第3話 蟻の功罪
されば港の数多かれど、今回は3026文字。
それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
ビッグで、シックで、ヘビーで、ラフリーだかルーズリーだかすぎた。
それはまさに適当だった。
そのまま書きたかったが仕方がなかった。
……( 一一)
などということはなく、ちょっとだけ大きめの剣だった。
引き抜いた剣を右手に持ち、ハマーはゆっくりと蟻に近付いていく。
カチカチカチカチカチカチ。
蟻達はハマーを威嚇するかのように警戒音を発している。
半分ほどの距離を詰めたハマーは剣を振り上げ、
上体を前に倒し、一気に駆ける。
狙いを一番右にいる個体に定めて。
右肩の上に担ぎあげるように振り上げた剣。
攻撃を開始すべく、肩から腕へと力を伝え、剣を振り出す。
柄がわずかに前に出たところに、
それを迎えるように左手が待っている。
先端を握った左手は、右手が握る箇所を支点にし、
剣に回転する力を与えるべく、左脇目掛けて一気に引かれていく。
剣の攻撃はいつのまにか、左手が主になっていく。
肘が引き付けられ、腰が、上半身が回る。その力が踏み込みに乗る。
両脇の締まった最高の剣戟が走る。
ごろり。
あっけないほど簡単に蟻の頭が切り落とされる。
手の感触と、頭を切り落とされた蟻の状態を確認しながら、
ハマーは、駆けだした位置まで戻る。
「今のはいい動きができたぜ」
頭部を失った蟻は、それでも前に進もうとして、
体勢を崩し、のたうっていた。
他の蟻達には、怯む様子も、怒る様子もなく、
動くこともなく、カチカチと警戒音を発している。
「頭が無くても動きやがるってことは、
それほど、賢いタイプじゃねぇ。
見たまんまな、蟻ってことか。
あんまし硬くはねぇみてぇだしな。
じゃあ、次は胴体をぶった斬ってみようかね」
命の危険のある戦いのなかで、敵に何もさせずに打ち倒す。
これ以上にアツくなることはねぇだろう。
ハマーのテンションは一気に最高潮に達していた。
右後方に剣を構え、蟻の眼前で剣を振り、
蟻の頭を横一文字に斬り裂くと、その勢いのまま回転し、
隣にいた蟻の足を斬り飛ばす。
「オラァ! 見てねぇでかかってこいやぁーっ!」
縦横無尽に暴れまわり、蟻を全滅させると、
満足げに、ヨシッっと吐き出し、剣を鞘に仕舞う。
「連携もなければ、特殊な攻撃もない。
特に硬いわけでも、速いわけでもない。
まぁ、数だけが頼りのザコってことだな」
気分よく勝利の余韻に浸っているハマーをヨーコが引き戻す。
「終わったんなら、さき、進むゾ。
さっさと後始末しちまえ。
それからな、カンテラじゃ、灯りが届かねぇから、
オメー、アレやれ」
「せっかく、いい気分だってのによ。ったく……
わぁーったよ」
ぶつくさ言いながら、ハマーは再度剣を引き抜く。
蟻達の死骸に剣を向け、剣に込められた術を発動する。
「汚物は消毒だぁぁぁ、発動ぉ、オーバーヒートぉぉ!」
ハマーの剣が大きな炎を噴射し、蟻達を焼却していく。
説明しよう。(トミヤマさん風)
ハマーの持つ剣、銘を「ニサンの射剣」という。
かつて遠征した、「ザマ」ダンジョンで入手した剣である。
斬るだけでなく、剣に込められた術を発動することで、
遠距離射撃もできる優れモノなのである。
火炎を放射する、「オーバーヒート」
前方を明るく照らす、「ハイビーム」など便利機能満載の剣なのだ。
ただし、2年に1度、休眠することがあり、
その期間は使えなくなってしまうのである。
その他の便利機能はまた今度説明しよう。
別世界の、割と似た名称の自動車メーカーが、
横浜駅東口からすぐの位置に本社ビルを構えている。
かつて、座間市に同社の大型の工場が存在していた。
神奈川県内の学生が社会科見学で訪れたものである。
サングラスの似合う、角刈りの刑事が主人公のドラマでは、
このメーカーの車両がわんさか登場していた。
ワンダフルなガイズが活躍する熱いドラマだった。
蟻の焼却を終えたハマーはニサンの射剣の術のひとつ、
ハイビームを発動し、この巨大空間を照らす。
どうやら細長い形をしているようだが、
ハイビームをもってしても果てまでは照らせていない。
