37話
こそこそと現場に戻った俺と黒崎。白澤は緊張の面持ちで木崎たちを見ており、俺たちが戻ったことにすら気付いていない。
俺も気を取り直し、木崎と柏田を観察する。木崎はシンプルに緊張しているが、柏田は緊張しているがどことなく告白前の浮ついた感じが無い。どういうことだ?
互いに黙ったままの二人を見ること数十秒。遂に沈黙を破った柏田が、顔が見えないほど深く深く頭を下げながら手を差し出した。
「き、木崎姫華さん!僕と付き合ってください!」
「⋯⋯あ、あの。私、まだあなたの事をよく知らなくて⋯⋯な、なので。とりあえず⋯⋯お友達から、というのは⋯⋯」
「そ、そうですよね⋯⋯お気遣いありがとうございます。で、ではこれで⋯⋯」
せっかく友達から始めようと提案してくれた木崎の提案を断り、柏田は足早にこの場を立ち去った。一人取り残された木崎は、ポカンと立ち尽くしている。
「白澤、黒崎。お前らは木崎にフォロー入れてこい。俺は柏田を追ってみる」
少し気になった俺は、柏田を追うために木崎を白澤と黒崎に押し付けた。こういう現場も経験したことがあるかもしれないし、何かと女同士が気楽で良いだろう。
何かを白澤たちが言うより前に、俺は柏田の後をつけた。どう見ても失恋したヤツの態度ではなく、不安半分爽快感半分、といった顔をしている。謎だ。
何気に、俺が木崎にそれとなく付き合えと誘導していたが無意味だったな。やはりガードの固い女の子というのは面倒である。
柏田は中庭を抜けると校舎を駆け上がり、自分の所属する2年6組の教室へ入っていった。バレないように教室を覗くと、中にはサッカー部の雰囲気イケメン(笑)たちが机の上に座って中庭を眺めていた。その雰囲気イケメン(笑)たちに、柏田はオロオロと身振り手振りで何かを説明しているようだ。⋯⋯ふむ。
あまり気は進まないが、覗き見に加えて盗み聞きする事にしよう。どうか教師がこの廊下を通りませんように⋯⋯と。
「柏田くんさぁ!なぁーんであんな陰キャのブス一人付き合えねーかなぁ!」
「ほんま草、なんだよあの生まれたての子鹿みたいな足取り!」
「それな!折角俺たちがカッコよくして、柏田くんでも付き合えそうな女を見繕ったのにさぁ⋯⋯意外と面食いなんだもん。大変だったんだぜ?柏田くんのギリギリ妥協があの⋯⋯なんだっけ?キ、キザ?」
「ばっかお前、木崎姫華ちゃんだよ姫華ちゃん!ぎゃははは!あ、あの陰キャが、ひ、姫!姫華!ぎゃははははは!マジで草!」
⋯⋯⋯⋯なんだこいつら、品の無い性格ブスばっかだな。柏田は何も言い返さず、ただ「あはは」と力無く笑うだけだ。陰キャ陽キャとか、くだらないことを論じる時間あるなら勉強かサッカーしろよ。だから万年、初戦敗退して一瞬で三年が引退すんだろうな、うちのサッカー部って。
俺は、久しぶりにカチンときていた。




