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ファイン目線2

メルディを連れて世話になった孤児院に着いた。


メルディには「俺たちの実家」だと言ったけど全くの嘘だ。でも俺が頼れる避難先はここしか思いつかない。

俺が昨年の14歳まで住んでて、就職先を決めてこんなに早く戻ってくることになるとは…。

…シスターになんて説明しよう。気まずい気持ちを抱えながら『妹』の前では平気なフリをする。


リックスと顔を合わせたけど、屋敷が燃えたことはまだ誰も知らないみたいだった。

リックスは孤児院近くの家に住んでいた幼馴染のようなものだ。

同じ剣の師を仰いでいて、いつもコテンパンに負かしていたらライバル認定された。

何かと絡んでくる上に、実は屋敷の護衛にアイツも志願してて俺だけが受かった。


その後は、人の顔を覚えることを得意としてることを買われ門番になったようだけど。

買い物の為に街にくると「お!パシリか!」と嬉しそうに絡んでくる。


まぁ、アイツ(リックス)のことはいい。

慣れた道のりをメルディと歩いていくと物珍しいようにキョロキョロ見ている。

手を繋いでなければ迷子になってしまいそうだ。

お嬢様はこんな道を記憶がある前でも通ったことはないだろうが、怯えるより好奇心が高いようだ。

屋敷でもそうだったが、なかなかお転婆なお嬢様だったことを思い出し、根っこが変わらなくて安心する。



教会の石垣にたどり着く。教会は変わることなくボロボロのままだ。

逆にそれが荘厳な雰囲気を醸し出して参拝者には人気があるのだが、まぁそのままで安心感はあるか?


