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第14話 シャーロット・マクスウェル

 俺たちが広場に到着すると既にかなりの数の村人が集まっていた。


「私たちが最後のようです」


 とジェシー。


「総勢五十四人か」


「数えるのが速いですね」


「二人とも静かにお願いします。シャーロット様がお見えになります」


 案内をしてくれた男性が入り口の方を見ながら言う。

 彼の視線の先に目をやると騎乗した六人の騎士の姿が見えた。


 その後ろに二頭立ての馬車が続き、馬車の後ろにも騎乗した騎士が四人見える。

 何れも機動性を重視した革製の鎧をまとっていた。


 軽装とはいえ騎士だけでも十人か。

 辺境とはいえ随分と贅沢な護衛だな。


「騎士を十人も随行させなければならないほど道中の治安が悪いのか?」


「そこまで治安が悪いという話は聞いたことがありません」


「魔物が頻繁に出没する様になったので、この辺りの魔物の討伐をお願いしていたのです。今回はその討伐のためにいらしたのだと思います」


 俺とジェシーが疑問を口にするとヴィムが小声で教えてくれた。

 なるほど、革鎧をまとっているのは森のなかに入って魔物の討伐をするからか。


 納得する俺のとなりでジェシーが言う。


「それは初耳です」


「神官様がこちらに来られて間もない頃に陳情したものですから、ご存じないのもしかたがないでしょう」


「つまり、十人の騎士は魔物の討伐要員ということか」


「討伐には我々も同行します」


 村人のなかでも戦闘系のスキルを所持している者たちも騎士を手伝って魔物討伐に参加することになるとヴィムが言った。

 それを聞いたジェシーが落胆したよう顔で言う。


「私たちも参加することになるかも知れませんね」


「俺は戦闘系のスキルを持ち合わせていないぞ」


「スキルなんて関係ありませんよ。実際に戦えるかどうかが重要なんです」


 辺境の開拓村ともなれば人材不足は否めない。

 戦闘スキルを所持していなくても獣を狩ったり魔物と戦ったりすることは日常茶飯事なのももっともな話だ。


 スキルがないから出来ません、なんて甘えたことは言っていられないか……。


「そうなったら協力するさ」


「私たち二人はほぼ決まりでしょうね」


「お二人に参加して頂けるなら私としても心強いです」


 とヴィムさん。


「到着しましたよ」


 デリアさんが肘でヴィムさんを突く。

 俺とジェシーも彼に倣って口を閉ざす。


 騎士に先導された豪奢ごうしゃな馬車が広場へと進入してくると、村長であるマッシュさんが進み出た。

 馬車が広場の中央に止まる。


 馬車から姿を現したのは騎士と同じように革鎧をまとった、スラリとした美しい女性で年の頃は二十代半ばと言ったところである。

 長い金髪を結い上げていた。


「あの方がシャーロット・マクスウェル様です」


 ヴィムさんが小声で教えてくれた。


「村人はこれで全部か?」


 馬車から降りるなり、シャーロットがマッシュさんに聞いた。

 マッシュさんは確認するように一旦背後を振り返るが、直ぐに彼女へと向き直る。


「はい、全員が集まっております」


「随分と人数が増えたじゃないか」


「お陰様でこの一ヶ月余で八人も増えました。現在、総勢で五十四人となります」


 この近隣の開拓村の中で最も人数の多い村となっていた。

 そのことを聞いたシャーロットが満足げにうなずく。


「その調子で励めよ」


「はい」


 返事に続いて、マッシュさんが今回の魔物討伐の陳情を聞き入れてくれたことに対するお礼を口にする。


「この度は私どもの願いをお聞き入れくださり誠にありがとうございます」


「構わん、これも務めだ。それに開拓民では魔物への対処は難しかろう」


「恐れ入ります」


「討伐隊は明日の早朝に出発する。お前たちのなかから同行する者は何人になる」


「実は人選の途中でして……」


 予想以上に早い対応で自分たちの準備が追いついていないことを謝罪した。


「なら、この場で決めろ」


「はい?」


「聞こえなかったのか? 同行する者をいますぐ選べと言ったのだ」


「は、はい。ただちに」


 マッシュさんはそう言うと、シャーロット様一行に自宅を宿として使って欲しいと申し出た。


「先に拙宅にご案内いたしますので、一先ずお休みください。人選を終えましたらご報告に上がります」


「お前はバカなのか? 私は同行する者をいますぐ選べと言ったのだ」


 シャーロットがピシャリと言った。

 呆気にとられるマッシュさんにシャーロットの隣に控えていた騎士が怒鳴りつける。


「さっさと選ばんか!」


「は、はい!」


 マッシュさんはこちらを振り返ると、即座に八人の名前を挙げた。

 彼に名前を呼ばれた者たちが前へと進み出る。


 七人のうち五人はアーマードベアに襲われていた少年たちだった。

 冒険者だと言っていたが、成人前の少年少女が騎士に同行して魔物討伐をすることに驚いた。


 人材不足は深刻なようだ。

 残る二人は狩人であるヴィムさんとドリスというおっとりした感じのする二十代半ばの女性だった。


 他の村人たちの反応を見る限り、当然の人選という印象を受ける。

 俺はジェシーに話しかける。


「人選に誤りはないのか?」


「妥当だと思います」


 五人の少年少女は全員冒険者でパーティー登録をしているのだと説明してくれた。


「ドリスさんというのは?」


「水魔法と風魔法が使えます」


 彼がこの開拓村に来るまでは彼女が村で一番の戦力だったとささやいた。


「そこの二人! 何をこそこそと話をしている!」


 シャーロットの鋭い声が響いた。

 視線をそちらに向けると彼女の目が合う。


「魔物の討伐に志願しようと相談していました」


 即答した。


「志願するのはいいが、村長はお前たち二人では力不足だと思ったようだぞ」


 シャーロットが鼻で笑った。


「ジェシーは一ヶ月程前にこの村に入植してきたばかりですし、私は今日こちらへ到着したばかりです」


 人選に間に合わなかったのだと告げた。


「随分と生意気な口をきく若造だな」


「お役に立てると思います」


「彼ら二人にはこれから参加を頼むつもりでした」


 マッシュさんが冷や汗を拭いながら言う。


「ほう、役に立つのか?」


「はい、間違いなくお役に立ちます」


 シャーロットの冷ややかな問いにマッシュさんが即答した。

 彼女はマッシュさんの言葉など無視して真っ直ぐに俺を見て言う。


「それで、お前たちは何が出来る?」


「私は神官です」


 とジェシー。


「光魔法が使えるのか?」


「はい。それ以外にも剣と槍、弓をたしなんでいます」


「銀髪、お前は?」


「錬金術師ですが、弓もそれなりに使えます」


 シャーロットが面白くなさそうに言う。


「神官に錬金術師か……。こんな辺境の開拓村に流れてくるようでは大して期待はできないが、大口を叩いたのだからそれなりに役に立って見せろよ」


 別に大口を叩いたつもりはないのだが……。

 どうやら俺は彼女の機嫌を損ねたようだ。


「ご期待に沿えるよう精一杯頑張らせて頂きます」


「微力ながら尽力をさせて頂きます」


 俺とジェシーが深々と頭を下げた。

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