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駅からゆるやかな一本道を登ると、赤い煉瓦造りの時計塔が見て来る。
明治から続く私立此花高校のシンボルだ。
かつては総煉瓦造りの校舎だったらしいが、今ではこの時計塔だけが当時の面影を偲ばせている。
校門をくぐると、数年前に建て替えられた近代的でモダンな校舎。
二つの異なる建物が違和感を感じさせることなく並び立つ姿が春木甜のお気に入りだ。
此花高校を卒業後した有名な建築家がデザインしたらしい。
きっと素敵な人なんだろーなと考えながら駐輪場に差し掛かる
「てん。おはよう」
落ち着いたバリトンの声
「はよ。アラタ。」
少し眠そうに現れたのは二階堂新。黒い短髪をぐしぐしと掻く
「英語、写させて。昨日寝た…」
「昨日じゃなくて、昨日、も、だろ!」
まったくーと言いながら、前向きにしたリュックからすでにノートを取り出している辺り、甜はあまいなと新は密かに思う。
「わりぃ。昼にパン奢る」
そんな話をしながら教室のドアをくぐる
「てん、あらちゃん。おはよー!」
朝から大ボリュームでぶんぶん手を振りながらこちらに向かってきたのは
露木亜也平均より小さな身長だが存在感はクラス一と言っても過言ではない
「なな、もう部活決めた?まだならバト部にはいろーぜっ!一緒に全国目指しちゃおーぜ★」
ぴょんぴょん跳ね回る亜也の頭を甜は軽く押えると
「悪い、俺もう部活決めてんだ。全国はお前が治めてきてくれ」
と席に向かう。
新に至ってはすでに自分の席で夢の中だ
「なんでだよー。えー、何部?何部?兼部でもいいからさ」
まだ諦めきれない亜也に、甜はスマンとだけ答え新の斜め前に座る。
「サドーブ。甜は入学前から決めてる。俺もだけど」
それだけ呟くと新はまた夢の世界に戻って行く。
「え?どゆこと?サドーブ?サドーブって何部?」
頭の上に沢山のハテナマークを浮かべる亜也
「うるせぇ。サドーブッじゃなくて、茶道部な」
甜がそう言った時チャイムと共に担任が入ってきた
「まあ、気になるなら放課後、お前が見学に来る事だな」
白い歯を見せて甜はニヤリと笑った