中で、猫が山ネズミを咥えて彷徨いていても、それなりに引きそうな場面ではあるが、牡鹿を咥えている猫がいたら人は逃げ出すと思う。


……び、び、ビックリした!! 本当に驚いた!


「…………なんで? 牡鹿?」


「そらぁ、食べがいがあるからでしょう。小鹿は後々大きくなるまで待てばいいし、牝鹿は子供を何回か生むから残しておかないと」

と、イーゴルがプーの代わりに説明してくれる。


「そうか……そうだな。僕はアンディさんがプーが鹿を捕って来ると言ったときに、てっきり小鹿だと思っていたから驚いたよ」

と、正直に感想をイーゴルに伝えた。


「まぁ、肉としては小鹿の方が美味しいけどさ。

プーさんよ、それぶら下げてないで下ろして良いよ」

と、イーゴルは扉前で座って鹿を咥えたままのプーに言うと、まだ絶命していなかった牡鹿が目を剥いて暴れた。


プーは咥えた首を離して鹿を落とすと、立ち上がろうと脚をバタつかせている鹿に、今度は確りと首を折る。


「イーゴル、ナイフを貸して」

と、側で見ていたルディー医師が、急に動き出した鹿に仰け反って離れたイーゴルに言う。


「ルディー先生が捌くのか?」

と、イーゴルは腰から短刀を短刀帯から出して、持ち変えずにそのまま差し出してきた。


「僕は外科の方が得意だと言っただろう? イーゴルより綺麗に捌く事が出きるよ。

アンディさんに言って入れ物を沢山出して貰って」

と、プーが仕留めた牡鹿を捌くために、プーに脚を退けてと前足をチョンチョンと触れば、プーはノッソリと横に避けてくれた。


「アンディさんを呼ぶ前に、出入口じゃなくてあっちの傾斜に持ってこうぜ。血抜きするんだろう? 先生一人で運べるのか?」

と、大きな牡鹿を見下ろしてイーゴルは言ってくる。


「それもそうだな、引きずれば傷みが早くなるし、折角プーが生かして持って帰ってくれたんだ。運ぶのを手伝って」

と、イーゴルに言えばそっぽを向いて顔を洗っていたプーが、折った首を咥えて運んでくれるらしいが、さっきよりあり得ない角度に曲がった鹿は運び難そうだった。


プーの排泄場より奥に、鹿の頭部が下向きになるようにプーに運んでもらう。今まで生きていたから首を落とすのは後にして、肩にナイフの刃を差し引き抜く角度を考えて、体の位置を見る。


イーゴルはルディー医師の正しい捌き方を見てアンディさんを呼びに行ってもらった。

今朝のプーの便を凍らせたように処置を手伝ってもらえると肉の処理も味も良いものになる。

食用肉に向いているかは外見だけでは分からない。表皮を観察すれば顔や性器に排泄口にも獣臭以外に異臭はしない。内臓が侵されてはいないようだが、捌いてみないと確かではないが、プーが持って帰ったならば食用として問題が無いのだろう。


……精肉屋なら、吊って捌くだろうが医師げかは横たわっているものを捌くに慣れている。

捌くとは言わないけれど……


イーゴルとカミールにアンディさんが、桶や鍋にと色々を持って小屋から出てきた。血抜きをしながら何匹かのダニを潰して、薄くお腹を割いていく。


「先生! お待たせ」

と、イーゴルが言って血抜き具合を見てくる。


「大きな鹿ですね」

と、アンディさんも驚いて見ている?


「いつもの事じゃ無いの?」

と、ルディー医師は疑問に思って聞いてみた。イーゴルもカミールもなんで?驚いているのだと表情に出している。


「えっ?、プーが仕留めて持って帰るのは兎や小鹿なので、こんなに大きな鹿は初めてです」

と、アンディさんは答えた。


……オイオイ、プー。僕達がいる間に解体させるためにわざわざ捕ってきたんだな。

スージィーさんが魔女でも肉の解体は……出来るのか?


「まぁいいや、アンディさん。この鹿を少し強い水圧で洗えますか?」

と、ルディー医師が聞くと、


「はい、洗います」

と、アンディさんが手を翳したので、ルディー医師とイーゴルは素早く離れた。

が、カミールはアンディさんの水魔法を眠っていて見ていない。


思い切り跳ね返りの飛沫を浴びて、水浸しになっているカミールは、イーゴルを睨んで歩み寄っている。


……いやーー、驚くよね。あれだけの水魔法を見せられたら。


「アンディさん! それくらいで良いよ。もう少し後でも手伝ってもらえる?」

と、ルディー医師はアンディさんにお願いすれば、

キャン! と、ランディが何故か? 返事をした!


洗ってもらった牡鹿の腹を薄く割いた所をナイフを斜めに筋膜を切っていく。ある程度切れて皮を巻き戻らないようにして腹を裂く。

内臓が見えれば周りの筋膜を慎重に切っていき、膀胱と性器に大腸は桶に入れて洗ってもらうが、他の内臓は別々にして洗う。


「内臓は各々綺麗に洗えたら、アンディさん! 今朝の様に凍らせてもらえますか?」


「えっ? 凍らせるのですか?」


「はい、内臓は痛むのが一番早いので、ランディやプーの分は肉の方が良いでしょう?」


「あっ! はい、分かりました。各々凍らせて氷室に入れますね」


「「「えっ? 氷室があるのかい?」」」

と、ルディー医師とカミールにイーゴルは声を揃って問う。


「あのぅ、スージィーさんが使っていたのが有るのです」

と、アンディさんが答えた。


……折角の肉だし処理をしときたいが、僕は何をしにここに来たのか……昨晩泊まらせてもらったが、連絡してないし話も出来てない……


「ルディー先生! 計画通りいかないと面白いですね!」

と、何となく落ち込んでいる風のルディー医師に対して、イーゴルはまだ無邪気に言ってくる。


「先生、すまない。帰ったら俺から説明するから」

と、カミールまでも何かを察して言ってくる。


「折角、プーが仕留めて来た牡鹿を無駄に出来ないしね、手早く解体しようか。

アンディさん、脳ミソは食べるのかい? 角は薬にする?」

と、内臓を洗って凍らせているアンディさんに問うと、


「角は薬に出来ますが、脳ミソは開いてみないと……」


「プーがさっきまで生かしていたから、綺麗だと思うけど、先に開く?」

と、ルディー医師は牡鹿の頭部を見ながら言うと、


「先生、凄いな! ここまで綺麗に解体できるんだ!」

と、イーゴルは肋骨と背骨に骨盤しかない、首付き皮と骨しかない物体を見て言ってくる。側には4本の脚が並んで置いてある。


「医師……外科医師ならみんな出来るよ」

と、ルディー医師が振り向いて言うと、離れて寝そべっていたプーがいつの間にか側に来て、ルディー医師は大猫にマーキングされた。

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