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ポルカ医院では、内科にザーム医師が診察に加わりルディー医師にも余裕が出来て、診察を任す事も有る。
もう1人外科から内科に移る医師は要るが、担当患者さんの術後が良くないらしい。外科の責任者であるロード医師の助言で、トッポ医師はルディー医師に診察を依頼してきた。
「ルディー先生、すみません。手術事態はロード先生の執刀で助手に付いた僕でも問題ないのは分かっているのです」
と、トッポ医師は患者の診察記録を見せる。
「いいよ、ロード先生が僕を呼べと言ったならそれは、内部疾患の可能性があることだからね」
と、ルディー医師は診察記録を受け取り読み解く。
……若い患者さんだなぁ、山の開拓中の事故か。カルテは怪我で運ばれた時に作成されたのが初めて。
一度も医院に来たことがないなら、問診にちゃんと応えたか分からないな。
トッポ医師と一緒に入院患者のところへ向かい病室を覗くと、部屋から僅に甘い匂いがした。
布団を目深に被り、ベットに横たわっている人型は、右の足の形が無く左足の大きな形だけが浮いている。
「ベースさん、医師のルディーです。術後経過と問診をしに来ました」
と、ベット横に付くと自己紹介と担当医師ではない医師が来た理由を説明する。
「ルディー? ルディー先生……」
「ベースさん、怪我で直ぐに足を手術していますので、問診に応えて頂けてませんよね。ご家族のお話も出来ていません。担当医師のトッポが手を尽くしておりますが、経過が思わしくありません。
身体に異常が無いが、問診と診察をさせて下さい」
と、布団を少しずらすと、シーツに食べ物の粉が落ちている。
……カルテを診た時に思っていたが、これは完全に糖尿病の可能性が高いな。
問診の結果は、開拓中の山歩きの時右足の先を知らない間に怪我をしていたらしい。ブーツの中に小枝が入っていたのをそのままにして歩き刺さっていたのも放置していた。
いつもなら自然に治る筈が治らず、妻がポルカ医院に行こうと言っても聞かず、治らない右足をそのままで仕事中に伐採事故に巻き込まれた。潰れた右足は切断しかなかったようだ。
「トッポ先生、断面はいつもこの状態ですか?」
「はい。ベースさんは二十代と若いです。しかし肉が再生せずに塞がらないのです」
と、トッポ医師は答える。
……確かに年齢的に遅い。それに本人の自覚がなければ、トッポ先生が処置をしても無理だよね。
スージィーさんの薬が外科的に使われているが、内服に変更とベースさんを脅かしておくか……
「ベースさん! 良かったですね。事故に巻き込まれて」
と、ルディー医師が患者のベースに笑顔で言ったら、トッポ医師は驚き掴みかかって来たベースを間に挟んで止めている。
「なんだと! 事故に合って良かっただと!! オイ! 医者が怪我をしたもの良かったとぬかしていいのか!!」
と、元気な上半身を起き上がらせ、顔を真っ赤にして怒鳴って来た。
「医者だから言えるのです。ベースさんが命があるのは事故に巻き込まれて、右足を落としたからです」
「ルディー先生! 何でそんなことを仰るのですか。ベースさんはこれから不自由な生活を送らないといけなんですよ」
と、トッポ医師はベースのこれからの事を告げて納めようとする。
「トッポ先生。ベースさんには早く本当の事を教えてあげないと、このままベットで生活をさせるのですか?」
と、ルディー医師は担当医師のトッポにも苦言を告げる。
「ベースさんは明るいですし、若いですから元気になれば意欲的に生活を送れるようになりますよ」
「若いから早く教えないと手遅れになりますよ」
「えっ?」
と、戸惑うトッポ医師に、
「検査をして確定したら、外科から内科に移ってもらいます。手術は成功して問題ないのですから、後は食事制限とこれからの治療は一生問題になることを教えていきますね」
と、ルディー医師は告げる。
「………………」
「……どう、言うことだ?」
と、ベースは狼狽えているが、トッポ医師は分かったのだろうルディー医師に視線を向けて頭を下げた。
「トッポ先生、ベースさんの移動と一緒に内科に移るかい? 担当医師が変わるのは診察科を変わる時だけど、君は内科に移る予定だよね。それともまだ担当している患者さんはいるの?」
「いえ、ベースさんで外科での担当は終わります。一緒に移動します」
と、トッポ医師は答えた。
「ではベースさん、落ち着いて僕の話を聞けますか?」
「……あぁ、でも先生が俺が怪我をしたことを良かったって言ったことは許してない」
「まぁ、そうだね。説明の後で僕の事を怒りに任せて殴ってもいいよ。
まず、ベースさんは中度の糖尿病の可能性が
ある」
「糖尿病? 年寄がなる病気? 俺が?」
「そう、お年寄りが多いのは認めるけど若くても発病するよ。ベースさんみたいに暴飲暴食するような人ならね」
「暴飲暴食じゃない! 開拓は体力仕事だ沢山食べないとへばってしまう」
「そうだね。でもベースさんは十代の頃よりは太ってないかい? 小さい頃から肥満体型なのか?」
「……いや、ここ一年で少し太ったが、山で動いているから直ぐに痩せれる」
「怪我をするまで山にいたんだろう? それにしては丸いね」
「…………」
「肥満は病気が原因のことも有るけど、ベースさんは隠れて医院食以外も食べているからやはり過剰に食べ物を取りすぎているよ」
「…………」
「本当ですか? ベースさん?」
と、トッポ医師が確認をすると、渋々頷いて返事をした。
「ベースさんがお年寄りがなる病気だと思われている糖尿病は、若い人なら命取りになるんです。
例えばの話をすると、目が見にくくなる、手足がしびれる、おしっこが出なくなる。全部糖尿病の末期です。若くして失明したいですか?」
「えっ?!」
「僕は、ベースさんの切断された足を診ていないから分からないけど、問診での判断は足は壊死していた筈だよ。小さくても怪我を放置すれば化膿して痛かった筈なのに歩けた。神経が麻痺して運動神経もおかしかったんだろうね。そのまましていれば確実にベースさんは助かってなかった」
「…………そうか」
「自覚はあったのですか?」
と、トッポ医師は聞く。
「いや、自覚がどうとかではなくて、枝が刺さっていたのが分からなかった。ジクジクしているなって思ってはいたが、大したことは無いと歩きにくさはあっても気にならなかった」
と、ベースは答える。
「だから、事故に巻き込まれて良かったと言ったのです。気にしていない足が腐って落ちるまでベースさんは医院に来なかったのでしょう? そこまで来ていたらどんなに手を尽くしても助かりはしないですけどね。
まだ、全身に壊死の毒が回る前に切断出来て、事故に巻き込まれ無くても切断は一緒です。切るしか無いですから壊死していれば」
と、ルディー医師は淡々と説明を続ける。
茫然として聞いているベースさんは、無い右足を見ている。あった頃を思い出しているのか。
「ベースさんには内科で糖尿病の検査治療をしていきます。治療が進めば足の手術後も良くなりますよ。
ベースさんは土属性なんですね。義肢技術士は土属性が多いですよ。義足を作るにしても動かすにしても他の属性の人より優れています。ベースさんの義足も良いものが出来ると思いますよ」
と、ルディー医師は告げた。
「……あぁ、お、も、い、出した。ルディーって、ロジックさんの息子さんか?」
「えっ?!」
今度はルディー医師が驚く番のようだ。
面識も無い、一度もポルカ医院に罹った事が無いベースさんが、前ポルカ医院長を知っている。
……父を知っている?




