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第20話 褒美

 残る二体のオーガに騎士たちがとどめを刺して湧き上がるなか、年配の騎士が俺とジェシーをシャーロットに引き合わせてくれた。


 軍の指揮官が遠征で用いる折りたたみ式の椅子。

 それに腰を下ろした彼女が不機嫌そうな顔をこちらへと向ける。


「オーガ二体の足止め、見事であった。お祖母様に報告をしたのちに褒美を取らせよう。何か希望があればこの場で申してみよ」


「二体ではありません。最初の一体の両目を射貫いたのもこの二人でございます」


 年配の騎士の言葉にシャーロットが眉をひそめた。


「報告と違うな」


「報告と違うと申しますと……?」


「オーガの目を射貫いたのはこの矢だと報告があったが?」


 シャーロットが傍らのテーブルに載せられた二本の矢を手に取る。

 それは見覚えのない矢だった。


「それは騎士の矢ですな……」


 騎士たちは武具に個人の記章きしょうを刻む者が多い。

 シャーロットの差しだした矢には騎士の記章が刻まれている。


 年配の騎士はその記章に見覚えがあるのだろう、それを見るなりオーガ二体にとどめを刺して湧き上がる騎士たちの方へと鋭い視線を投げかけた。


「お前たちが使った矢は、命中精度向上の魔法が付与されたものだったそうだな?」


「はい」


「そんな貴重な矢を回収しなくても良いのか?」


 静かだが怒気を孕んでいる。

 こちらを疑っているのが口調と表情で分かる。


「回収できるに越したことはありませんが、付与された効果は一度射ると消失してしまうように作られています」


 必要以上の労力をかけて回収しなくても問題ないのだと説明した。

 こちらが射た矢を敵が拾って使う可能性だってあるんだ。


 そのくらいの対策はしてある。

 もちろん、回収できるに越したことはない。


 修理して再度魔法を付与すれば良いのだから、素材から作るよりも遙かに少ない魔力消費ですむ。


「そうか……」


「希望する褒美があれば言いなさい」


 考え込むシャーロットに代わって年配の騎士が俺とジェシーをうながした。


「最初の一体目のオーガに関しては審議する必要があるが、あちらの二体に関しては疑うべくもない」


「では恐れながら申し上げます」


 シャーロットの許しが出たところで俺は恭しく頭を垂れてジェシーと相談した褒美を伝えることにした。

 オーガ二体の足止めをしたのが俺とジェシーであることを伏せて欲しいことを願いでた。


「褒美の希望の前に、オーガ二体の足止めをしたのが我々であること、足止めした手段についても伏せて頂くようお願いいたします」


「それは足止めも含めて騎士たちの手柄にしても良いと言うことか?」


「さようでございます」


「理由を聞いても良いか?」


「これは褒美にも繋がるのですが、私もジェシーも権力者から干渉されたくないのです。噂が広がればこの領地の有力者はもとより他領の貴族からも仕官を求められる可能性がございます」


