PastFile九鬼その1 名家上がりのチンピラが暴露屋になるまで
20世紀末。12月7日。ある病院で、産声が上がった。
「おぎゃぁー!おぎゃぁー!」
「元気な男の子です」
「あぁ、私の可愛い赤ちゃん…」
この赤子は後に裏社会で暴露屋を営む情報屋、九鬼泰照であった。
九鬼の父、九鬼政造は名家『九鬼家』の当主であり、与党の『民宝党』の議員であった。
「泰照。いつかお前は誰にも舐められてはいけない。頭もそうだが、体も鍛えるんだ」
「はい。お父様」
泰照は幼少期の頃からいろんな武術を学んだ。
日本の武術は柔道、空手、剣道等、海外はカリにムエタイ、ボクシング等々、武芸百般の子どもとなった。
「泰照。大人の世界は情報が大事よ。それを取り逃したらすぐに負けるんだから」
「はい。お母様」
九鬼の母、九鬼麻里は出版社『関電社』の記者であり、息子には情報の大切さを説いた。
それからして九鬼が17の頃。
「くそぅ…最近上手く行かん」
「どうしたのです?お父様」
「あぁ、泰照か」
九鬼はある時、悩んでいる父を見て何があったのか聞いた。
「実はな…最近私の出そうとしている政策が、敵対している議員に先取りされているのだ」
父の言う議員とは、同じく民宝党の議員、永瀬寛吉。党首候補の一人であり、九鬼政造のライバルであった。
「麻里はアイツに情報を流す訳がない。まさか、アイツか?」
「お父様。あのアイツというのは?」
「秘書の目黒だ」
目黒猛。九鬼政造の最も信頼する秘書である。
「最近、アイツはやけに焦っている。だが、横流ししているわけが…」
その時。
「きゃぁぁぁぁ!」
「麻里!」
「お母様!」
二人が麻里の悲鳴がした部屋へ向かう。
「麻里、何が…あっ…た」
そこには、胸を無惨に切り裂かれた母の姿と、黒づくめの男がいた。
「麻里、麻里ぃぃぃ!」
「九鬼政造。お前の人生もここまでや」
男は政造に詰め寄り、喉を切り裂いた。
「かぶっ…」
「お、お父様!」
「さて、後はガキだけか」
「まぁ、ガキは海外に売り飛ばせばいい。でも15だし、高く売れないかな」
「おい、何をしている。さっさと殺さんか」
男の後ろから現れたのは、秘書の目黒。
「な、目黒…さん」
「九鬼泰照。どうせお前は死ぬ。だから教えといてやるよ。俺はコイツの出そうとしている政策を永瀬に横流した」
「そ、そんな、まさか、アンタが横流しの犯人なんて」
「まぁ、永瀬さんはアンタら家族が邪魔だったそうだ。だから、俺が情報を流したんだよ」
「あ、あぁ…」
「かつてお前の母さんが言っていたな。『大人の世界は情報が大事よ。それを取り逃したらすぐに負けるんだから』ってな」
「ぐっ…」
「さぁ、大枚はたいてやってんだ。早く殺せ」
「アイ・アイ・サー」
「くっ、くそぉぉぉぉ!」
九鬼は近くにあった椅子を手に取り、殺し屋に投げる。
「おらぁっ!」
「ごっ、このガキ!」
椅子は当たったが、相手は一流の殺し屋。すぐさま九鬼の足に撃った。
「うがぁぅ!」
「ちっ、調子に乗りやがって…」
「……っ!?待て、誰か来る!逃げるぞ」
「ちっ、ガキは殺せずじまいか」
目黒と殺し屋がその場を去ると、そこに九鬼家に支えていたメイドが駆けつけた。
「九鬼様!坊っちゃま!一体何が……きゃぁぁぁぁ!」
メイドは九鬼夫妻の死体と、唯一生き残った九鬼を見て、悲鳴を上げた。
「坊っちゃま!早く救急車を!」
その後、九鬼は病院に運ばれ、数ヶ月の入院を余儀なくされた。
「くそっ、お父様、お母様…」
九鬼は毎晩、自分の目の前で父と母が殺される夢を見た。そして、目黒から言われた『母の言葉』が頭からこびりついて離れなかった。
九鬼は誓った。
「絶対に…目黒と永瀬、そしてあの殺し屋を暴露してやる……!」
九鬼は殺し屋に狙われないよう、病院を抜け出して裏社会にこの身を投げた。
自分の持っていた金を使い、目黒と永瀬、例の殺し屋を調べ上げた。
どうやらあの二人は九鬼政造を抹殺するために共謀。永瀬が目黒に大金を払い、目黒は傭兵上がりの殺し屋、工藤保久に依頼をした。
九鬼は母のいた関電社にこの情報を持っていった。しかし。
「この情報、違法なものでしょ?これはうちや他の所では扱えないなぁ」
「そ、そうですか…」
折角手に入れた情報が使えない。これは九鬼にとってショックな出来事だった。
「くそっ…何なんだ…何なんだよ!」
九鬼は晴らせない恨みをこの体にしまい続けながら、6年が経った。
九鬼は、苑頭町に蔓延るチンピラの一人となった。
毎日不良やチンピラとケンカしては、それに勝つ毎日。
いつしか、目黒達への対する恨みが無くなっていった。
そんなある日、九鬼はある中年の男に目を付けた。
(アイツから金でも奪うか)
九鬼は後ろからその男の肩を叩く。
「おい。金置いてけ」
「あん?」
男が後ろを振り向く。その男は何か黒いオーラを纏っていた。
「何だ、ガキ。今の俺は護衛がいないもんでね」
「い、いや、それは…」
見たことの無いオーラに萎縮する九鬼。すると、男は九鬼の顔を見て、何かに気付く。
「まさか、アンタ。九鬼政造の息子の九鬼泰照じゃないのか?」
「なっ、なんでそれを」
「俺とアイツは知り合いでね、よくしてもらったんだ」
「あ、アンタは何なんだ!」
「俺かい?俺は桂田義成。高瀬組の組長をやってる」
「高瀬組…まさか、ヤクザか!?」
「それがどうした?」
「確かに親父はヤクザと関わりがある噂を聞いたことがあった。でも、それが本当なんて…」
「息子が、こんなになって…天国のアイツも悲しんでやがる…」
「くっ…」
「お前は6年前、関電社に目黒と永瀬、殺し屋の工藤の情報をたれ込んだが、それを受け取ってもらえなかった。だろ?」
「そ、それを何故!?」
「まぁ、知り合いの情報屋にアンタの事を調べてもらったんだ」
「そうかい。流石情報屋だ」
「………よかったら、目黒達を社会的に殺す手伝いをしてやろうか?」
「えっ?」
これが、情報屋であり『暴露屋』九鬼泰照の始まりだった。