表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

赤き魔剣の皇帝

「ラズデム隊長!! 西部、および東部方面国境は双魔将により陥落しました!!」


 老王の死と同日。杖と羽の国の国境もまた窮地を迎えていた。

 苦しかった防衛ではあるが王都より聖騎士が送り込まれ、彼らが加わったことにより帝国軍を押し返す事すらできていた。

 散発的に続いていた小規模な帝国兵の突撃も止み、一時の安息を得たラズデムたち国境防衛部隊だったが、その時間も長くは続かなかった。

 帝国軍最強の兵、「双魔将」と呼ばれる二名の将軍が左右に別れ国境を襲撃。彼らが操る圧倒的な力で兵士が次々に殺され、生存しているのは中央の部隊だけとなる。

 双魔将が中央へと杖と羽の国の兵士を挟みこむように襲ってきているため、聖騎士は後退しつつ中央へ集合し、双魔将が揃ったところを一かバチかで残存兵力で以て総攻撃をかける算段となっていた。

 が、ラズデムたちが陣形を完成させるまでの間、帝国軍からの追撃はなかった。

 双魔将は揃い、帝国兵も集結したというのに聖騎士たちとにらみ合いを続けるばかりで、一向に突撃もしてはこないのだ。


「何だ……? 帝国の連中は何を考えている?」


 戦力が拮抗し、手を出せないと考えているのかとラズデムは思ったが、そんなはずはない。双魔将を除いても兵力の差は倍近くある。何も考えずに突撃しても相手の方が勝てるはずなのだ。

 聖騎士がいるとはいえその中で突出して最強であった月のサルカドラもこの場にはいない。過去の侵略を彼だけで押し返した事もあるが、輝く鎧を纏うため、見ただけで不在であるのは帝国も理解しているだろう。

 何らかの策略が働いているのかと常に思考を続けるラズデムであったが、そんな彼の耳に場違いな馬車の車輪の音が聞こえる。


「す、すみませ~ん!!」


 振り向けば、そこには馬車に衣服や食料、家具などを詰め込んだ一団が押し寄せてきている。剣と団結の王国からの避難民であった。

 訳の分からぬ増援を目にし、ラズデムばかりでなく周囲の兵士も困惑の目を向ける。


「なっ、何をしに来たのだ! ここが帝国との国境であると理解して行動しているのか!!」

「いえはい、どうも王都の方に亡霊が近付いていると聞きましてね。私たち、逃げてきたんですよ」

「っ!? お、王都に、亡霊が……!?」

「ええ。だもんで、我々は帝国の方に避難しようかと思いまして」


 王都に亡霊が迫っていると聞き、ラズデムは一時茫然自失する。

 幾度も送った国内への偵察部隊が戻らぬばかりか、この国の喉元へ王国を滅ぼした存在が接近しているという。

 一説では亡霊とは帝国軍の部隊であるとも噂されているため、ラズデムはそれの意味するところを察する。

 双魔将が動かぬのは、この国境への襲撃が単なる囮である可能性を示している。杖と羽の国の戦力をこちらに集中させ、手薄になった王都を亡霊が陥落させる、という手筈ではないのか。


「まずい……! 急ぎ王都まで援軍を」


 が、彼の推測は的外れであった。帝国の狙いは国境であり、亡霊は関係のない存在だと知る。

 動きの無かった帝国軍が、とうとう動き始めたのだ。海が割れるかのように帝国兵が中央から別れ、双魔将もまた左右に割ける。


「なっ……!? 何だと……!?」


 彼らの間を通り、現れたのは黒き鎧の男。翼を広げた悪魔の王を思わせるような棘の装飾が付いたその鎧は、纏う者が誰であるかを一目で判断できる。


「皇帝、ディオンダール……! 前線まで出てくるとは……!!」


 そこに立つのは、「つらぬく槍の帝国」の皇帝、ディオンダールであった。

 ラズデムの言葉を聞きつけた王国の避難民は、彼とは対照に素晴らしい事を聞いたかのように顔を明るくする。


「おお、あの人が帝国の偉い人なのですね! いやあ、それなら話が速くて助かりますよ!」

「はぁ? 何を、……おい! なんのつもりだ!?」


 避難民の一団はラズデムらの横を通り、無謀にも皇帝の元へ馬車を走らせる。

 ディオンダールの前まで行くと、馬車を降りて避難民の一人が跪く。


「つらぬく槍の帝国の皇帝様ですね! 我々は剣と団結の王国より逃れてきた避難民でございます! 先日までそちらの杖と羽の国にて保護させていただいていたのですが、こちらも危険な状況となりまして、あなた様の帝国へ避難させていただきたく存じます!」


 自分たちの経緯を述べ、避難民が深く頭を下げる。

 彼らは、いち早く王国を脱し杖と羽の国へ逃げたことにより死から逃れた。今回も危機を察知し素早く行動に出たまでは良かったが、同じ幸運は二度も通じなかった。


「邪魔だ」


 皇帝は自身の腰に提げた美しい輝きを持つ鞘から剣を抜いた。

 炎のように赤い刀身を持つその剣は、皇帝の眼前を占拠する避難民たちへ容赦なく振るわれる。


「レア・ラグラムッ!」


 その叫びと共に、爆炎が巻き起こる。ディオンダールの剣の軌跡に合わせ、扇状に業火が吹き荒れた。

 避難民は馬車ごと全てその炎に飲まれ、悲鳴を上げる間すら与えられずに灰と化した。


「あれが帝国で発見された魔剣の力か……!」


 敵意の無い者であろうと、彼の道を塞ぐならば容赦なく殺す。ディオンダールとはそう言った男である。

 帝国軍が待っていたのは、他ならぬ皇帝の到着であったのだ。

 ディオンダールは炭化した大地を踏みしめ、聖騎士たちへと炎の魔剣を向ける。


「道を開けよ。杖と羽の国の領土は我ら「つらぬく槍の帝国」が頂く。邪魔建てするとあらば、この魔剣、レア・ラグラムで灰にしてくれよう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