 それを避けるためなのだと伝えた。


「分かった。そのくらいなら私の一存で聞き届けよう」


「実はもう一つございます」


 俺はこちらが本命なのだと前おいて言う。


「オーガ二体の市場価格相当の麦を支援物資として頂戴出来ませんでしょうか」


「麦だけで良いのか?」


 オーガ一体の魔石と素材を市場で売れば金貨十枚にはなるとジェシーが言った。

 大人一人の人頭税が金貨一枚。


 大人一人が一年間生活するのに必要な金額が金貨二枚と言われている。

 金貨二十枚分の麦があれば五十四人の村人全員が一年以上飢えずにすむ。


「食糧のご支援を頂ければ開拓と開拓に必要な物資の調達に専念出来ます。一年後には近隣の村など比べ物にならない発展を遂げるでしょう」


 シャーロットにとっても利があることを告げた。


「お祖母様の許可を頂いたら直ぐに食糧を送ると約束しよう」


「ありがたき幸せ」


「ご厚情感謝申し上げます」


 俺とジェシーが感謝の言葉を述べた直後、若い騎士の声が耳に届く。


「シャーロット様、こちらがオーガ二体の両目を射貫いた矢にございます」


 部隊長が四本の矢を恭しくシャーロットに差しだした。

 シャーロットは矢を受け取りながら部隊長に問う。


「こちらの村人二人が射貫いたと報告を受けたが?」


「我々が討伐にあたりましたところ、村人の放った矢は目の付近に刺さっており多量の出血が認められました。その血が目に入り一時的に視力を失ったものと推察いたします」


「この村人二人が嘘を吐いたということか?」


「一時的に視力を失ったオーガを見て、目を射貫いたと勘違いしたのかもしれません」


「そうか……。よくやった。お前たちはオーガの解体作業にかかれ」


「承知致しました」


 部隊長は揚々と立ち上がると俺とジェシーに向かって


「おい、お前たち、付いてこい」


 横柄な口調で言った。

 しかし、年配の騎士が間髪を容れずに言う。


「この二人には話がある」


「畏まりました」


 部隊長は深々と頭を下げるとヴィムさんと少年たちを呼び寄せた。

 彼らと一緒に駆け寄るドリスさんを見てシャーロットが言う。


「まて!」


「は!」


「その女にも話がある」


「女、お前はここに残れ。他の者はオーガの解体作業だ!」


 ヴィムさんたちを引き連れた部隊長が遠ざかると、唇を噛み締めているシャーロットに年配の騎士が言う。


「虚偽の報告です」


「分かっている……」


「二体のオーガの両目をこの二人の若者が射貫くのをこの目で見ました」


「分かっていると言っただろう……」


「最初の一体目も騎士たちの後方から射られた矢がオーガの両目を同時に射貫いています」


「分かっていると言っているだろうが!」


「彼らをどう処分するおつもりですか?」


 年配の騎士が歓声を上げる騎士たちの方を見た。


「処分など出来るわけがなかろう!」


 処分などしたら、そんな騎士たちを引き連れてきたシャーロットの責任が問われるのは容易に想像できた。


「今後はもう少しまともな人選をされることです」


「鍛えろ」


「は?」


「お前が鍛えろ。魔物討伐が出来るだけの騎士に鍛え上げろ、と言っているのだ」


「技量は鍛えられても性根までは直せません」


「貴様!」


「腹を立てる相手が違います。彼らをあそこまで増長させたのはシャーロット様です」


「貴様……! お祖母様の直臣だからと言っても言葉が過ぎるぞ!」


「良い機会なので言わせて頂きます。お父上が率いた騎士団を目指しているのは理解できますが、騎士の見た目にこだわりすぎです」


「騎士は見た目が重要だ! 颯爽とした騎乗姿を現しただけで領民に安堵を与えるものでなければならない」


 おい!

 ちょっと待てよ!


 妙に若くてイケメンの騎士が揃っていると思っていたが、もしかして容姿で選んだのか?


「騎士を容姿で選ぶなど……」


 年配の騎士が軽く頭を振った。


「容姿だけではない。家柄も考慮している」


「判断材料としては間違っています」


 悪い予感が的中したようだ。

 俺とジェシーの目が合った。


「実績が欲しいのでしたら」


「分かっている!」


「錬金術師と神官! お前たち二人を臨時で騎士見習いとして雇ってやる。次の開拓村へ同行しろ」


「お断りします」


「謹んで辞退させて頂きます」


「は……?」


「彼らはシャーロット様の配下になるくらいなら他の後継者候補のところへ仕官すると申しております」


「私が後継者の最有力候補だぞ!」


 そういう噂だったが、いまとなってはそれも怪しいというか、情報戦略として彼女が流布したものではないかと疑いたくなる。


「先ほど、彼らに干渉しないと約束をしたばかりです」


 シャーロットは年配の騎士の言葉に拳を握りしめると、理不尽な怒りを湛えた目で俺とジェシーを睨み付けていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続き待ってます!
[良い点] なろう小説はこうでないといけませんね。 最近しょうもない日常の話を20話も30話も 書くバカがいます。たまにならいいが、ここは なろうだってわかっているのでしょうかね。 あなたにはそんな風…
[一言] 全てを取り返すことができるのか?
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