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モネさんの話を聞き終えて、僕が無関係だと理解した彼女は何度も何度も頭を下げて謝る。
「モネさん、もういいよ。誤解が解けたならイーゴルとモネさんとの話合いで済むよね」
と、ルディー医師は治めようと提案をする。
「私がいくら問いただしても、ルディー先生の用事だからと言って、先生の守秘? 義務だと言われて何も答えようとはしません。
ならば、先生に直に聞くつもりで来たのですが、お騒がせをしてすみません」
と、再度モネさんは恐縮しながら謝る。
「モネさん? 顔色が悪いね。体調が悪いのなら診察をしましょうか?」
と、ルディー医師は始めからそのつもりでいた。
「いえ……別に体調が悪いわけではありません……」
「では、紹介状を書いた方がいいですか?」
と、ルディー医師は隣に座っているトッポ医師に視線を向けると、トッポ医師は自分の診察鞄から書類の束を出してきた。
「たまたま、ベースさんの義肢の依頼を出すつもりで用意していた紹介状があります」
と、トッポ医師は担当患者の為の用紙を出してくる。
「トッポ先生は、街のナガミさんは知ってるかい? 」
と、ルディー医師は書類を書きながらトッポ医師に問う。
「街の? と言いますと、産院のですか?」
と、トッポ医師が言葉にすると、向かいで大人しく座っているモネさんが、ビックっと身体を固くした。
「モネさん、僕が紹介状を書きました。詳細を明記していないのは、モネさんから何も情報がないからで、疑いとだけしてあります。一人で行かないように誰かに相談して行って下さい」
と、書いた書類を畳んで、落ち着かなく動くモネさんの手に持たせる。
黙って受け取ったモネさんは、応接室を出ていったが、隣のトッポ医師の視線が痛い。
「ルディー先生! 何で分かったんですか?」
「トッポ先生。別に確信が合った訳ではないですよ。彼女の無意識な姿勢でしょうか? それに彼女はイーゴルを信じて僕に問題が有ると思った。
少し盲目的だなと感じたので、もしかしたらと振ってみただけですよ」
と、ルディー医師は答えた。
「そうですね。恋人が秘密を持って動けば不安になりますよね、彼女は献身的でしたから」
と、トッポ医師が言うと、
「ト、トッポ先生は恋愛感情が、わ、分かるのですか?」
と、ルディー医師はトッポ医師の男女間の心情に理解と憶測を言っているのを、驚愕な顔で聞く。
「僕にも恋人はいますよ。ルディー先生はいらっしゃらないのですか?」
「……残念ながらいたことはありません」
「それは、意外です。ルディー先生が選り好みをしているからですか?」
「全く、女性と親しくなった事が無いので、選り好みを出来る場面にもなりません」
と、ルディー医師は落ち込むが、そんなことよりイーゴルがルディーの名前を使って山に入っていることが問題だ。
「母さん、医院が休みの時にスージィーさんの小屋に行ってくるよ」
と、一緒に夕食を食べている時に言えば、
「どうして? ルディーが行くんだい?」
「どうして? 預かっている手紙の話はしたよね。開けてみたところ今までにスージィーさん宛に来た手紙や、スージィーさんの仕事場にも行かないと分からない事が多いんだ。
それに僕が行ったことで迷惑を掛けているかも知れないから、事情を聞いてくるつもりだよ」
と、いつもの報告をしながらの食事を続ける。
身支度が出来た側で、テーブルの上には母さんが用意してくれたお弁当が置いてある。
……今回は一人で行くつもりだったのが、バレたのかなぁ? 早く行って帰ってこよう……
スージィーさんの私有地になると、歩きやすくて山の麓の方が足場が悪い。土属性の僕は二回も通った道なら迷うことは無いが、たまに横切る動物に獰猛な物がいないことが不思議だ。
