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花魁道中~華盛り~  作者: 緋燈奈
1/6

序章

私の処女作です。

テーマは『生きる意味』


挿絵(By みてみん)

『あははははっ』。

馬鹿げた下品な笑い声。煙、酒、『人間からみた下等生物の死骸』が入った豪勢な器。

奥が見えない程の壮大な大広間。親の脛を齧りや、孤高な宗教家、国を変えようと昔は息巻いていた老いた官僚、この狭く小さい国の権力者達と、それに気に入られようと媚を売る売春婦。

男女の欲望渦巻く歓楽街、遊郭。私はいつもの様にそこで笑っていた。


『くだらい』。


なぜ男は皆『ヘンテコな髪の束』を剃った頭の上に乗せ、嫌いな『仲間』と馬鹿笑いしながら騒げるのだろう?

一生愛すると誓った妻や、涙して喜んだ子供達を尻目に花魁達には鼻の下を伸ばして、今晩の欲の吟味を平気でできるのだろう?

なぜ、この現状に疑問を持たないのだろう?そう心で思っていても、かくいう私も結局、今日も名前も知

らない馬鹿な金持ちに抱かれて生きる。

そういう生き方しか知らないからと諦めている。

そんなモヤモヤを抱え、火照ったカラダを冷やそうとベランダで満天の星空と、城下に煌めくハイカラな京の町を眺めていた。

『へクッションッ』。もうすっかり火照ったカラダも冷えてきて、息がすっかり白くなっていたに気付いた。



??:雪はいつから嫌なモノになったと思う?

桃香:??

??:僕の出身は北の外れでね、すごい時には雪が10mも積もるんだよ。だから、冬になると子供の頃

は大騒ぎして鎌倉や雪だるまを作ったり、雪合戦や飼っている狸を雪に放り投げて遊んだものさ。

桃香:狸?

??:小さい頃はどんなわがままを言っても許されて、何をするにも喜んでもらえた。だけど、カラダが

大きくなるにそうはいかなくなってくる。

   つくるだけで喜んでくれた鎌倉や雪だるまには見向きもされず、雪合戦をすれば勉強しろと怒れ、

   雪かきの手伝いを強制される様になっていくんだ。

桃香:はぁ・・・

??:そりゃ、毎年積もった雪に投げられてたら、狸も雪が嫌いになるってのが自然の摂理ってものさ。

桃香:フフフッ。タヌキが可哀想ね。

??:おや?やっとお面を外してくれた様だね。

桃香:・・・??

??:君、宴会中ずっと狐の面でも被ってるのか?

   と思うくらいの作り笑顔のブッ長面だったもので、最愛の妻と娘を置き去りにして裏切る覚悟をし

   た僕の『今晩のお供』が君だと知らされた時には、正直少し『ガッカリ』してしまっね。

桃香:『あははははっ』



桃香は、思わず声を出して笑ってしまった。それは男の話が面白かった訳でも、ましてや色男に愛想で 

笑ったわけでもない。生まれて初めてお客に『ガッカリ』と言われたからである。

今までどんなに嫌な客であろうと、『花魁』という仕事にはプライドを持っおり、人生の全てをかけてやり遂げてきた。


今や桃香改め『花魁・桃源太夫』と一夜を共に出来る人間は限られており、雅に『男の憧れ』の存在であり続けた。お客から『美しい』『綺麗だ』と言われる事があっても、卑下される言葉、ましてや『ガッカリ』なんてこと言われた事もなければ、言われる事もないと思っていた。

だから、少しこの『お客様』と名乗る男に少し興味が湧いた。



桃香 :お侍さんが今宵のお客様なのね。タヌ吉さん。でも、どうゆうズル賢い手を使ってこの権利を?

タヌ吉:おいおい失礼だなぁ。それは僕の身なりを見て言っているのかい?狐姫。

桃香 :ええ。そうよ。残念ながら『私のお客様』をして頂ける様な権力やお金、威厳を持っている様に

    は見えないもの。

タヌ吉:僕は縛られるのが嫌いでね。

    堅苦しい上品な着物より、浴衣の方が楽で好きだし、チョンマゲだってそうさ。

    あれすごく頭が引っ張られて痛いんだ。手入れも大変だし、何より何故後ろは伸ばして天辺は剃

    っておるのだ?あんなもの、昔の頭がお粗末な将軍が『みんなでハゲれば怖くい』みたいな感じ

    で、強制したに決まっている。僕は決して屈しないね。

    『威厳』は関係なくなか?

桃香 :フフフッ。変わった方なのね。好きよ。そういうお方。普段は何されているのかしら?

タヌ吉:う~ん。そうだな。俗にいう『親の七光り』って処かな。今晩の宴会の主催者のドラ息子がだ。

    今回の権利だって親の脛を齧って獲得しただけで、本当は君みたいな『高値の華』の相手なんて

    生まれ変わっても出来る気がしないよ。

桃香 :あらそうなの?では、私がお父様に物言いをすれば、あなたは外に放り出されてしまうのね。

    可哀相に。

タヌ吉:可哀相だと思うなら、やめておいてくれないかな。そこの美人さん。僕はタヌキじゃないんだ。

桃香 :あら?これで少しはタヌキの気持ちもわかってあげれて、今年からは放り投げなくなるわね。

    めでたし。めでたし。

タヌ吉:わっ、わかったよ。タヌキの事は悪かった。悪いと思っている。若気の至りでやった事で今はも

    うそんなことはしてない。許してくれないか?何でも言う事を聞くから。

桃香 :・・・なんでも?

