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お嬢様セイラの事件簿  作者: 鈴埜
第一章 フィーア島殺人事件
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7.緑の予言


 フェスティバルから半日


 セキュリティールームへまたもや現れた二人に、ハウベル警部補は涙を流しそうになった。

 しかも事件当日の屋上に設置してある監視カメラの映像を全て見せろと要求するのだ。元となるビデオは既に警察の鑑識に回されている。ここに在るのはディスクに保存したコピーだった。流石にそうなるとモニターと機材のある部屋で見るしかなく、ビュッセ警部が現れないかドキドキした時を過ごす事となる。他の警官は何度か訪れたが、ジュリアン持ち前の口先三寸と、セイラの笑顔でクリアした。

 カメラは十五台。そのうちの二つに時々彼女たちが写っていた。十時頃から既に飲み始めていたようで、歓談しながらだんだんと酔いが回って行くのが判る。

壁いっぱいに広がった大きなスクリーンを前に、二人は真剣な表情で彼女たちを睨んでいた。どんな些細な事象も見逃さないといった様子で。

ディスクはクライマックスに差し掛かる。

「ああっ! 肝心の部分が抜けているのね。他のディスクには写ってないの?」

「ええ、タイミングが悪くって」

 皆がグラスをあおり、フィーアの女神が現れる時に被害者の姿を撮っていたカメラは一台もなかったのだ。

「もう一回見せてくれないか?」

 ジュリアンがそう指示すると、文句を言いながらハウベルは再生ボタンを押す。午後十時。二人の姿を会場に見つける時間。十時半。すでに五杯以上のグラスを重ね。十一時。彼女たちは儚くもこの世を去る。

「待って、コントローラー貸して」

 セイラはハウベルの持っていた万年筆の形をしたコントローラーを奪い取ると、器用に巻き戻していく。そして十時までビデオが戻ると次は早送りと一時停止を繰り返した。

「どうした?」

「人って好みがあるでしょ? ほら、見て。キーラは絶対緑色のを飲んでいるの。で、ダイアナは白いやつ」

「ああ、キーラの方は知らないが、ダイアナはタカスカという種類の白いカクテルが大好きだった」

「私、覚えているもの。最後にダイアナが持っていたグラス、緑と白のドリンクだった」

「でもちょっと待って。セイラ、貸してくれる?」

 ジュリアンはコントローラーを貰うと、二人が酒を取るところで止める。

「この緑と、前の緑は少し違うな……酒の種類が違うんだろう。先日着ていたドレスもそうだったし、彼女は緑色が好きなのかな」

「それで、見て! このウエイトレス。これから最後のグラスを持って彼女たちのところへ行くの。お盆には……緑色のカクテルは一つしか乗っていない」

「カクテルは側にいるウエイトレスに欲しいものを言えば持ってくるが、キーラのこの趣味を知っていればそんなものなくても緑色の飲み物を持って行けば必ずそれを取る。グラスを一つだけにしておけば意図的にそれを与えることができるんだ」

 二人は新発見に顔を合わせ頷いた。グラスに仕込んだ毒を、キーラに飲ませることができる。

「あれ?」

「何!」

「何だ!」

 ハウベルが素っ頓狂な声を上げるので、二人は睨みを利かせて振り返った。その様子に彼は怯える。

「い、いえね。乾杯って普通一斉にやるでしょう? 今回は花が燃えるんでタイミングずれてますけど、でも皆大体同じくらいに飲んでいるんです。だけどほら。彼女たち、手前の人の頭がじゃまですけど、何かもたもたしている気がしません?」

 言われてみると、確かに時間にして十秒ほどかかってから少し頭を上に逸らす。この時にグラスを傾けて酒を飲んでいるのだろう。映像はそこから横に移動してしまうので彼女たちを捕らえてはいない。

「なんだ……何があったんだ」

 と、セイラが小さく悲鳴を上げ口元を押さえた。

「どうした?」

 ジュリアンの問いに彼女は小さく首を振った。

「ん?」

「花が、燃えると……色が変わるの」

 その言葉にジュリアンの顔つきも変わる。

「な、なんですか?」

 一人分らないハウベルだけがわたわたと二人を見比べる。

「……彼女たちは、グラスを交換したんだ」

「え?」

「二人はそれぞれ緑色の飲み物が入ったグラスをキーラが、白い、タカスカのグラスをダイアナが持っていた。乾杯の合図と供に花に火が灯り、色が変わる。あれは中身の酒の味は変えずに色だけを変える魔導なんだ。でも、緑に固執している彼女……もしも、彼女のグラスが緑色でなくなってしまったら。もしも、ダイアナのグラスが緑色に変化していたとしたら」

 三人はごくりと唾を飲み込む。

「毒を盛られたのは……ダイアナかもしれない」

「彼女って人に恨まれるような仕事していたの?」

「さあ、久しぶりにあったからなぁ。最近の仕事は知らない」

「……貴方たちの関係ってほんとっ、分らない」

 額に手を当てて首を振るセイラをジュリアンは面白そうに見ていた。ここで、子供には分らないよ、などと言ったら彼女はどんな反応をするのだろう。

 スクリーンにはなおも映像が映し出されていた。会場がパニックを起こし、遺体に駆け寄るジュリアン、セイラ、クライド。

「彼女が緑色のお酒が好きだったかはユーリー氏に聞けば良いわよね」

 一つずつ指を折って確認事項を頭の中に入れている。

「後は、あの魔導によって変わる色が決まっていたかね。ランダムだったら本当にたまたまダイアナのグラスが緑色のお酒になったってことだし。ハウベルさん、そこら辺のことは誰に聞けば分るの?」

「副主任の方か……やっぱりコーウェン氏ですかね。いいです、それは僕の方で調べておきますから。お嬢さんが聞きに行ったらここでディスク見たことがばれてしまいそうです」

「そ、ね。まあ手柄は全部貴方にあげるから、これからも協力してね」

 にっこりと天使のような微笑を向ける。大概の人間はこれでほぼ彼女に好意を持つだろうが、ハウベルは素直に喜べなかった。今後も警部にばれたら殴り飛ばされるだけでは済まないようなことを強要されるのだろう。

「ジュリアン、ユーリー氏のところに行かない?」

 ディスクを巻き戻し、早送りしている彼の側に立つ。何故か先ほどよりも更に真剣な表情で画面を見つめていた。

「ジュリアン?」

「セイラ、これは何だと思う?」

 スクリーンの一角を指差す。

「?」

「いいかい、そこだけをずっと見ていてくれよ。カメラがこの位置に来た時のこの場所を記憶するんだ」

 カメラは右から左へとスパンする。一番左へ行ったら次は右へ。それを延々繰り返している。約三分かけて往復する。その三分の中のほんの一瞬見える青い光がある。それはカメラが限界まで右に来た時に見える。しかし、十一時ごろ。見えない時があった。一度だけ。その三分後にまたカメラがそちらへ向いた時にはしっかりと光が見える。

「何かしら……。ハウベルさん、他のディスクを」

「いや、いい。現場に行ってみよう。ハウベルさんはさっきの飲み物の色の変化について聞いておいてもらえますか?」

「はい、わかりました」

「ではまた後で」

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