一回目は僕の後ろでカミールが剣を何回か抜き、復元出来ない音と鉄の臭いに、気が気では無かったが、二回目は前にいたカミールの剣は草や枝を落とす音と青くさがして、足元が悪いかったから周りを気にしていなかった。
今回は一人で山道を進むと、人に頼って歩いていた感覚と違う。
聴覚 · 臭覚 · 視覚とは別に皮膚感覚という本来人が持っている空気を読む感覚が、伝わる気がする。
その感覚が気のせいで無いなら、僕の後をゆっくり付いている四つ足がいる。
2本足の僕が歩く間と、微かに聞こえる四つ足の間が何処から付いてきていたのかが、分からない。
……楽天家の僕でもこの四つ足が、小動物で無いのは分かるぞ。
蹄なのか肉球なのか、僕の体重より重さが有りそうではあるが、確実に付いていないのは一頭では無い? 護身用のナイフは今回新しく購入して、腰に収まっている。
後ろからの気配を気にして歩けば、いつの間にか開けた場所に出た。
……な、な、何とか無事にたどり着いた。帰りは暗く成らない時間に帰らないと、待ち伏せされてるかも……ここにはランディとプーがいるから小屋の近くは安全だろうけど……
休憩も入れずに上がって来た山道に、何かに付かれて気も落ち着かなかった。
……父さんはよく山歩きを趣味にしていたよなぁ……数人とならいいかも知れないが……
外科でトッポ医師の担当患者ベースの話では、父 ロジックとは山仕事の合間に何回か出合ったらしい。
街のポルカ医院の医院長で、医師をしていたことも知らなかった。ただ優秀な息子が王都で勉強している事や、名前がルディーで自分と同じ土属性だから一緒に山歩きをしたいと言っていたらしい。
……母さんの話では若い時に、父さんと一緒に山歩きをした時に、蛇の巣に母さんが足を踏み入れて追い掛けられたらしく、それ以来は山歩きをしなくなった。
僕も蛇に追い掛けられたら二度と、山には入りたいと思わないだろう。
三年前の父の捜索では、奥さんのお産と重なり参加せずに知らなかったみたいだが、最近は見掛けないことに、後から山仕事の仲間にポルカ医院の先生が亡くなって、息子の先生が帰ってきていると聞いたみたいだが、山で合っていた父と噂の医師が一致していなかった。
……父は、外で僕の事を何と言っていたのか?
機会があればベースさんに聞いてみようか……
開けた広場で、休憩に草の上を寝転がって考え事をしていたら、急に陰になった。
慌てて起き上がると、今にも僕の上に座ろうとしている大猫の顔が目の前にある。
「えっ? プー? ま、ま、待って起きるから、待ってくれ!」
と、下敷きにされる直前に横に飛び起きる。
……あれ? この気配? は? プー? 後に付いていたのはプー? なのか。
そう言えば、ランディは鳴き声や返事をしていたが、プーは鳴き声はしなかった。
アンディさんに水を掛けられても、逃げるだけでランディみたいに変な声で鳴くのだろうか?
「プー、お前山で僕の後にいた?」
と、聞いてみた。
さっきまで僕が横になっていた場所で、返事をするでもなく大きな白い尻尾が鍵状に左右に振れているだけだ。
……これはどっちだ? そうだとも取れるし、何を言ってるとも取れるぞ。
「先生! どうやって来たんだ?」
と、プーの後からカミールが脇に小枝を抱えて出てきた。
「えっ?」
「ルディー先生、一人か?」
と、辺りを見回すカミールがいる。
……どういうことだ? 何で? カミールがいる。
「プー、お前先生に何かしたのか?」
と、軽装で騎士装備でもないカミールで間違いは無いが、先日のモネさんの話でイーゴルは居るかも知れないと思っていたが、カミールが居るとは思いもしなかった。
「プーは何もしてないよ。休んでいたところに出てきたから、今着いたところだし。
カミールはどうしたんだい? いつもと違って軽装だな」
と、ルディーが反対にカミールに問う。
「あぁ……アンディさんに会いに」
……えっ? っと? あれ?




