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ポルカ医院での内科は、ザーム医師とトッポ医師の奮闘に周りの職員からの支持を受けて問題無く従事している。
……ロード先生には感謝だな。ザーム医師もトッポ医師も成長著しい……始めから僕の指導では、こんな風にはなっていないだろう。
「ヤミーナ、2人の先生はどうだい?」
と、ルディーは今日診察の担当で組んでいる看護婦にザームとトッポの事を聞く。
「そうですね。お二人とも診察は丁寧ですしよく患者さんを診ています。ルディー先生贔屓だった方にも受け入れられて来ましたし、後は嘘を見抜く事が出来ればなお良いですね」
と、ヤミーナは評価と課題を言ってくる。
……流石に良く見てくれている。僕が聞きたいことを理解して伝えてくれるのは凄いな。
「嘘か……難しいなぁ。僕なんかまだ全然分からないよ」
と、ルディー医師が答えると、
「あら、ルディー先生は患者さんの嘘は見抜いているじゃないですか。
この前のノルバお婆さんの誤魔化しを見抜いてましたし、あのお婆さんは手強いですからね」
と、ヤミーナは褒めてくれる。
「あぁあぁ、ノルバさんはそれだけ頭がしっかりしているんだよ。あそこまで完璧に嘘を付けるのは考える力があるからだしね。身体に影響の無い嘘なら僕は騙されても良いけど、調子が悪い事を誤魔化される事は騙される訳にはいかないからね」
と、ルディー医師は笑って答えた。
「そうですね…………本当に患者さんの嘘はちゃんと見抜く事が出来るのにねぇ……」
と、含みが入った言葉をルディー医師に向けて看護婦ヤミーナは言ってくる。
……むぅ? なんだなんだ! えらく嫌味がかってないか?
ルディーは午後から往診をする患者さんのカルテを確認して、ヤミーナから言われた事が少し気になった。
……ヤミーナは何と言った? 患者さんの嘘? 患者さん? 患者さんじゃないと見抜けて無い? ってこと? かなぁ……
往診の帰りに教会に寄るつもりで考え事をして歩いていると、肩をチョンチョンと叩かれた。
「何?」
と、ルディー医師が振り向くと騎士団のエルトさんが立っていた。
……わぁー、何時も往診の帰りに出会うなぁ……
「こんにちは、エルトさん」
「なんだい? 難しそうな顔をして」
と、大きな体躯に似合わず騎士団副団長さんに気遣われる。
「あ! いえ、ここのところ色々有りまして、本業の医療意外で頭を使う事が無かったせいか、僕なんかが気落ちすることに慣れてなくて……」
「それは……うちの団員達も関係有ることか?」
と、エルトさんは左手で顎を擦り言ってくる。
「えっ! っと……どうでしょう?」
と、上手く誤魔化せずに答えてしまう。
「いや、すまねぇ。イーゴルがえらく先生に懐いたようだし、カミールが珍しく話してくれたので、迷惑を掛けていないか少し気になってまして」
と、ガハァっと笑って言ってくる。
……懐かれて? 珍しく話す? ……普通の青年だよな?
