17.
カイン視点です。
「メリオラが攫われた?」
終戦直後。学園の自室シドの報告を受けたカインは驚きが隠せなかった。
カインの手から滑り落ちたペンの音が静かな部屋に響く。その音はまるでカインの心が空になってしまった事を伝えているようで、シドは息を飲む。
「……ぜ…だ」
カインは怒りが隠せなかった。
だが何故だろう。カインの怒りとは対照的に脳は冷静なようだった。先程の言葉が上手く声に出せてない事を自覚した。
顔を上げると、シドが緊張した顔でこちらを見ている。
カインはもう一度問う。
「なぜ、お前がついていながら攫われるようなことになったんだ?」
カインの声は震えていた。出ない声を無理やり絞り出したかのような声だ。威圧する声だ。
「申し訳ございません。」
シドはただ謝罪をする事しかできなかった。
突然ドアが乱暴に開けられ、ジードが中に入ってくると、一直線にカインの元へと歩き彼の胸ぐらを掴む。
普通なら不敬だと咎められ、すぐさま捉えられてもおかしくない行動だった。
だがジードはそれを許さなかった。
「メリオラに何を言った。」
ジードの声は低く、怒りの篭もった声は静かにカインに問いかけた。
「メリオラはマリアを送って戻ってから様子が変だった。まるで何かに怯えたような、絶望したような顔だった。なぁ、カイン。お前はあいつに何を言った?」
普段の上下関係の話しかたではない。幼馴染と話すような口調で静かに怒りを告げた。
カインは胸ぐらを掴まれたまま、俯く。
「自由にしろって言ったんだ。」
「は?」
「自由にしろって言ったんだよ。無理して一緒にいなくてもいい、望む人と婚約してもいいんだって」
ジードは眉間にシワを寄せると悲しそうな声で言った。
「お前、それを聞いてメリオラがどう思うのか考えてなかったのかよ」
だがその声はカインには届かなかった。
ジードは乱暴にカインの胸ぐらを離す。
「最低だな」
その言葉を残して部屋を後にした。
ジードが出ていき再び部屋に沈黙が落ちる。
窓の外は静かに雨が降っていて、それがカインの涙なのかジードの涙なのか、将又メリオラの涙なのか、シドには分からなかった。
「ジード。聞きたいことがある。」
カインがジードを訪れたのは翌日になってからだ。
「今更何が聞きたいんだよ。」
まだジードの声は悲しそうだった。
昨日から降っている雨は少し強くなっている。
「リオは私の事で何か言っていたのか?ジードは何か聞いていたのか?」
カインは言い訳のような話をするつもりで来ていた。いや、言い訳というよりも誤解を解こうとしていたのだろう。なんの理由もなく、それが無意味だと知りながら。
ただ一人で考えているのが居た堪れなくなってしまったのだ。
「ああ。聞いていたよ。」
ジードは静かに答えた。
(あぁ、やっぱり。リオは私には言えずにいたのか。)
王族だから。その立場がカインを苦しめる。
しかし、ジードが続けた言葉はそんな事を考えるカインとは正反対だった。
「あいつはお前のことを慕っていると言っていた。慕っていたと言う言葉では足らない気もするがな」
カインには、ジードは何を言っているのか一瞬理解ができていなかった。
「だが、リオは可愛い人が好きなのではないのか?守りたいと思える人が」
カインが思い返すのはステラの言葉だ
それに対してジードは
「そういえば守りたいとも言ってたな。言わないだけでお前の事を可愛いとも思っているんじゃないか?」
ジードは馬鹿にしたような口調で言ってくる。
だがカインには覚えがあった。
それはメリオラとカインが初めて顔を合わせた時のメリオラの言葉だ。
『え、何この生き物!可愛い!!』
『はわゎ、可愛い。』
少し衝撃的すぎるメリオラの一面でカインは覚えていた。羞恥もあったのだろうが。
あの日以外あのような姿は見なかったので忘れかけていたし、可愛いの意味を違う捉え方でしていて結びつかなかったのだ。
「思い当たる節がある。」
「あるのかよ…」
口から漏れた言葉にジードは呆れた様な返事をした。
「じ、じゃあ、好きかって聞いた時に答えられないって言ったのは…」
「そりゃ言えないだろ。俺に言うのだって躊躇ってたのに本人に伝えれるとは思えねぇ。」
良く考えればわかる事だ。それに今更気がついたカインは情けない空笑いをした。
「邪魔したなジード。」
部屋を出たカインの顔は安心したような決意を決めたような顔をしていた。
(初めて会った時以来リオは明確な行動が少なかったから忘れていた。)
そんな言い訳をするカインはその日に自分の言った言葉を覚えていなかった。
そしてメリオラがその言葉を素直に守っていることに気づいていなかった。
次回もカインメインのお話です。
ブックマーク、評価、感想などよければお願いします!励みになります!