タヌ吉: あぁ、 なんでも。

桃香 : じゃあ・・・タヌキを見てみたい。

タヌ吉:・・・??タヌキ??

桃香 :そうよ。あなたのお家で毎年の様に積もった雪に投げられ続けてる可哀想なタヌ吉君に会ってみ

    たわ。

タヌ吉: ・・・うーん。どうしたものか。

桃香 :ふふ。冗談よ。



彼の困った顔で私は少し我に返った。そのタヌキを見てみたいと思ってはいたけれども、本気で見に行けると思えるほど子供でもなかったし、何より今晩のお仕事のお客様が少し饒舌で面白かったから浮かれてしまった自分に腹が立ち、ニッコリ笑って気持ちを切り替えた。


桃香:さぁ、偽吉さん。そろそろいい時間だわ。行きましょう。

偽吉: え?今からいくのかい!?

桃香:そうよ。行きましょう。



そういって私は彼の手を引き、3階にある寝室に行こうした。その時、彼が私の手をぐいぐいと引っ張りだした。やっぱり。なんだかんだこの「お客様」も他の男と変わらないわね。なんて心の中でつぶやいたのも束の間、3階ではなく1階に階段を下り、玄関から駕籠(かご)の中に連れられなぜ私は揺られているのだろう。



偽吉 : ○○までお願いします。

担ぎ手:へいっ桃香 : って、え?ちょ、え?

偽吉 :どうしたんだい?そんなに慌てて。

桃香 :あなた殺されるわよ?私が誰だか知っているの?

偽吉 :はははっ!これはまたすごい質問だ。君は誰なんだい?

桃香 :はぁ・・・。いいから今すぐ戻って。冗談にならないわ。

偽吉 :せっかく君が家のタヌ吉を見たいというから。

桃香 :いいから!早く!本当にただじゃ済まなくなるわよ。



私が何を言っても彼は駕籠の行き先を変えないし、私の言う事を煙に巻いて楽しんでいる。

彼が殺されてしまうんではないかという不安や、どこまで本気かもわからないあっけらかんとした態度。そして吉原の外に出るという期待と不安で頭が真っ白になり、いつの間にか眠ってしまっていた。



桃香:へっクション

偽吉: やぁ、起きたかい?


目が覚めるとまだ駕籠の中で揺られていた。


桃香:ここはどこなの?寒いわ。

偽吉:外を見てごらん。


駕籠の隙間から外を覗くと世界が白く塗りつぶされていた。


桃香:これは雪なの?

偽吉:初めてじゃないだろう?

桃香:初めてよ。この景色は。

偽吉:だろうね。ところで、雪はいつから嫌なモノになったと思う?

桃香:大人になってから?って、ここはどこなの?

偽吉:正解!!さすがだね。君も成長したじゃないか。

桃香:フフ。あなたは雪が『嫌なモノ』じゃないのでしょうね。

偽吉:はは・・・それは僕が子供っぽいって事かい?

桃香:そう聞こえたかしら?ごめんなさいね。自覚はあるのかしら?

偽吉:大変失礼だな君は。僕はこう見えて君より結構な年上なんだよ。たぶん。自覚はあるがね。

桃香:そういえばあなたはおいくつなのかしら?その前にまだお名前もお聞きしてなかったわ。

   私は櫻樹桃香(さくらぎ ももか)。22才。倭国一の花魁よ。

偽吉:僕は喜多川歌麿(きたがわ うたまろ)。28歳。しがない絵本作家をしている。

桃香:絵本作家さんなんて始めて遭ったわ。28才には見えわね。

   その絵本作家の歌麿さんがなぜ倭国一の花魁・桃源太夫を(さら)ったのかしら?

   本当の理由を教えて。

歌麿:自分で言うかね。さすがわ倭国一。プライドの高さと負けず嫌いは相変わらずだな。

   君の絵本を描かずにはいられない。桃香:何もわざわざ攫わなくても良くなくて?

歌麿:馬鹿を言っちゃいけない。ただ描けばいいというものではないのだよ。

   僕は倭国一の花魁・桃源太夫の絵本ではなく、『桜木桃香』そのものの絵本を描きたいのだよ。

桃香:でも、あなた捕まったら間違いなく殺されるわよ。きっと今頃、血眼になって探しているわ。

歌麿:はは。そこはきっと大丈夫だよ。自慢じゃないが僕の親は結構な金と権力持ちでね。

   捕まっても殺されはしないよ。少し説教を受ける程度ですぐに釈放される。

   そもそもこんなにすんなり攫えるなんておかいしとは思わないのかい?

   ある程度黙認されているんだよ。



『なんて大胆で馬鹿げた人なんだ』と心の中では思ったが、歌麿があまりにもに‘純粋無垢な瞳’を真っ直ぐこちらに向けて、真剣に話すものだから憎めなかった。

そして、彼が大した罪に問われない事を聞き心が安堵し、初めて視る遊郭の外の世界が新鮮で心がワクワクしている自分に気が付いた。

真っ白な世界を眺めながらこれからどうなるのだろうと考えながら、初めての休暇を楽しむ事にして、またうとうと眠ってしまった。



歌麿:起きて。着いたよ。


どのくらい眠っていたのだろう?目を覚まし外を覗いてみると、大きな木が立ち並び山に囲まれた古い一軒屋がぽつりと立っている場所だった。そして、やっぱり一面真っ白な世界が広がっていた。


つづく..

まずは序章です。

何か感じて頂けたら幸いです。

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