「エルトさん、2人は騎士団に馴染めて無いのですか?」
「いえ、そうではありませんよ。イーゴルは一見明るいですが好き嫌いが激しくて気持ちが態度に出るんですよ。鈍いヤツにはバレていませんが、カミールが若いですが腕が立つのでそっちに懐いてしまって……ね。そのカミールは人付き合いが素直というか上手く出来る方では無いですから」
と、2人の団員の事情を話してくれる。
「そうですか、まぁ僕も年が離れていますので煩く思われているでしょうが」
と、ルディーが言えば、
「いえいえそれは先生の思い違いですよ。先生がイーゴルに言ってくれたんでしょう? 煩わしくても先輩騎士の話を聞くことも大事だと、馬鹿正直にルディー先生に言われたとイーゴルは言ってましたよ。煩わしいと思っていたことまで正直に言わなくてもいいのにな」
と、エルトさんは嬉しそうに教えてくれる。
「それは良かった? では、カミールは孤立してたりします?」
と、ルディー医師はイーゴルの調子の良さを鞍替えしたと考えて問うと、
「カミールは元々自分から話す方ではありませんが、他の団員達にも話をするようになってきてます。まだまだぎこちないですが、努力しているのは分かりますから周りはヘソを曲げ無い程度にはからかって鍛えてますよ」
と、エルトさんは教えてくれた。
……2人とも評価されているじゃないか。まぁ僕の影響というより、引きこもりの彼女の為なんだろうなぁ。
若い騎士2人が有言実行しているのを周りから聞くと、オチオチ落ち込んで要られなくなった。
……スージィーさんの事をハッキリさせないことには、アンディさんの事も公に出来ない。彼女を引きこもりから外の世界で生活出来るようにするためには、やっぱり色々手続きを踏まえないとアンディさんの意志よりも選択肢が無いのは困る。
「エルトさん、2人の話をしてくれてありがとうございます。色々悩んでも仕方ないと思えたので僕は今出来る事から取り掛かる事にしましす」
と、何にお礼を言われているのか分からないという顔でルディーの言葉を聞く副団長さん。
「まぁ、先生が難しい顔をしなくなれば、俺は良いけどな」
と、エルトさんが返事をしてくれたが、
「あの、騎士団の方ですよね」
と、中年の女性がエルトさんに前から声を掛けてきた。
エルトさんは騎士団の副団長さんだけど、ルディーは白衣を着て騎士団とは関係ないのが分かる筈。
「では、エルトさん僕はここで失礼しますね」
と、その場を外れようとエルトさんの顔に向き合えば、腕を掴まえられて立ち去れない。
……えっ! 何?僕は騎士団と関係は無いよね?
「もしかして……そちらの方はルディー先生ですか?」
と、中年の女性から声を掛けられる。
ルディーが返事をする前にエルトさんは、
「えぇ、そうですよ。ポルカ医院のルディー先生です。が、貴女は?」
と、エルトさんはルディーの腕を掴んだまま女性に答えている。
「はぁ~ぃ、僕はルディーですが何かご用ですか?」
と、ルディーも女性に答えた。
「不躾にお声を掛けて申し訳ございません。イーゴルの母親のパルナです」
「そうでしたか、俺は騎士団副団長をしておりますエルトです。イーゴルなら今日は騎士団の訓練場におりますよ。案内しましょうか?」
と、上司らしくエルトさんはイーゴルの母親に対して接している。
「いえ、イーゴルには会う必要はないので、上司の方にお話がなるのです。お時間を頂けませんか?」
と、パルナさんはエルトさんに言って、ルディー医師にも視線を向ける。
……えっ! 何故? こっちを見るのでしょう? モネさんと同じ誤解をされているとかかぁ?
イーゴルの母親の視線に気付いたエルトさんは、ルディーの腕を離すことなく周りを見回して話せる場所を探し始めた。
……ちょっと! 折角落ち込んでいた気持ちを浮上させてやる気になって来たのに……何か嫌な予感しかないけど……
「先生、悪いが付き合ってくれ……」
と、ギリギリ聞こえる大きさの声でエルトさんが言ってくる。
「確か、この筋を教会に向かえば少し開けた子供達の遊び場がありますよ。僕は教会に行く途中でしたのでそちらでもいいですか?」
と、イーゴルの母親とエルトさんに向かって言うと、エルトさんはパルナさんの返事を聞くでもなく足を向けて歩き出す。
必然的にエルトさんに掴まっている腕は、無理やり引っ張られる形で子供達の遊び場に向かう。
振り向けば我が母親より少し若いイーゴルの母親は、問題が無かったのか付いて来る。
「先生、イーゴルの変化は先生だけの影響か?」
と、遊び場が見えてきた手前でエルトさんが、聞いてくる。
……僕の? 影響?……無いでしょうそれは。




