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生存者との再会

「――聞いたかよ、ついに隣町もだって」

「ああ、商人から聞いたよ。みんな殺されてたんだろ」


 剣と団結の王国で最も栄える街。その一角で恐怖に怯えながら二人の男が話し込んでいる。

 話題は、最近王国各地で頻発している住民の虐殺事件についてだ。

 二か月ほど前から村や町の人間が何者かによって斬り殺されており、いずれも例外なく皆殺しにされていた。

 旅人や行商人たちが惨劇の舞台となった市街を見付けていく事によって、それが単発の事件ではなく連続して起きているものだと判明しつつあるのだ。

 状況が少しずつ整理されていくにつれ、この無差別な殺人はハーフエルフの森が火災で焼失したのと同時期から、森に近い村などから行われているというのも発覚している。


「この街にも来るんかねえ、亡霊」


 そして、この犯行は人間ではなく「亡霊」によるものだというのが一般市民の間で通説となっている。

 誰も殺人の目撃者がおらず、直前の火事でカレット村のハーフエルフはみな焼死したと聞いている者は、「村に住んでいたハーフエルフの怨念が亡霊となって道連れを増やしている」と考えている。

 規模から考えても個人によるものだとは誰も思わず、何らかの集団にしても目撃例が皆無という異常さから尋常ならざるものの凶行であるという結論に達し、疑う余地はあれど否定できる証拠なかったのだ。


