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30話

「お前の独り善がりに、水瀬先輩も木崎さんも巻き込むな。俺は無関係だから、別にあの動画を貰ってすぐにばら蒔いたって構わない。ただ、俺は木崎さんの気持ちを尊重してるから何もしないんだ。良いか、これが優しさだ。自分のためじゃない、他人がどう思うかを考えて行動するってことだ」


 こほん。気を取り直して、もう一回格好いい事言っておくとしよう。俺の気遣いのお陰だろう、さっきまでのオナニー恥ずかしムードから、先程までのシリアスムードに戻ったようだ。え?シリアス求めてない?ちょっと待って、もうちょっとで終わらせるから!


 シリアス怒り顔の諸田は、手をぷるぷるさせながら震える。


「な、何を偉そうに講釈たれてやがる⋯⋯!ちょっと顔の配置が整ってるくらいで、周りにチヤホヤされたお前に僕たちの何が分かるんだ!!」


「知らねーよ、お前みたいなデブ・ブス・クズの三重苦人間の気持ちなんて。全部周りのせいだって、そうやって逃げ続けてきただけだろ」


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!黙れ!!みんなが悪い!みんなが悪い!僕たちに優しくしなかったみんなが悪い!僕たちが活躍できる環境が無かったのが悪い!ブサイク同士で結婚した親が悪い!僕らが悪いってみんなが決めつけて!みんなが僕たちに悪意を向けるから!!そんな中で、僕たちの性格が良く育つ訳ないだろ!?」


 うわー、すっごい開き直り方。先生、この人病気ですか?ええ、間違いなく心の病ですね。他責病です、お薬は⋯⋯ありませんね!

 嘘嘘、こんなふざけてる場合じゃないんだって、今千載一遇のシリアスなんだって。天城裕貴はシリアスでも格好いいってところ、皆に見せなきゃいけないんだからさ。


 俺は咳払いをしてから、諸田を諭すように話す。


「諸田の言いたい事は良く分かる。俺に余裕があって誰にでも優しいのは、俺が世界一のイケメンで誰からも愛される完璧人間だからだ。俺は俺自身で愛をあげなくたって、心が愛に満たされてる。なのに俺は俺のことが一番好きなんだから、そりゃ俺はもう愛の化身と言っても良いだろう」


「腹立つなぁ!!」


「まぁ最後まで話聞けよ。人間の心は伝染する。笑ってる人がいれば空気は明るくなるし、怒ってる人がいれば空気は冷たくなる。お前に向けられた悪意は、お前の中に化け物のような悪意を生み出すのに十分だっただろう。

 だけどな、それとこれとは話が別なんだよ。お前が誰かに傷つけられたからって、お前が誰かを傷つけて良い理由にはならない」


「綺麗事ばっかり言ってんじゃねえ!!」


 諸田が振り上げた拳を簡単に避け、空いた手でその拳を握り手の関節を逆に曲げてやる。

 うわ痛そー。でも、先に殴ろうとしたの君なんだからね?勘違いしないでよね!


「綺麗事だよ。自分だけ損するなんて、普通の人間じゃ耐えられない。でも、お前がそうやって誰かの悪意を引き継いで誰かに渡している限り、その悪意が巡り巡ってまたお前に帰ってくるんだよ。それじゃいつまで経っても、お前は誰からも愛されず常に嫌われる毎日だぞ」


 人の悪意は消すことが出来ない。そして、自分が受けた悲しみや苦しみは、必ずその後継者を作らなければならないという本能が存在する。自分が負の終着点では、いつまで経っても自分は底辺のままだから。人間は成長するために競争する生物だ。だからこそ、この負の連鎖は決して止めることが出来ない。


 しかし同時に、人間は自分に負を押し付ける人間を嫌う。当たり前だろう、負を押し付けられても自分には1ミリもメリットが無いのだ。そんな人間と付き合いたがる人間は、どこか精神がいかれている。


 結果どうなるか。それは、負を送る者と受ける者が固定されたループが発生する。一度その輪に入ったが最後、輪の外にいる人間からは煙たがられるのだ。


 こんな悲しい話があってたまるか、とも思う。ただでさえ苦しい思いをしているのに、そのせいで苦しくない者達から疎まれるのだ。何故こんなことに、そうだ世界が全部悪いんだ。自分以外の全てのせいだと、そうなってしまうんだろう。


 俺は納得できないが理解はできる。容姿、頭脳、運動神経、親の財力など、生まれながらにして持ってない者ほどこの負のループに陥る。

 イケメン、天才、スポーツ万能、まあまあ親が裕福と、俺には何もかもが備わっている完璧人間だ。そんな俺が、偉そうに持ってない者に講釈たれれば腹が立つのも理解できる。


 だからこそ、その負のループの外野だからこそ、一人でも多く負のループから抜け出させたい。負を受ける者も送る者もいなくなれば、世界はもっと愛に満ちるはずだ。世界は、もっと自由に恋をして良い。もっと沢山の人を愛して良い。


 その恋や愛を笑う者を減らせられれば、もっと楽に恋人が出来るだろう。俺がやっているのはそういう事だ。俺は曽根山が高木に馳せてる思いを、本物だとは認めていないが、俺は曽根山の高木を思う気持ちを笑いはしない。

 ただ客観的に見て成功率が低そうだから、曽根山をビシバシしごいているだけである。高木は超面食いだからね、仕方ないね。


 閑話休題。


 恋も愛も、当事者同士の宝物だ。そこに世間体だとか周囲の感想は必要ない。人に愛を送り、その愛を受けて育った愛をまた誰かに渡る、そうして世界に愛が満ち溢れ⋯⋯俺はガッポガッポ、早期リタイアしたビューティフル中年生活が待っているのだ!


 俺は諸田のした事は絶対に認めないが、諸田が改心するならチャンスくらいあげても良いと思うんだ。もちろん、木崎の気持ちが変わってコイツをブタ箱にぶち込みたいです!と言ってくれれば、ありとあらゆる手を使ってコイツを少年院送りにしてやるが。

 木崎はそんな奴じゃない。一見暗いやつに見えるが、木崎は確実に負のループ外の人間だ。人から与えられた負を、誰かに押し付けたりしないだろう。


 水瀬先輩も、白澤も、黒崎も。俺の周りにいるのは良いやつばっかりだ。曽根山⋯⋯?誰だ、それは。


「人のために生きろ、諸田。お前が受けた痛みを誰かに移したみたいに、お前が与えた本当の愛は、必ず巡り巡ってお前に帰ってくる」


「そうした!そうしたんだよぉ!⋯⋯本当に、僕は水瀬さんに愛を⋯⋯込めてっ⋯⋯!」


 どんどん涙が溢れ出す諸田。勘弁してくんないかなぁ⋯⋯。なんでこんな至近距離で、野郎の泣き顔なんか⋯⋯。まぁいいか。


「順番が逆だ。お前は本当の愛を知らない、だから他人を愛せない。まずお前は愛される努力をしろ、もしそれが分からないなら、新しく出来た恋愛斡旋同好会に相談しに来い。今までお前みたいな奴に、何人も愛されるように育てた実績がある。お前が誰かに愛される人間になるように、俺たちは完全サポートしてやるよ」


 俺は胸ぐらを掴んでいた手をゆっくり離すと、泣いてる諸田の肩に手を置いた。これが可愛い女の子なら抱きしめてたんだけど、諸田だし肩に手を置くだけで勘弁してくれませんか?

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