第二章
桃香:ここがあなたのお家?
歌麿:あぁ、そうだよ。本土の北の外れ、○○の我が家さ。
桃香:ここで絵本を描くの?
歌麿:そうだよ。
桃香:お邪魔します。
歌麿:その格好じゃ、疲れるだろ?大したものはないが、何か着替えを持ってくるよ。あと、腹も減
ったし風呂にも入りたいだろ?
桃香:えぇ、ありがとう。助かるわ。
彼がそう言い、囲炉裏に火をつけてから着替えの大きな浴衣とちゃんちゃんこを持ってきてくれた。
歌麿:それに着替えたら、風呂を焚くから手伝ってくれ。外にいるから声をかけて。
桃香:ええ。わかったわ。
着替えていながら、様々な疑問が駆け巡った。
たぬきはどこ?
この浴衣とちゃんちゃんこも明らかに大きくて男性モノ。
奥さんと娘さんは?
そんな事を考えながら着替えを済ませ、彼のいる外に出向いたら、彼が薪を割っていた。
桃香:お待たせ。
歌麿:あぁ、似合うじゃないか。
桃香:色々と訊きたい事があるのだけれどもいいかしら?
歌麿:?なんだい??
桃香:タヌキとご家族の方はいらっしゃらないのかしら?
歌麿:そういえば、そんな話をしたな。
彼はちょっと分が悪そうな困った顔して、頭を掻きながら言った。
歌麿:タヌ吉はあそこだよ。
そういって家の前にある大きな木の方を指差した。
桃香:??森の中?
歌麿:いや、今年の冬から木の下で眠ってる。
桃香:亡くなったの?雪に投げたから?
歌麿:いやいや、雪に投げたせいじゃない。それに、それをやっていたのは子供の頃の話でもうお互
いいい齢だから、とっくにそんな事はしていない。寿命だよ。
桃香:そうなの。寂しいわね。会いたかったから残念だわ。ご家族の方は留守なのかしら?
歌麿:あぁ・・・。あれは嘘だ。僕は天蓋孤独の独り身でね。結婚というシステムにあまり興味がな
いんだ。一人の方が気楽でいい。
桃香:じゃあ、なんであんな嘘をついたのかしら?嘘吐きは嫌いよ。信用出来ないもの。
歌麿:すまない。嘘に特に意味はないよ。僕は‘意味のない嘘’しかつかない。君が信用している人
なんているのかい?
桃香は話すのを止めた。彼にとってはたわいもない嘘かもしてないが、桃香はそれでも許せなかった。
嘘吐きは嫌い。自分の周りは嘘吐きばかり。
そして、自分が一番の嘘吐きだから。
さらに、信用している・出来る人なんてこの世にいない。
それが自分の事を何も知らない金持ちの息子に見透かされている様でとても腹が立った。
日も暮れ始め、夕食の鍋を無言で食べていると、彼がしびれを切らして口を開いた。
続く..