もう一つのエピローグ
潮風を体に受け、その暖かさに夏の訪れを感じた。
闇から闇へ、真実が葬り去られることを危惧しかなり慎重に立ち回ってきた。だが、それも無用の心配だったようだ。
彼女の口から少しずつ引き出した事実を、やがて市長は認めることとなる。薄々勘付いていながらも目を閉じていたことを。
そうして、連続殺人犯の死亡が確認されると、逃亡中の殺人犯の名は自然と忘れられていった。警察もそちらを盛り上げ自分たちの失態から目をそらそうとする。
エマーソンは海の見える丘に立てられた墓碑を前にする。
「どこで間違ってしまったんだろうね」
彼らが出会ったのは偶然だった。
しかし、一線を越えてしまったのは間違いなく彼らの意思だ。
それぞれがそれぞれの願いを叶えるために、人として踏み込んではならない領域へ行ってしまったのは、どんな状況にあったといえども彼らの責任なのである。
悲しい偶然。
「いや、それすらも呼び込んだ」
想いが、出会いを生む。
エマーソンは華やかな色をした花束を墓碑の前にそっと置いた。
そこは、メアリ・マイヤーズの墓だ。
訪れるものをなくした墓は、あっという間に朽ちて行くという。
真実を知る一人として、同僚として毎月花束を添えてきたが、とうとう自分にも変化が訪れた。長く親しんだ土地を離れなければならなくなったのだ。
心残りはいくつもあるが、そうやって人は生きて行く。
空を見上げる。
そこには、相変わらず美しく夕日に輝くイーハーがあった。
本を主とし、再び成長を始めたイーハーは、しかし、今度はもう少しだけ人間に興味を持ってくれればと思う。
一つだけを追い求めると、見誤ってしまう。
間違いを犯してしまう。
次はそうならないために、世界へと目を向けよう。
世界は、可能性に満ちているのだから。
別れの挨拶をして、彼もまた、新しい道へと踏み出した。
了




