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第25話 銀の髪と琥珀の瞳

 マッシュさんとドリスさんが中心となって物資の受け入れをしている間、俺とジェシーは二人の後任候補と面会をしていた。

 場所は貴人二人と護衛の騎士たちが宿泊することとなった村の集会所の一室である。


 部屋には貴人二人とグレイグさん、そして俺とジェシーの五人だけだった。

 部屋に入ると直ぐにグレイグさんが謝罪の言葉を口にする。


「物資搬入は二人が中心になって行う予定だったと聞きました。急遽予定を変更することになって申し訳ありません」


 この村は文字の読み書きが出来る者も少ないが、それ以上に四則計算が出来る者が不足していた。

 安心して計算を任せられるのは俺とジェシー以外だと村長のマッシュさんとドリスさんくらいのものだ。


 しかも、マッシュさんは酒に酔っている。

 不安がないと言えば嘘になる。


「員数確認など読み書き計算が得意な者を四人に手伝いをさせているので安心してください」


 グレイグさんがこちらの不安を見透かしたように言った。

 なるほど、すべて把握済みと言うことか。


 やはりこの年配の騎士は侮れない。

 マクスウェル辺境伯の懐刀と言われるだけのことはあるようだ。


「パーシー・マクスウェル様とクラーラ・サザーランド様をご紹介させてください」


 彼の示した先には二人の貴人がいた。

 グレイグさんにうながされるまま俺たち二人は部屋の中央へと進む。


「錬金術師のルー・クラッセン殿と神官のジェシー・リント殿です」


「パーシー・マクスウェルだ」


 こちらが挨拶をするよりも先に銀髪の青年が人懐こそうな笑みを浮かべて右手を差しだした。

 戸惑いながらも彼と握手を交わす。


「素晴らしい集会所だ。これほどしっかりとした作りの建物は領都でもそうそう見かけないな」


「錬金術で材料を加工しただけです。実際の建築は村人総出でやりました」


「聞いている。しかし、いままで村人総出で建てた建物との違いは一目瞭然だ。その要因は何かとなれば考えるまでもないだろう?」


 パーシーの言う通りだ。

 これまでも村人総出で家屋を建てていたのだから、ここまで違う要因はなにかとなれば考えるまでもなかった。


「私の錬金術が皆さんの役に立ったと評価頂け、とても光栄です」


「評価したのはそこではないのだけれどね」


 苦笑いをして受け流そうとする俺にパーシーが聞く。


「この村の建物も二十日余ですべて建て替えたそうだね?」


「それも私一人でやったことではありません。村の皆さんの協力がなければ、ここまでのことは出来ませんでした」


「謙遜しなくてもいいよ。村人たちからは君たち二人を賞賛する言葉が飛びだした。特に錬金術師殿の活躍はこちらから尋ねるまでもなく、かなり詳細に聞かされたと報告を受けている」


