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第16話 対オーガ戦(1)

 視認できた三匹のゴブリンが大木の陰へと隠れた。


「こう遮蔽物が多いと狙いを付けるどころか正確な数も分からないな」


 引き絞った弓を緩めながらヴィムさんが舌打ちをした。


「ゴブリンは全部で五匹です」


「確認できたんですか?」


 ヴィムさんが驚いた顔でこちらを見た。


「効果範囲はそれほど広くありませんが、索敵が出来る魔道具を持っています」


「それは心強いです」


 俺は皆にゴブリンが隠れている場所を大声で伝えると、ゴブリンが隠れている側面へと回り込ことにした。


「ゴブリンを狙える位置まで移動するので援護をお願いします」


 ヴィムさんとジェシーに声を掛けると二人が無言で首肯し、ジェシーが短槍を弓へと持ち替える。


「クラッセンさん! 俺たちは何をしたら良いですか?」


 ユーインたち五人が俺を見た。

 五人ともオーガの出現に怯えているのが分かる。


 ゴブリンだけなら対処できても、直ぐ側で騎士団と戦うオーガを気にしながらではどんなミスが起こるか分からない。

 出来るだけ騎士から遠ざけたいな。


「君たちはゴブリンがこっちへ突撃してきたときのために待機だ。ヴィムさんとジェシーを守ってくれ」


 緊張した声音で返事をする彼らの声を背後に聞きながら俺は木の陰から飛び出す。

 そのとき樹木のきしむ音とオーガの咆哮、騎士たちの叫び声が耳に届く。


「ガア!」


「クソ! なんてパワーだ!」


「弓矢じゃダメだ! 攻撃魔法を足元に打ち込め!」


 聞こえてくる声から判断する限り、盾隊はオーガの一撃にも耐えられるだけの力があるようだ。

 盾隊で耐えしのぎ、弓矢で牽制している間に攻撃魔法を練り上げる。


 指示されたとおり作戦を遂行できるのは訓練のたまものなのだろう。

 俺は騎士たちに頼もしさを覚えた。


「村人たちは何をやっている! 援護をせんか!」


「弓矢でも投石でも構わん! オーガを牽制しろ!」


 騎士たちの怒声が響く。

 見直した途端これか。


 オーガに気を取られるあまり、側面からゴブリンが攻撃してきていることに気付いていないようだ。


「左側面から五匹のゴブリンが来ています!」


 ヴィムさんが騎士に向けて叫んだ。


「ゴブリンだと!」


「女! 貴様はゴブリンの接近に気付かなかったのか!」


 驚く声に続いてドリスさんを責めるような声が聞こえた。

 本当に訓練された騎士なのか怪しくなってきたな……。


「申し訳ありません」


「この役立たずが!」


 乾いた音とドリスさんの悲鳴が響く。

 騎士が一般の女性を引っ叩いたのか?


 見えぬ騎士への怒りが湧き上がる。

 それと同時に索敵でゴブリンの接近に気付いていながら報告しなかったことへの後悔の念が襲う。


 俺が知らせていたらドリスさんが殴られることはなかったんだ……。


「やめんか! いまはオーガに集中しろ!」


 シャーロットの騎士を叱責しっせきする声が響いた。

 続いてこちらにも指示が飛ぶ。


「村人たちはゴブリンを始末したらこちらの援護に回れ!」


 その間、ゴブリンの放った投石が俺めがけて放たれたがどれも大きく外れてくれた。

 俺は目標地点としていた巨木の陰に滑り込む。


 よし!

 ここからなら狙える!


 命中精度向上が付与された矢をつがえ、飛び込んできた方向とは反対側に飛び出した。

 視界に二匹のゴブリン。


 ゴブリンたちが投石をする間もなく矢を連射する。


「グギャ」


「ゴフッ」


 頭部に矢を突き立てられた二匹のゴブリンがくぐもった声を上げた絶命した。


「二匹仕留めた!」


「こっちも一匹やりました!」


 俺の声に呼応するようにヴィムさんの声が響く。

 そのとき残る二匹のゴブリンが逃げ出すのが見えた。


 位置が悪い!


