第23話 支援物資到着の日
「あ、ジェシーさんだ」
「ブライアンたちも一緒よ」
村の近くまで戻ってきたところでカールとネリーがブライアンとユーイン、ダドリーたちと一緒にいるジェシーを見つけた。
ジェシーもこちらに気付いて軽く手を振る。
「今日は随分と早く戻ってきましたね」
「支援物資が届くとかで早く戻るよう言われているらしいんだ」
俺が他人ごとのように言うとジェシーが
「クラッセンさんも、でしたか」
と苦笑する。
「ジェシーも、なのか?」
「薬草を採りに行くと言ったら、遠くに行かずに直ぐに呼び戻せるところにいるよう、マッシュさんに言われました」
ブライアンたち三人をチラリと見て、「彼らは護衛兼監視役です」とささやく。
「監視とは随分だな。何かあるのか?」
「のんきですね」
ジェシーがため息を吐いた瞬間、支援物資と俺たち二人の関連に思い至る。
支援物資が届くと言うことはシャーロットと、この間の騎士たちが来る可能性があるということか。
「仕官の誘いならキッパリ断ったはずだ」
「私はともかく、クラッセンさんのことを一度断られたくらいで諦めるようじゃ後継者候補失格でしょう」
「何度誘われても一緒だ」
「シャーロット様とは相性が悪そうでしたね」
「そう言うジェシーはどうなんだ?」
「私は神聖教会に在籍している神官ですよ。神聖教会によほどのコネがなければ領主とはいえ、簡単に引き抜きはできません」
聞きたかったのはシャーロットの部下になる意思があるかどうか――、ジェシーの本音だったのだが上手くはぐらかされたな。
俺とジェシーの会話が一息ついたところでブライアンが待っていましたとばかりに話しかける。
「クラッセンさん、今日は何を仕留めたんですか?」
ブライアンと一緒にいるユーインとダドリーも興味津々といった様子でこちらを見ている。
そんな彼らに向かってネリーが呆れたように言う。
「本当、食いしん坊なんだから」
「育ち盛りなんだよ」
「そうそう、肉は毎日でも食べたいからな」
ユーインとダドリーがネリーに言い返す傍ら、ブライアンが再び俺に聞く。
「で、何が狩れたんですか?」
「そういうことは俺じゃなくヴィムさんに聞け。狩猟の責任者はヴィムさんなんだからな」
三人は揃って俺とヴィムさんに謝ると、ヴィムさんに同じことを聞いた。
ヴィムさんは鷹揚に笑いながら告げる。
「イノシシ三頭と鹿一頭だ」
「誰が仕留めたんですか?」
と聞くユーインにヴィムさんは「少しは俺の立場を考えてくれよ」とぼやきながら、イノシシ二頭と鹿を俺が仕留め、ヴィムさん自身がイノシシ一頭を仕留めたのだと話した。
「やっぱりクラッセンさんはスゲーや!」
「アーマードベアと同じように頭に一撃で?」
ユーインとダドリーの質問に曖昧に答えていると、ジェシーが「そのくらいにしておきなさい」と助け船を出してくれた。
そしてヴィムさんに言う。
「そろそろお昼になります。薬草も十分に採れたので一緒に戻りましょう」
俺たちは一緒に村へ戻ることにした。
◇
狩りから戻ると見かけない人たちが大勢いた。
武装こそしていたがどこかサマになっていないというか、冒険者や傭兵と違って普段から武器や防具を装備し慣れていないように見える。
「新しい入植者かな?」
「違いますよ。彼らは近隣の開拓村の人たちです」
俺の独り言にジェシーが答えた。
なるほど、それで村の人たちと妙に親しげに会話をしていたのか。
「随分と集まっているけど何かあるのか?」
「例の食糧と物資が届く日が今日だと聞きつけた近隣の開発村の住民が、それらを分けて欲しいと集まってきたんですよ」
支援された食糧を売って現金収入を得るつもりで、マッシュさんが事前に近隣の開拓村に触れ回っていたのだと説明をしてくれた。
「それで馬車や荷車が何台もあるわけか」
「開拓村はどこも物資と食糧が不足しています。物資と食糧が手に入るとなったら多少の無理はします」
辺境の開拓地において貴重品である馬車や荷車をあれだけ集めたのだから、彼らも相当無理をしているのだと容易に想像が付いた。
感心して眺めているとジェシーが捕捉する。
「こちらの目的が現金収入なのは既に伝えてあるので、現金もかなり無理をしてかき集めたはずです」
「それで武装した人たちが多いわけなのか」
「この辺りで盗賊が現れた話は聞きませんが、それでも用心に越したことはありませんから」
と笑った。
立ち止まって会話をしている俺とジェシーにマッシュさんが気付く。
それまでマッシュさんの回りにいた見知らぬ人たちもこちらを見ると、何やら興奮した様子で会話をはじめた。
「こちらを見ていますね?」
とジェシー。
見知らぬ人たちのなかには露骨に指を指している人もいる。
「狩りから戻ったから獲物を持ってきたと思っているんじゃないかしら?」
とネリー。
「まさか、ブライアンたちじゃあるまいし」
「あのなー。一応俺たちはお前ら二人よりも一つ年上なんだからな」
からかうカールにブライアンが口を尖らせる。
「クラッセンさんとジェシーさんを呼んでいるようです」
ヴィムさんの言うとおり、マッシュさんが俺とジェシーを交互に見ながら手招きをしている。
「そのようですね」
「行きましょうか」
俺とジェシーはマッシュさんの方へと歩き出す。
五メートルほどの距離まで近付くと、それまでマッシュさんの周りにいた見知らぬ人たちが小走りに駆け寄り、たちまち取り囲まれてしまった。
そして矢継ぎ早に話しかけられる。
「あなた方がお噂の錬金術師様と神官様ですか。いやー、お二人ともお若い」
「こちらの開拓村が羨ましい限りです」
「錬金術師様、是非、我々の村にも家を建てに来てください」
「神官様、うちの村でも立派な教会を用意いたします。月に三、四回で構わないので足をお運びください」
次々と話しかける人々から逃れようとヴィムさんの居るところへ向かおうとしたそのとき、隠れるように立ち去ろうとするマッシュさんの姿が目の端に映った。
間違いない、元凶はマッシュさんだ。
立ち去ろうとする彼の姿を見た瞬間にそう思った。
「マッシュさん! 説明をしてください!」
「そうですね、是非とも落ち着いたところでお話がしたいですね」
立て続けに俺とジェシーの言葉が発せられると、マッシュさんはビクッと身体を震わせて立ち止まる。
そしてなんとも情けない顔でこちらを振り向いた。
「えーと……」
「取り敢えず、集会所へ行きましょうか」
「あそこなら、声もそうそう外には漏れないでしょう」
俺とジェシーは周囲に集まった村人をかき分けてマッシュさんを捕まえた。
「何というか、酒に酔った勢いで口が滑ってしまったんだよ」
「そうですか、口が滑ったんですか」
「滑った理由はこの際後回しにしましょう。その軽い口から漏れた情報をまずは確認しましょう」
マッシュさんの左右の腕を抱えた俺とジェシーは、何が起きたのかと呆気にとられる人々を置き去りにして集会所へと向かった。
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