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剣と団結の王国 王都

「……全滅だと? 我が王国の精兵が?」


 剣と団結の王国の王都、王座の間。国王ブレスタンが座す玉座の隣で、王子パルスは立ったまま兵士の報告を聞いていた。


「はい、国内各地の村や街との連絡が途絶えて半月、王都より精鋭部隊を幾つも出動させておりますが、そのいずれもが帰還せず……。皆、殺されたと考えうるより他ありません」

「……亡霊、か」


 認めたくないかのように息を吐きながら、ブレスタンはその俗称を口にした。

 火災により焼失したカレット村のハーフエルフたち。それらの憎悪が産んだとされる亡霊が王国の人間を殺して回っているという噂は城の中までも浸透しつつあった。

 だが父の呟いたその単語に、パルスは強く反発する。


「亡霊などと! そんなものは下々の民が宣う妄言です! 半魔どもの森が焼けたのをいいことに、帝国あたりが我が国へ襲撃をかけているに違いありません!!」

「なるほどな。パルスよ、お前はそのような夢を見たわけだな」

「はっ……? 夢、ですか?」


 王国が侵略の危機にあると訴えたパルス。しかしブレスタンは王子の推論を信頼するより先にそんな事を言った。

 なぜそのような質問をされたのかパルスは分からず、その様子を見てブレスタンは残念そうに嘆息する。


「以前お前の口から言ったことであろう。女神が現れ、村の危機を告げたと。先月の会合でアレンデュラ王もその話を聞いて喜んでおったのに、忘れたとでも言うのか?」

「!! そう……でしたね」

「またお前の元に未来を告げる夢があったのではないのか? 女神が帝国軍の襲来を予見しただとか」

「それは……。いえ……違います。今の発言は単なる予想にすぎず……」


 パルスは王に問いただされ、しかし事実を話した。

 これもまた予知である、と嘘を重ねる事もできたが、それが嘘から出たまことにならねば対応を誤らせる結果にしかならないためにそうはしなかった。

 なにせ今は王国存亡の危機である。いち早く事態を察し王都へと非難してきた国民が住居を求めて溢れかえり、加えて各地からの食物の供給が完全に途絶えたため深刻な食糧難が発生しつつある。

 こんな状況下で帝国へ対する防備を固め、もしも元凶が別にあるのだとすれば王国の滅びは確定するも同然だろう。

 そんな思いの王子の言葉を聞き、ブレスタンは彼の顔を見た。


「そうか。あれ以来お前は夢を見ないようだな」

「っ……、はい」

「ならば、私達は女神に見捨てられたという事かもしれんな」


 王子が見たという予知夢。その夢を防げず、現実のものとしてしまった。

 女神の報せた災厄を解決することができなかった剣と団結の王国は加護より外れ、強大な悪意に飲み込まれようとしているのかもしれない。

 パルスが以降夢を見ていないというのを知り、王はその考えへと至った。


「あの森が炎に包まれた時点で、私達の命運は決まってしまったのだろう」

「……!!!」


 ブレスタンの諦観を帯びる言葉に、パルスはヒュッと息を吸い込む。

 震える王子から目を逸らし、王は兵士へと向き直った。


「残っている兵は王都出入口周辺を守らせよ。希望する民は杖と羽の国へ逃がし、残った者を全力で以て守り抜くのだ」

「……承知致しました!」


 命令を受けて兵士は王座の間より下がっていく。

 それから自身の横で頭を抱えて怯えだした王子を見て、玉座に体を預けながら何度目かになるため息を吐いた。


「……無駄な抵抗とならねば良いのだがな」







「ここが王都か」

『随分あっけなかったよなぁ。どいつもこいつも戦う気なんてありゃしねぇのかと思ったぜ』


 剣と団結の国、その国王たちの住まう王都を眼前にし、ユークレスは視界の先にある王城を睨んだ。


『ま、俺の力があれば当然だわな! 大丈夫かユークレスよぉ? ここに来るまでに二百回は力を使ったけどよ、体に力が入んなくなってねぇか?』

「平気だよ、全然余裕だ」

『そりゃあ良かった。仇を目の前にして寿命が来ちまったら泣くに泣けねぇしな』


 ここに来るまでに随分と慣れた魔剣の嫌味ったらしい言葉遣いに返しながらユークレスは王都へと向かって歩みを進める。

 道中、王国の兵士たちと遭遇しそのことごとくを彼は皆殺しにした。ここに来るまでに潰してきた村や町と同じように。

 公爵の街でカレット村から攫われた八人の命を終わらせてからのユークレスはそれまで以上に容赦がなく、慎重だった魔剣の力の使用も軽率に行うようになった。

 虐殺を企てた王子の居城が間近であったからというのもあるのだろう。逸る気持ちがそのまま出たかのようにジルベールでもってここまでの道を切り開いてきた。

 そんな彼の前には王都周辺を守るべく配置された王国兵の姿があった。大きく開かれた城下町へと続く出入口には、隙間なく無数の兵が守りを固めている。


『……おぉ、こいつは困ったなぁ。おい、どうするよ?』

「聞かなくてもわかるだろ」

「おぉい! そこのお前!!」


 顔もないのにニヤニヤしているのが見えそうなジルベールの問いに、彼の柄に手をかけたところでユークレスの存在に気付いた王国兵が声を張り上げてきた。


「旅の者か! この地は近い内に戦場になると予想されている! 危険だから早くこちらへ来るんだ!!」


 そう言って、兵士は彼に手招きしている。

 攻撃をされるのかと思っていたユークレスは拍子抜けし、それから少し考えて兵士の元へと歩いていく。

 兵たちはユークレスが素直に指示へ従ったのだと思い、道を開けてくれた。近くで見てようやく彼が人間ではないと気付いたのか、驚くような声が上がった。


「この子は……ハーフエルフ!? まさかあの火災の生き残りの子なのか!?」

「こんな小さい子一人で森からここまで……。大変だっただろうな」

「馬鹿言うな、ハーフエルフはエルフと魔族の混血だぞ。歳だけだったら俺達よりよっぽど上だろ」

「静かにしないか! ……すまんな、仲間たちが煩くして。非常時ではあるが長旅の疲れを癒していってくれ。……ええと、なんて呼べばいいだろう」

「――ジルベール」

「そうか、ジ」


 兵士に囲まれたユークレスは魔剣を抜き放ち振るう。

 その一振りで王都前の兵士たちはみな両断され、血の雨を舞い上がらせた。

 血と肉の海を踏み越えながら、彼はついに王都へと入場する。


「……待ってろよパルス、お前もこの国も、世界から消してやる」

『頑張れよぉ、もう少しだ! ……それはそれとして、結局俺の鞘は見つけてくれなかったなぁ。ずっと気持ち悪ぃままだったぜ』

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