 村の急速な発展に俺とジェシーが関わっていると考えたグレイグさんが部下たちを使って、物資引き渡しの傍ら村人に聞き込みを行ったそうだ。


「少々誇張があるようです」


「誇張があったとしても君が規格外の錬金術師であることは明白だ」


 正直言えばまだ半信半疑ではあるがね、と微笑んで言う。


「どうだろ? 私の目の前で馬車小屋と馬小屋を作って貰えないだろうか?」


「パーシー様、まだ挨拶の途中です」


 グレイグの言葉にパーシーが「申し訳ない」と両手を挙げてすぐさま俺から離れた。

 続いて、グレイグにうながされて銀髪の少女が一歩進み出る。


「はじめまして、ルー・クラッセン様、ジェシー・リンド様。後任候補となりましたクラーラ・サザーランドです」


 涼やかな声が耳に届く。

 俺とジェシーの挨拶が終わった後も俺のことを見つめるクラーラに聞く。


「あの、何かありましたでしょうか?」


「あら、私ったら……」


「クラッセン殿の見事な銀髪と琥珀色の瞳に見入っていたのだろう」


 恥ずかしそうに俯く彼女の隣でパーシーが「許してやってくれ」と笑った。


「辞めてください、パーシー兄様」


 クラーラは抗議の声を上げながら更に顔を赤くした。

 思春期の女の子が若い男の顔に見入っていたと言われれば、恥ずかしくもなるのも分かる。


「琥珀色の瞳はともかく、銀髪は珍しいですからね」


「失礼なことをしてしまって申し訳ございません」


「お気になさらずに」


 先ほど遠目に見たときも驚いたが、こうして近くで見ると本当によく似ている。

 白銀の髪と琥珀色の瞳というのもあるが、それ以上に顔立ちがあまりにも似ていた。


 屋敷にあった母の若い頃の肖像画を思いだす。

 血筋か……。


 祝福の儀を終えた馬車のなかでの母との会話が脳裏をよぎる。


『ルドルフ、お祖母様の話をしたときのことを憶えている?』


『私の祝福の儀を終えたら、私を連れて一度里帰りをする、と言っていたことですか?』


『仲直りするために、ね』


 少し緊張していが、それでも弾んだ声だった。

 駆け落ちしたことは悔いていなかっただろうが、それでも祖母と喧嘩別れしたことは後悔していたのだと思う。


 俺の思考をパーシーが破る。


「マクスウェル家は代々銀の髪が多く、直近六代の当主はすべて銀の髪をしていた。なかでも、銀の髪に琥珀色の瞳の者は魔力量が多いと言われている」


 直近六代の当主の治世では戦時はもちろん、内乱で国内のほとんどが疲弊しているときであってもマクスウェル領だけは経済、治安ともに安定していた。

 そのことから、銀の髪を持つ者が次代の当主となるのだと信じ込まれているという。


「シャーロット姉さんは赤毛に、というか銀の髪でないことに劣等感を抱いているんだ。クラッセン殿を嫌った理由は銀の髪と琥珀色の瞳が理由だろうね」


 パーシーも最後は溜め息交じりに「寛大な気持ちで許してやってくれると嬉しい」と溢した。

 そんな幼稚な理由で人を嫌うのかよ。


 内心で呆れていると、グレイグさんがパーシーを軽く睨み付けて話題を変える。


「さて、村の発展について色々と聞かせて頂きたいと考えていましたが、まずは実際に錬金術師としての腕前を見せて頂いてもよろしいですか?」


「そうですね、人数分のベッドを作りましょうか?」


 パーシーとクラーラを筆頭に騎士たちのほとんどが集会所に滞在するとなったが、大人数の宿泊を想定していなかったのでベッドなど不足している設備が幾つかあった。


「それも必要ですが、先ほどパーシー様がおっしゃったように馬車小屋と馬小屋をお願いしてもよろしいですか」


「ええ、構いません。それで、どちらを先に作成しましょう?」


 一般的な錬金術師よりも優れていることをごまかすつもりもなかったので即答する。


「ベッドを先にしよう」


 パーシーの一言で人数分のベッドを作成することになった。

 早速、パーシーが使う予定の部屋に移動してベッドと衣装棚、ソファーとテーブルを作製した。


「あら……、もう作ってあったのですね」


「用意が良いのは感心するが、私は錬金術で作るところを見たかったのだけどね」


 クラーラとパーシーが残念そうに溢した。

 グレイグも言葉にこそ出さなかったが落胆しているのが分かる。


 そんな三人にジェシーが提案する。


「次はクラーラ様の部屋となりますから、どのようなデザインのものが良いか、ご希望をおっしゃってください」


 なるほど、それなら納得するか。

 俺たちはクラーラが使う予定の部屋へと移動しながら、彼女から要望を聞いた。


 そして、部屋へ到着するなり彼女の希望したデザインの家具類を出現させる。


「え……?」


 クラーラが疑問の声を上げてベッドを凝視し、パーシーとグレイグさんの二人は無言で部屋に並んだ家具類を見つめていた。


「せっかくですから、鏡台も用意しましょう」


 出現した鏡台を見たクラーラが感動の声を上げ、パーシーが驚きの声を上げる。


「素敵……」


「これは……鏡なのか……?」


 俺が作るガラスの透明度となめらかさは恐らくどんな熟練の職人も真似できないような代物だ。

 そのガラスを使うことで他とは比べ物にならない鏡となる。


「私の知っている鏡と違う……。いや、私の知っている錬金術と違う……。クラッセン殿、これはどういう仕組みなのか教えてくれ」


 パーシーが呆然とつぶやいた後で、我に返ったように突然詰め寄ってきた。


「少しだけ特殊な錬金術のスキルを持っています」


「特殊? どんな風に特殊なのだ?」


「私の錬金術はアイテムボックスのなかでしか作業が出来ません。そのため、こうして完成品が突然出現することとなります」


 それ以上のことは明かせないとクギを刺した。


「いや、驚嘆すべきは仕組みではなく速度と精度です……。これほどの速さと正確さで錬金術を行使できる錬金術師を私は知りません」


 高位の錬金術師に並ぶ力があるかも知れないと予想をしていたが、目の当たりにした力はそれ以上のものだった、とグレイグさんが感嘆の声を上げる。

 その傍らでパーシーがポツリと言う。


「クラッセン殿、私にも鏡を作ってもらっても良いかな?」

 俺は無言で了承をした。

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