02_事故
皆川真司は中学二年目の文化祭を目前にしていた。中学生にはありがちなお化け屋敷の材料を買いに、近くのショッピングモールまで足を運んでいた。並んでいるのは幼馴染の少年二人。三人は、ただ木工用ボンドと黒いカーテンを買うだけのはずだった。
まだ夏の昼過ぎ。駅前の大通りも人が少なく、ただアスファルトからの蒸し返しで汗を絶やさんばかりであった。買い物終わりにコンビニに立ち寄り、飲み物でも買って学校へ向かおうとしていたその時である。
誰も暴走している乗用車に気が付かなかった。車は反対車線側の三人に向けてカーブし、歩道上に乗り上げながら彼らを無残にも跳ね飛ばした。運転手は七十代のの男性。飲酒運転及び過失致死傷ですぐに警察に捕まった。
コンビニの店員が鈍い音に気が付き、すぐに病院に連絡を取ったため、幸いにも二人は死から免れることができた。しかし、皆川真司だけは違った。頭部への衝撃がひどく、搬送先の病院で死亡が確認された。
「何でうちの子だけなの…」
少年の眠るベッドの脇に倒れこみ、母親はただただ泣き続けた。父親も妹も母親の姿につられるように涙をこぼした。
「こればかりは当たり所が悪かったとしか言えませんね。こちらとしても手を尽くしましたが、申し訳ないです」
医者のいたたまれないという気持ちが表情で察することができる。緊急治療室では死と常に隣り合わせではあるのだが、事故死にだけはやはり免疫を持っていない。彼もまた掛けていた眼鏡をずらし涙をぬぐった。
いつも通りの生活をいつも通りに営むことがどれほど大切なのか、四人ともが身に染みて感じた瞬間だった。
これは、後藤恭介が自殺を図るつい三か月ほど前のことである。