壁はすべて木材を加工してあるようで、
床ほどの冷たさはない。
照らされた範囲にモンスターの姿はなく、
すぐに再度の戦闘はせずに済みそうだった。
「オッ、アネキ、あそこ、壁に穴があいてるぜ」
蟻達が陣取っていた場所の後方の壁に横穴が開いていた。
「ここからアレが出てきたってワケかい。
この穴、さっきオレたちが出てきた穴に似てるな」
ヨーコに言われ、穴の形状を比較したハマーが答える。
「てことはよ、MMダンジョンから繋がってるあの穴も、
さっきの蟻達が掘ってきたって可能性があるな」
「アレがどっちで発生したのかは分からねぇ。
だけど、あいつらが下りていく可能性はあるわな」
意味深な表情でハマーを見やるヨーコ。
構造が簡単で、迷うことも少なく、
強いモンスターがあまり出現しないMMダンジョンは、
多くの新人冒険者が修行の場として挑んでいる。
実力も経験も足りない新人たちが、あの規模の蟻の群れを、
殲滅できる可能性は低い。
自分たちの行動に新人たちの安全が掛かっている。
誰かがこれをやらねばならぬ。
期待の人が俺たちならば。
銀河を離れるかのように、決意を新たにしたハマーは、
ヨーコの言葉に、自信ありげな笑顔を返し、指をボキボキと鳴らし、
さっさと蟻の開けた、巣穴かもしれない横穴に突入していく。
その姿を頼もしく思いながらも、それを口にするヨーコではない。
狭い穴の中でどう立ち回るか、アイツは考えてるのだろうか。
そんなことを考えながら、後に続いた。
登ったり、下ったり、時に四つん這いになりながら、
蟻の巣穴らしき穴を進んだ二人は、
意外なことに、蟻に遭遇することなく、
狭苦しさから解放された。
複雑に進んだおかげで直線距離はわからないが、
どうやら壁を貫通していたらしい穴の出口に辿り着いたのだった。
四方の壁も床も木材で覆われていると思しき、
さきほどの場所よりも更に広い空間だった。
更に驚くことに、二人が立っている場所は断崖絶壁の上だった。
穴から出て左側には無限に続くかのような暗闇が、
足元を見れば、落ちたら確実に死ぬであろう奈落が広がっている。
右と後ろは木材の壁、高さは全体から見て半分ほどか。
「オイ、ハマー、これなんだろうな。
おっ? 押し返されるゾ」
ヨーコが見つけたのは、楕円形に近い形をした
黒い切り株のようなもの。
材質を確かめようとしたヨーコが切り株らしき物の上部を
手のひらで撫でたり押したりしていた。
「これを拠点のベッドにしようぜ!」
確かにハマーが横になれる大きさがあり、
硬くもないのならば、寝床には打って付けだろう。
ヨーコはミヤマクワガタを見つけた少年のような笑顔になっている。
ヨーコが腰掛ける切り株らしき物は、いくつかあり、
ハマーは空いている切り株らしきものに腰を下ろす。
「おっ! こりゃあ、確かにイイなっ!
ウチのベッドより寝心地よさそうじゃねぇか!」
ごろんと切り株らしき物の上に体を投げ出し、
手足を広げたり、閉じたりするハマー。
美少女が雪のうえで行えば、さぞや可愛らしい仕草だが、
いかんせん、ガチムチマッチョのモヒカン野郎である。
ちっとも可愛くない……
「コレ、持って帰りてぇなぁ」
寝転がったまま呟くハマー。相当気に入った様子だ。
徐に切り株らしき物から下りて立ち上がると、
力を込めて、横から押し始めた。
「おおっ! 動く! 切り株みたいに生えてるわけじゃねんだ!
決まりだっ! アネキっ、これ持って帰ろうぜ!」
今度はハマーが、宝物を手に入れた少年の顔になった。
それは損失というにはあまりにも悲しすぎた。
大きく、辛く、重く、そして唐突すぎた。
それはまさに悲報だった。
2018年8月13日
石塚運昇さん。私は、あなたの声を生涯忘れることはないでしょう。
2020年、8月10日、我らが団長。
渡哲也さんが裕次郎さんのところへお引っ越しされました。
大好きな裕次郎さんとお酒でも飲まれているんでしょうか。
やっぱり喜びの酒、松竹梅かな。
「なんだそりゃ」 「これは何のことを言ってるの?」など。
作品に対するツッコミ、質問は大歓迎です。
真面目なおことわり
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