「残りの二匹が逃げます!」


「こちらでも確認しました!」


「引き受けます!」


 俺の位置からは上手く狙えないことを告げると、ジェシーとヴィムさんが逃走するゴブリンに向けて矢を放つ。

 俺の視界から消えたゴブリンが断末魔の悲鳴を上げた。


 続くジェシーとヴィムさんの声。


「仕留めましたよ」


「これで全部ですか?」


「五匹、すべて倒しました」


 少年たちから歓声が上がった。

 次の瞬間、少年たちの歓声をかき消して騎士たちの叫び声が響く。


「オーガがもう一体でたぞ!」


「いや、二体だ! 右側からも来ている……」


 樹木が大きく揺れ、オーガの発する重低音の咆哮が響く。

 姿は見えないが、俺の位置からでも何か巨大な何かが迫ってくるのは分かった。


 俺はジェシーたちの傍らを駆け抜けながら声を掛ける。


「騎士団に合流します。ヴィムさんは子どもたちをお願いします」


「分かりました」


「私も一緒に行きます」


 ジェシーが俺の後を追って駆けだした。

 オーガと交戦中の騎士たちのもとへとたどり着くと、騎士に交じってドリスさんが攻撃魔法を放っていた。


「ゴブリン五匹を片付けました」


「狩人はどうした?」


「子どもたちを指揮して他の魔物が近付いてこないか周辺の警戒にあたっています」


 俺とジェシーが直ぐにでも参戦出来ることをシャーロットに伝えた。


「援護に加われるのは錬金術師と神官の二人だけか」


「錬金術師ですが弓を使えます」


「神官ですが同じく弓を使えます」


「何でもいい、オーガの脚を止めろ!」


 シャーロットの指示が飛んだ直後、ドリスの水の弾丸を膝に受けてバランスを崩したオーガが地面に倒れ込んだ。


「シャーロット様、撤退しましょう!」


「一体ならともかく、三体も相手にするのは危険です!」


「女! 脚だ! いまの攻撃魔法を同じ箇所に繰り返し撃ち込め!」


「火魔法は脚を、弓はオーガの目を狙え!」


 撤退を訴える騎士と必死に応戦する騎士の声が入り交じって飛び交う。

 その最中、シャーロットの怒声が響く。


「討伐隊を組んでおいておめおめと逃げ帰れるか!」


「しかし、予想以上の戦力です!」


「逃げ帰っておいて、お祖母様になんと報告をする!」


「生きてさえいれば汚名返上のチャンスも訪れましょう」


 俺はシャーロットたちのやり取りを横目にオーガに向けて弓を引き絞る。

 俺の隣でジェシーも弓を引いている。


「クラッセンさんから頂いた矢を使わせて貰います」


 ジェシーとヴィムさんには命中精度上昇の効果が付与された矢を十本ずつ渡していたのだが、ジェシーはそれをここで使うと言った。


「俺はオーガの左目を狙う」


「では、私は右目を狙います」


 二人の矢が同時に放たれた。


「一体仕留めれば活路も開ける!」


「三体に囲まれたら逃げることも難しくなります!」


 シャーロットと年配の騎士とが口論する最中、俺たち二人が放った矢がオーガから光を奪った。


「ガアァァァー!」


「オーガの左右の目を射貫いた!」


 オーガの苦悶の叫びに続いて俺の声が森のなかに響き渡る。


「本当か?」


「何だと!」


 シャーロットと年配の騎士の驚く声が重なった。


「ゴアー!」


 半狂乱となったオーガが手足を振り回して転げ回る。

 左膝を痛めて思うように立ち上がれなかったところに視力を失ったのだから無理もない。


「シャーロット様、撤退を!」


「お前は逃げることしか考えていないのか!」


 年配の騎士を怒鳴りつけたシャーロットが他の騎士たちに向かって号令する。


「頭蓋は硬い! 喉だ、喉を狙え!」


 パニックになっているいまがチャンスだ、と騎士たちにハッパをかけた。

 それを聞いていたジェシーが口元を綻ばせる。


「撤退するのが正解だと思いますが……、村の開拓者としては脅威を取り除けるチャンスは逃したくありませんよね?」


 神官とは思えないほどいい性格をしている。

 俺も自然と口元が綻ぶ。


「死に体のオーガは騎士団に任せて、俺たちは無傷のオーガの足を止めに行こう」


 両目の視力を失ったオーガなんて放っておけば息絶える。

 村にとっての脅威はこちらに迫っているオーガだ。


 ここまでのシャーロットの言動を考えれば、迫るオーガに重傷を負わせることが出来れば討伐に踏み切るはずだ。

 後継者候補として実績が欲しいのならお膳立てをしてやろう。


 悪いが、その立場と見栄っ張りな性格を利用させて貰うとしよう。

 俺とジェシーは迫るオーガ二体に向かって駆けだした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 弓で目を狙うくらいなら喉か心臓を狙ったほうがいい気がする…… そもそも目に矢が刺さったら脳まで達して死なない?
[一言] 実際の戦闘行為までまわりくどい。ノンストレスでサクサクと行こう。
[一言] この状況でシャーロット以下全員始末して、領地を実効支配する それくらいの精神でないと、この物語世界は生きていけんぞ!
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