PastFile水戸部 狂人スペード
水戸部が仲間となったのは、下尾が仲間となり、数日後の事であった。
裏社会で、こんな噂が出ていた。
『平子組に属する元半グレがいる』
それならただの噂だが、それには続きがあった。
『その元半グレは狂人で、身体中にスペードのタトゥーを彫っている』
その狂人という要素に俺は惹かれていた。
ソイツに会いたい。そして、俺の部下にしたい。そんな気持ちが俺の体を駆け巡っていた。
俺はその噂が本当かどうか、調べた。そして、それは本当の事とわかった。
奴の名は水戸部凌二。異名は『スペードマスターの水戸部』。横浜の小さな組織、平子組に所属する元半グレ。自身の手で様々な敵対者を殺してきた。
どうやら奴は数ヶ月に平子組の者にスカウトされ、水戸部が頭を張っていた半グレ集団『ミスト』ごと平子組の傘下となったそうだ。
俺は奴を傘下にするため、俺は黒畑を連れて横浜の地に降り立った。
「桐田さん、どうやら平子組は中華街の一部を仕切っているようです」
「おいおい、黒畑。遠回しに中華が食いたいと言うな。今回は水戸部を部下にするべく来たんだ」
俺達は平子組の事務所に向かった。勿論、許可を取って。
「桐田さん。待ってましたよ」
「どうも、平子組組長、平子雅士さん」
俺達は客室に入れられ、水戸部を待つ。
「あの平子という男、何か優しい雰囲気がありましたね」
「ふん、見た目や雰囲気に惑わされるな。なんてったって、半グレを傘下にしている奴だ。まともな奴ではない」
そう話していると、客室に二人の男が入ってきた。
「どうも、水戸部を連れてきました」
「こんにちは」
平子組長の後ろにいる男。身体中にスペードのタトゥーが彫られている。確かに水戸部その人だった。
「桐田さん。何のご用でここにいらしたのでしょうか?」
「それは、そちらの水戸部を私の部下にしようと思いまして」
「部下…と言いますと」
「そのままの意味です」
「そうですか。それは無理な願いですな」
「ほう。それは一体何故なのですか?」
「水戸部は私の大事な部下でね、簡単に半グレごときの奴に渡すわけに行かないんですよ」
「ほほう。半グレごとき」
「貴方は確かに千葉で大成している。もう優秀な人材はいらないでしょう?」
「確かに私の組織チーム絵札は千葉で暗躍している。で、す、が、これから私はある所を侵略するため、彼が欲しいのですよ」
「それは…」
「東京、ですよ」
「東京だって!?」
平子は人が変わったかのように強く喋りだした。
「あそこには藤松会と武蔵野会という巨大組織が2つあるのですよ!そんな無謀な事は…」
「そうですか。じゃあ、最初に横浜を侵略しようかな?」
俺は懐からナイフを出し、黒畑はハンマーを構える。
「くそっ!水戸部!早くアイツを出せ!」
「了解です」
水戸部が部屋を出る。
「水戸部は殺さん。だが、平子組。ここは潰す」
「しゃらぁぁ!」
黒畑が平子に襲いかかり、無防備の平子の顔を潰した。
「ぐじゃぁ!」
「さて、水戸部はどこかな?」
「何の騒ぎだ!」
「あっちからだ!」
すると、10名くらいの構成員が部屋に集まる。
「なっ、親父ぃ!」
「テメェら殺してやるぅ!」
殺気立つ彼らに俺の中の脳内麻薬が溢れ出る。
「さぁ来いよ。全員地獄に送ってやるよ」
「死ねやゴラァッ!」
一人がナイフを繰り出す。
「見えるぞ軌道が」
「ごぶぅ!」
俺はソイツの喉を裂き、盾にする。
「ちぃ!」
「構わず撃てぇ!」
残った奴らが発砲していく。しかし、戦力はこっちの方が上だ。
「ミンチになれやぁ!」
「ひびぃ!」
「がばぁ!」
「ごのぉ!」
一気に三人。黒畑がハンマーで潰した。
「ば、バケモンだ!」
「怯むなぁ!」
俺達を殺しかねないと攻撃を仕掛けるも、それは俺に利かない。
「ふん」
「かはぁ!」
刃物だったら斬撃で返し。
「潰れろぉ!」
「のごっ!」
「ごぬぅ!」
発砲しても潰される。それはまさに地獄であった。
そして、構成員を片付けた所で、二人の男が入ってきた。
「よろしくお願いします」
「おうよ」
そこにいたのは、水戸部と屈強そうな男。
「水戸部。仲間になる気はあるか?」
「まぁ、無いですな」
「さぁて。俺のキックで殺してやるよ」
「誰だ?水戸部の隣の奴は?」
「俺は根津芳徳。キックボクシングを嗜んでいる奴さ」
「へぇ、キックボクシングねぇ…」
「驚く暇はねぇ!死にやがれぇ!」
根津が顔に狙いを定めた蹴りを仕掛ける。
「ほう。分かりやすい軌道だ」
俺は体を背ける。
「何っ!俺の蹴りを避けただと!」
「次はこっちだ」
俺は鉄板入りの靴で奴の顔を狙う。
「させるかぁ!」
根津は腕をクロスし、攻撃を防ぐ。だが、鉄板での攻撃は奴の腕を破壊した。
「がぁぁぁ!」
「隙を見せるな」
次に根津の顔を掴み、膝蹴りを仕掛ける。
「ひぶぅぅ!」
根津は痛さで悶えるものの、俺は攻撃の手を緩めない。
「ほらぁ!おらぁ!ひょう!」
「げっ!ぎっ!ぐぅ!」
鞭のような蹴りに奴の体と精神はボロボロだ。
奴は床に膝を付け、命乞いをする。
「わかったぁ!俺の負けだぁ!殺さないでくれぇ!」
すると、水戸部は拳銃を構え、根津のコメカミに撃った。
「ひぶぅ!」
「やっぱり。ヤクザはダメだな」
「何をしている?水戸部」
「俺の信条は強い奴に付く。いつの時代も強い奴が正義なんです。それは裏社会も同様」
「まさか、俺の部下になりたいと?」
「えぇ。今ならうちの組織もあげましょう」
「そうか。それならお買い得だ」
これにより、『スペードマスター水戸部』は俺の部下となった。