メルディもジッと教会を見上げている。シスターに事情を説明して来ないとだけど…。1人にして大丈夫かな…。


「メルディ、ついたぞ。ちょっとシスターと話してくるから此処で待っててな。

動くんじゃないぞ?」


心配でならない。ここは人目が多いから誘拐の心配はないかもだけど、子供の好奇心は安心できない。

でも6歳にしてはここまで大人しかったし、我儘も言わない。逆にそれも心配だけど今は有り難かった。

信じよう。


うなずくメルディの頭を人撫でして教会の中に入る。


日が当たったステンドグラスが教会の中を色付かせる。

その中に修道服を着たシスター・ローザが教会の調度品を整えていた。


長袖で足首まである修道服にベールを肩に揺らす。

優雅な所作で、彼女が高貴な育ちだということが窺えるが、それを聞くものは誰もいない。

ここでは、誰もが平等でありただの人であるのだから。


「シスター」

声をかけると宝石のような緑色の瞳がこちらを向く。

優しい眦に、歳を刻む皺が彼女の優しさを引き立てた。


「あら?ファイン。いらっしゃい、どうしたのですか?」

おっとりとした動きだが無駄がない。

俺は急ぐようシスターに近づき参拝者が見えない処までシスターを誘導する。

あらあら、と口元に手をあて驚いたような表情しているが、そのまま身を任せてくれた。


裏につくと、それで?と無言で首を傾げる。

「シスター、貴女にだけ本当のことを言います。これは他言無用にお願いします。」

ローザはファインの様子を見て真剣な表情をして頷く。小さいころからの彼を知っているのだ。

さっきまでの表情を崩し、痛みに耐える表情をする。迷子の子供のように、親に教えを乞うように。

「安心しなさい。ファイン、此処に貴方を傷つけるモノは居ないわ。」


ファインは俯いて懺悔をするよう告発した。

「…俺の勤め先のリタール家の屋敷が昨夜襲撃を受けました。旦那様と奥様は生死不明です。」


ローザは眉を顰め目で先を促す。

「お嬢様は無事で現在教会の表にいらっしゃいます。ですが、今日の朝から昨夜の記憶を失っているようです。

追っ手は今のところ無く。ここまで襲われず来れました。他国に逃げる準備が出来るまで、匿っていただけないでしょうか。お願いします。」


ファインは深々と頭を下げる。形振り構ってない姿、それだけで彼の本気が伝わってきた。

長くここに留まれば教会も襲われるかもしれない。襲撃の狙いが解らない以上リスクは存在する。


それでも…。ローザは深く目を瞑り考える。

ここの子は我が子も同然だ。卒業したとはいえファインも可愛い子である。

この子がここしか頼れないと考えるのは火を見るより明らか…希望を潰えるような真似をするなんて親のすることじゃないわ。

でも覚悟もなく甘やかすのも親のすることじゃないわね。


ローザはゆっくり目を開きファインを見る。断れたらどうするか考えているのだろう。

信用されてないとは思わない。もしものことを考えるのは大事でありそう教育した。

「ファイン」

「はい」

「貴方はこれからどうするのですか?」


ファインは頭を下げたまま逡巡させる。ローザには思ったことを嘘偽りなく伝えることが一番効果的だと知っている。

「…お嬢様は記憶を失ったので、不安にさせないよう。『俺はメルディの兄』であるとお嬢様に伝えました。

俺はメルディの兄として命を懸けて守ると俺に誓い、生活基盤を整えメルディに俺が必要となくなるまで忠誠を誓い仕えます。」


「貴方に見返りは無いし、いらない苦労をしますよ?」

「望むところです。」

ローザは言葉を突きつけるように、試すように言葉を吐く。

だが俺は口元をニヤリと口角をあげ不敵に笑った。その返答が気に入ったのか。にっこりと満面の笑みを浮かべる。


「わかりました、貴方の使ってた部屋せっかく片付け終わったのに無駄になりましたね。好きに使いなさい。」


「!シスターありがとうございます!!メルディを呼んできます!」

「あ、待ちなさい。」


小走りで教会を出てその後ろからシスターが歩いてくる。


「メルディ!ごめんな!待たせて、何もないか?」

「おかえり、お兄さま大丈夫だよ。」


メルディが可愛く笑い出迎えてくれる。


その後はシスターとの自己紹介も済み孤児院の中に招く。


メルディは落ち着かなく、ずっと辺りを見回していた。知らない場所だから当然だと思っていたけど、シスターが食事の準備をしに行った辺りから顕著になった。


「どうした?メルディ、落ち着かないのか?」

もしかして俺、何かやったろうか…。1人にして不安だったとか、それともシスターが怖いとか?内はともかく印象は悪くないと思うけど…。


「うん…。手伝わなくて良いのかなって…。」

…驚いた。何に驚いた?手伝いという言葉にも驚いたけど言葉を知ってるのも驚いた。

お嬢様の屋敷では料理は料理人が作り、決して手伝いなどさせるわけがない。

手伝いに来たなんて聞いたことないし。手伝いをしてみたいとか聞いたことが無い。


記憶が無くなったから?でも記憶が無くなったのなら逆に知らないのでは?

記憶が無くなると別の人格でも出来るのだろうか。いやまぁ、悪い変化ではないけど。

多分ここに住むにあたって絶対手伝いしなきゃいけなくなるし。言う前に思ってくれるのは有り難いけど…。

『良い子』になろうとしてるのなら…心配だな。


孤児院の子には色々な子供がいる。

俺も盗賊に家族を殺され孤児院に預けられたタイプだけど、生活が立ち行かなくなって子供を置いていくのはまだ優しい。

虐待の末置いて行ったり、愛人の子を産み落とし捨てたり。最低な親も居るものだと見ていた。

傷ついた子供は『良い子』を演じて、最終的に耐えられなくなったり。逆に暴れて周りを困らして愛情を試す。


ちゃんと、見ておかないとな。


なのにその後、ご飯食べてる途中メルディがボロボロ泣いてめちゃくちゃ動揺した。

慰めたかったけどシスターに全て取られた。


だから風呂で挽回しようとした。頼りにされたかったけどシスターに殴られた。何故!?

「シスター!なぜ殴るんですか?!」


シスターはフライパンを構え『もう一度殴られたいの?』と目が言っていた。今度は横面を殴られる。そう確信して言うこと聞いた。


それでも、『何故』という気持ちが消えない。

シスターに部屋に連れられ説教された。

「もう、何故入ったの!ノックもしないのも非常識だし、更に入るなんて何を考えてるのですか?」


対面でソファーに座りお説教の(てい)になっている。

「お嬢様が一人で着替えたり、体を拭けるか寒くないか心配で…。前にチビ達風呂に入れたことありますし…出来ると思いまして…。」


行動原理を説明したら、怒ってても笑顔のままのシスターの眉がつり上がった。

ひぃ…!


「貴方が昔入れた子達は当時3歳です!メルディちゃんは全く違います!少し話したらとても利発な子じゃないですか。女の子の心の成長はとても早いのですよ、6歳は立派なレディです!可哀想に…叫んでたじゃない。」


俯きながら「うっ」と言葉に詰まる。


ローザはふぅ、とため息を吐くと「あとで解ってますね?次したらもっと重くしますから…覚悟しておきなさい?」


いつものように、優雅に頬に手を当てはにかむ様にニッコリ笑った。

思わず遠くなる意識に、「あっはい」と返す。

後の事を思ったら現実逃避したくなった。

メルディ…。早く帰って来て。


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