第五章
桃香:今日は絵本を描くのかしら?
歌麿:いや。今日はそれより、やらなければいけない事があってな。
桃香:?
歌麿:まぁ、君はのんびりしていたまえ。
そう言って彼は自分の小部屋に入っていってしまった。
次の日も天気は晴れず、吹雪が続いた。そうこうしている間にあっという間に一週間が過ぎ、吹雪がようやく止んだ。彼は昼間から特に仕事をする訳でもなく本当にのんびりしていた。そんな生活が少し羨ましくも、妬ましかった。
桃香:やっと晴れたはね。
歌麿:あぁ。もう吹雪は簡便だ。では、行こうか。
桃香:??どこに行くの??
歌麿:いいから。
ずっと吹雪いていたのせいで、しばらく家の中に缶詰状態だった。久方ぶりに外の扉を開けようとしたが、雪に埋まって扉はびくともしなかった。
歌麿:これじゃ出れないな。
桃香:すごいわね。雪国の方は大変ね。
歌麿:じゃあ、久々にあれをやるか。
桃香:??
彼はそういって私の手をひいて二階へ上がった。
ごそごそと力ずくで凍った窓を開け、彼は飛んだ。
桃香:えっ!?
歌麿:君もおいで。
窓の向こうから彼の声が聞こえる。
歌麿:これがタヌ吉方式、雪のクッションさ。
彼は雪に埋もれている。
桃香:怖いわ。
歌麿:大丈夫さ。ほらっ
そう言って彼は雪をばふばふさせている。
桃香:バカな人ね。
そう言って私は二階の窓から飛び降りた。
桃香:冷たい。でも、なぜだかあまり寒くないわ。
歌麿:今日は風も止んでいるからね。雪っていうのは意外と温かいんだよ。
桃香:知らなかったわ。
歌麿:じゃあ、上を見てみなよ。
そこには見たこともない景色が広がっていた。障害物は何もなく、ただただ深い蒼に光が散りばめられていた。
桃香:近いわ。
歌麿:空気が澄んでいるとずいぶん近くに感じるらしい。
桃香:そうなのね。すごいわ。
なんと説明していいのか分からない程、ただただずっと綺麗な星空だった。しばらく動けない程に。今まで自分の事を『綺麗』だと思っていた事が少し恥ずかしくなった。自分は生まれて初めて『綺麗なもの』を見た気がした。
歌麿:もうそろそろ中に戻らないかいお嬢さん。
桃香:えぇ。もったいないけど、さすがに冷たくなってきたわ。
中に入りすぐ囲炉裏で暖をとったが、身体に残った雪が溶けすぎきびしょぬれになってしまった。
歌麿:寒い寒いっ。すぐに風呂に入るといい。
桃香:ええ。そうさせてもらうわ。入るわよ。
歌麿:またー。
桃香:今日のお礼がしたいの。背中を流してあげるわ。
歌麿:・・・
お風呂も上がり、彼がいつもおの様に個室に入っていったが、今日はドアの向こうから声をかけてきた。
つづく..