16話
俺たちの恋愛斡旋同好会が発足した翌日。俺は白澤に連れられて、漫研⋯⋯漫画研究同好会に訪れていた。暇ならどうかと白澤が黒崎も誘ったが、今日は生憎用事があるとかで来れなかった。まあ黒崎は漫研のメンバーではないし、来なくても問題あるまい。
「ようこそ、天城くん!ここが私たち、漫画研究同好会の部室です!」
「おー。旧校舎の美術室か。なんか本格的」
白澤に案内されたのは、我が高校の旧校舎にある旧美術室だ。画材やデッサン人形の横に、様々な漫画が整理整頓されて並んでいた。たぶん白澤がやったのだろう、性格的に。
そんな旧美術室には、2人の女の子が既に座っていた。
「あなたが天城くん?鶫から話は聞いているよ!突然転校になっちゃって、この漫研が無くなっちゃうと思ってたんだけど、天城くんのおかげで続けられそうだよ〜!ありがとうね!」
「いえ、転校は仕方ないっすよ水瀬先輩」
水瀬絢香。1学年上の高校三年生であり、突如として転校が決まってしまった女生徒だ。体格は小柄で顔は可愛らしい顔をしている。髪は黒髪姫カットで、トレードマークとして赤太ぶちメガネをしている。なんだか文学少女みたいで可愛い人だ。性格は元気っ子っぽい。
水瀬先輩が差し出した手を握り返したあと、俺はもう一人の部員を見る。
「こ、こんにちは⋯⋯。木崎姫華⋯⋯です⋯⋯」
木崎姫華、同じ高校二年生の漫研メンバーであリ、これから共に漫画を研究する仲間だ。⋯⋯漫研って漫画研究するのかな?まぁいいか。
体型は痩せており身長が高い。やや手入れが行き届いてない黒髪を肩口まで伸ばしているが、前髪もめちゃくちゃ伸びているのであまり顔が見えない。体格や髪型が相まって、髪の長い男かと一瞬思った。失礼だから言わないけど。
⋯⋯え?曽根山にデブって言うのは失礼じゃないのか、だって?あいつは自分から高木と付き合うために俺を頼っているし、何より同じ男だから問題ない。俺は真の男女平等主義者だが、ごく一般的な礼節は弁えているのだ。我ながら偉い。
「よろしくね、木崎さん。天城裕貴だよ」
「よ、よろしくお願い⋯⋯します、天城さん⋯⋯」
「天城くんが爽やかキャラみたいな挨拶してて気持ち悪い⋯⋯」
こら、白澤!余計なことを言うんじゃありません!俺だって、俺の冗談を真に受けそうな奴には、ふざけた態度取らないくらいの思いやりがあるんだよ!
木崎は多分、俺が冗談で「え?なんだって?ボソボソ喋ってないで!発声練習、一緒にする?」とか言ったら、最悪の場合泣いてしまうような気がする。黒崎なんかは、一目で俺の冗談を受け流せるタイプだと思ったから、初めからあんな感じなのだ。
俺、母さんから自分が嫌なことは人にするな、と教わっているんです。え?曽根山?曽根山は(以下略)
「それで、漫研って何してるんだ?なんか文化祭で漫画出してるイメージしか無いんだけど」
「よく本人たちの前でそんな事言えるよね⋯⋯。だいたい毎週火曜日と木曜日にここに集まって、今期のアニメの話だとか、漫画の話をしたり描いたりするの」
「?こんき、って何だ?婚期?」
「あ、ごめんごめん⋯⋯。なんていうのかな、今放送中のアニメ、みたいな意味だよ」
ふむ。まぁ予想はしていたが、漫画アニメのオタクが集う同好会ということだな。意外と白澤がしっかりオタクっぽくてビビる。「漫画ばっかり読んでると頭が悪くなりますよ!」くらい言ってても、まったく違和感が無いのに⋯⋯。
「鶫も姫華も、物凄く絵が上手いんだよ!私は漫画もアニメも見る専だから、漫画描ける二人が羨ましいんだ〜」
「へえ、三人の絵って見ること出来るんすか?」
「あるよ〜!これ、最近描いたイラスト!」
水瀬先輩は、綺麗にファイリングされた紙を三枚出してくれた。三人とも同じキャラを描いているようで、キャラ自体は有名な松ぼっくりを咥えてる女の子だ。
「おぉ、『魔殺の弦』の百舌美ですね!全員上手いじゃないっすか!」
魔殺の弦は俺でも知ってるくらいの、社会現象になったアニメだ。百舌美は、主人公である蹈鞴鋼一郎の妹キャラであり、とある理由から常に松ぼっくりを咥える事になった女の子た。和服のデザインも凝っていて、描くのは難しそうだがしっかりと描けているようだ。
紙の右下にそれぞれのサイン的な物が描かれている。
白澤は、達筆な文字で『白澤鶫』と書いているサインだ。習字かな?絵は原作に忠実といった画風で、一瞬作者が存在しないカットを描いたのかと思ったほどだ。こいつ、何気に俺ほどじゃないにしろスペック高いんだよな。勉強もスポーツも出来るし。どこかの、見た目が良いだけの美少女と違って⋯⋯。
木崎のサインは、筆記体のような字で『HIME』と書いている。本物の漫画家みたいで格好いい。イラストは、厚塗りで本格的(語彙力)な雰囲気。絵も格好いいな。
水瀬先輩のサインは、丸っこい可愛い字で『あやか♡』と書いていて可愛い。イラストは⋯⋯なんていうんだっけか、二頭身とかの絵になってる⋯⋯スーパーデフォルメ?SD?ってやつだな。可愛い。
「そ、そう?えへへ。どうしよう鶫、私の絵上手いって褒められちゃった!」
「私も毎日上手いですよ、って言ってるんですけど⋯⋯。私の褒め言葉は響いてないんですね、ぐすん」
「わわわ〜!鶫のおかげで描くモチベーションになってるなってる!だから泣かないで〜!」
あいつ、ナチュラルに「ぐすん」って口に出してたな⋯⋯。堅物キャラなのに、あざといキャラまで併用してるの?ズルじゃない?それでなんでも出来るの?そりゃモテるわ、何あいつズル⋯⋯。
水瀬先輩と白澤の微笑ましいやり取りを見ていると、木崎が指で俺をつついて来た。
「あ、あの⋯⋯褒めてくれて、ありがとうございます⋯⋯。やっぱり、身内以外に褒められると、嬉しいです⋯⋯。描こう、って気持ちが湧き上がります」
そう言って微笑む木崎。相変わらず同級生の俺に対して敬語なのは気になるが、少しだけ心の距離が縮まったようで、俺は嬉しい気持ちになった。