「……火事で死んだのは可哀そうだとは思うが、ここまでする必要はないだろうに。どうせ自分らの不始末じゃないのか?」

「確かめようもないけどな。何にしたって危ないのは変わらんし、俺は嫁と子供の旅支度が終わり次第、安全になるまで王都に逃げるつもりだよ」

「俺もそうしようかねえ。それか杖と羽の国ににでも行ってみるか……」


 正体不明の災害が迫っているような緊迫感が漂う彼らの会話。

 それを、皆殺しの張本人であるユークレスは離れた所から聞いていた。

 正確には、どこもそんな話題で持ちきりなため、聞くつもりがなくても耳に入ってしまう状況なだけだが。


『気付けばお前も大人気になってるなぁ。いっそ名乗り出てみたらどうだよ? 王国中の人間から注目の的になれるぜ?』

「こんな奴らに見られたからって、何も嬉しくないだろ」


 魔剣の冗談に冷たく返し、ユークレスは暗い路地の中で壁に背中を預けている。

 村を出てからの二か月、彼は順調に王国の人間を殺していった。

 ジルベールの導くままに村へ、町へと渡り歩き、その度に魔剣の力を駆使しつつ住民の命を奪っていく。

 最初の宿屋での殺人以降、彼はブレる事無く復讐の道を進んでいた。命乞いにも耳を貸さず、少しずつ慣れてきた剣の扱いで刺し、斬り落としていった。

 丁寧に王国の村も町も潰していき、ユークレスはかなり王都へと近付いていた。今訪れている街を滅ぼせば、あとは小規模な町がいくつか残るのみである。


『さ、お前の復讐も折り返しってとこだな。この街のやつらもぶっ殺して、さっさと王子サマに会いに行こうぜ』

「分かってる。かなり大きい街だけど、みんな殺して……」


 これまでと同じように、一人残らず殺してやる。そう思いながらユークレスは暗がりから出て陽の当たる街路へと歩き出す。

 太陽に照らし出された彼は腰の銀の魔剣を抜こうとする。


「……え、ユークレス?」


 二か月前から変わらぬままの鞘へと手を伸ばしたが、ユークレスは懐かしさのある響きを耳にし、動きが止まる。

 驚愕に振り向けば、ユークレスから少し離れた横側に彼と同じような長い耳をした、やや幼い少年が同じくびっくりした顔をして見つめていた。


「っ……!? お前、カシルか!?」


 ユークレスがカシルと呼んだのは、カレット村の子供の一人だ。彼はユークレスの二回りほど年下で、それでも歳の割には利発で勉強のできる子だった。

 殺されず、この街へ連れてこられたのだろうか。彼は村の同胞と出会ったのがさぞ嬉しいのかピョンピョン跳ねながら近づいてきて、ユークレスの手を取った。


「わぁ、生きてたんだね! 一緒に連れてこられたみんなの中にはいなかったから、どうなったのか気にしてたんだよ!」

『……誰だこいつ』

「カシルだよ、カレット村に住んでた子だ」

「……? 誰に説明してるの?」


 魔剣へ話しかけるユークレスを不思議そうに見つめながら、カシルは首を傾げた。


「そんな事より、みんなって言ったよな? お前以外も連れてこられたのか?」

「え、うん……そうだね。僕を入れて八人かな、この街を収めてるモルディラ様の所に連れてこられたんだ」


 カシルの言葉を聞いて、ユークレスの心の中には消えかけていた希望の光が灯ろうとしていた。

 カレット村のみんなが殺された訳ではなく、幾人かだが生き残りがいたという事実は彼を勇気付けるのに十分だった。

 殺すばかりではない、彼には守るべきものがまだ存在する。となれば、復讐を終えた後の事も考える必要があるという事だ。

 だが、その前にユークレスは気がかりなものがある。


「……様、ってどういうことだよ、カシル」

「え?」


 なんのことだかよく分からない様子の彼に、ユークレスは怒りの形相になってカシルの両肩を掴む。


「村のみんなが殺されたんだぞ! この国の人間に! それなのになんでカシルはそんな奴らの仲間を様付けで呼ぶんだよ!!」

「それは……そう呼ばないと、怒られるんだよ」

「怒られる……!? だからってそんなふうに媚びるのかよ、お前の父さんと母さんだって殺されただろ!!」


 追求を受けるカシルは、ユークレスの言葉に涙目になっていた。

 言われた通り、この子もまたユークレスと同じように親が殺される瞬間を間近で見たのだろう。その光景に絶望を刻み込まれたであろう彼がなぜ王国の人間を「様」などと付けて呼ぶのか、ユークレスには理解できなかった。


『そんな責めてやるなよユークレス。お前と違ってそのガキに戦う力なんてないんだよ。この俺という素晴らしき相棒もいないんじゃ、無力な子供にゃ何もできねぇんだよ』

「だからってッ!!」

「許してよ、ユークレス……。僕は君みたいに、カレット様に近いわけでもないし、何も、できなかったんだよ……」


 魔剣とカシルの二名から似たような事を言われ、ユークレスはハッとする。

 自分は恵まれていたのだ。幼馴染に助けられ、そして魔剣ジルベールを手にして強大な力に対抗するためのより大きな力を持つ事ができた。

 だがあの村の子供たちはユークレス以外みなそんな幸運はなかったのだ。殆どが殺され、生きていた八人はその点だけ運が良かったのだろう。

 戦う力のないカシルに無茶を言ってしまったと、後悔しながらユークレスは掴んでいた肩から手を離す。


「ごめん、カシル」

「……いいんだよ。僕たちが何もしなかったのは本当なんだし、ユークレスじゃなくたって僕たちの事を知ったら怒ってるさ」


 そう言って、カシルはユークレスの激高を見なかったことにするかのように、笑顔を見せた。


「……それより、買い物の途中だったんだ。一緒に来ない? モルディラさ……えっと、公爵からは多めにお金を預かってるから何か食べていこうよ」


 今度はカシルの方からユークレスへ手を伸ばし、彼の手を掴むと有無を言わさずに引っ張っていった。


「なっ、い、行くなんて言ってないだろ!」

「いろいろ聞きたいでしょ! せっかく会えたんだから、歩きながら話そうよ!」


 振りほどく事もできたが、カシルの言う通りまだまだ聞きたい事はある。

 たった今責め立てたばかりだというのもあるが、気まずいながらも結局ユークレスは彼に引かれるままについて行くことにした。

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