裏事情
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時は一週間程前に遡る。
この周辺の国の人間は精霊を信仰する人が数多くいる。精霊を身近に感じ、寵愛という『恩恵』を宿す者も時折現れ、王家の始まりは人間と精霊が手を取り合った英雄という物語が国民の寝物語に聞くからだ。
精霊は人間にとって身近であり自然そのものであり慈愛深く、時に厳しく畏敬の対象であった。
人間は『恩恵』を誇り、精霊に感謝し日々を生きていく。
だが、それは人間のみの話。
海の向こうの大陸には獣人がおり、獣人は精霊の加護は無く魔法は使えないという。
精霊を信仰している人にとって、それは精霊に見離されている様にしか見えなかった。
だから国によっては獣人は悪役に使ったり冷遇した。
『獣人は、精霊に見放されし種族』として。
昔、一時は親交があったが、人間が見下す様になってから親交が途絶えたという。
だから現在は姿を見なくなり、物語上の存在でしか聞かなかった。
しかし、それは市井の話。
貴族間では裏で獣人を飼う者も存在した。
獣人は人並みの知性がある獣の特性を持つ人型と動物と変わらない姿に変われる種族であり、見た目が愛くるしいモノや変わったモノが高く取引されていた。
勿論国は奴隷は罪で人身売買は御法度であると発信している。そして種族に規制は無く差別をしている訳ではなかった。
しかし暗黙の了解か、獣人は『人でないから大丈夫』という考えが社会を締め裏で金持ちの高価な愛玩動物や高価な装飾品として取引されていた。
そんな一部の価値観により裏業界では海の向こうの大陸は宝の山となった。珍しい植物も、獣人も捕まえれば高く売れる実入りの良い仕事となったのだ。
その日も同じ事。
一週間海に揺られ大陸に入る。
獣人は感が鋭く嗅覚も優れている。だから大陸に入る前に、匂いを消すために特殊な調合をしたお香の匂いを船の中でも焚き匂いを染み込ませ潜り込む。
そして幸運な事に、猫の耳を生やした白と黒が混じった髪で猫科の子供特有の青い目の獣人を見つけた。見た目の色も良しで器量も良い。これは高く売れる!
基本獣人は大人が近くに居るが、子供が多く産まれる時もある為時折逸れるのだ。大人は厄介だが、子供であれば人型も安定せず簡単に捕らえる事が出来る。あと何匹か捕らえられたら良かったが、見つからない上に、捕えた猫獣人が餌を一切口にしなかった。
商品が衰弱すれば買い叩かれるかもしれない。だから早目に上がり国に戻ることにする。
獣人は獣体の状態でギリギリの檻の中であれば人型になれない。圧迫で死ぬと本能で解っているからだ。
だから大人しかったが、根性が据わってるのか目の前に餌を置いても一週間、国に戻るまで食べなくて見る見る痩せていった。
獣人は体が丈夫に出来ていてすぐに死ぬ事はないが、栄養常態が悪ければ質が落ちる。しかし檻に手を伸ばせば爪を出し、首根っこ捕まえても暴れ回り手がつけられなかったから放置になった。今回獣人はコレしかないからこれ以上傷などつけれない。
そして本日、リーゼンブルの売人を仲介し売り先と話を付ける、がこれから不運ばかりつきまとうようになった。
買い手と話を通す時、取引の隠れ家で商品に首輪を着けようとした時に逃げられてしまったのだ。
普段であれば薬入の餌を食べさせたり、雷の恩恵を宿した魔道具で気絶させたりするのだが、獣人のガキは檻の中で動かなくなってたから気を抜いてしまっていた。
逃げた後、恐らく下水に飛び込んだのだろう。
生きてるにしろ、死んでいるにしろアレを回収しないと大事になってしまう。
すぐに人数を集め捜索の手配をするが中々見つからない。下流に落ちたかと郊外の森に入る。
ここの森は少々厄介な土地にあり、隣国ウィリントとの国境が近い。下手をすればニ国間に追われてしまう。
運の悪さを呪ってた時、途中氷に体が半分覆われたミミットベアとボロボロの衣服を纏った珍しい髪色の子供がいた。
子供は汚れたシャツに破れたズボンを履いているが、かなり見目のいい子供だった。恐らく何処かの愛玩奴隷で逃げて来たのだろう。しかし腕の中にミミットが居るってことは子供に手を出して親に襲われたってところか。ミミットベアは基本一匹しか子供を産むことがなく、子供に害を及ぼす存在を排除する危険な魔物だった。しかしその危険故にミミットの肉や毛皮は高く取引される。
ミミットベアになると毛皮は鋼鉄のようになり毛皮を剥ぐの大変な苦労があるのだが同じく高価だ。
運が良い。この子供であればさっきの獣人より高く売れるだろう。ミミット共も売ればかなりの黒字になる。親は氷で動けない様だし運がやっと上がってきたようだ。
この氷はこの子供が暴発させた可能性が高い。暴発後は魔力が空になるから大した抵抗もされないだろう。
だが、此処でも運が良くなかった。
ミミットベアは氷を砕き襲ってきたのだ。
人数を割いてしまったから抵抗も出来ずミミットベアに殴られる。死んだ。これは確実に死んだ。
しかし、気が付くともう一人居た仲間共々生きていた。
もう子供もミミット共も姿が無かったが、あの子供は殺されただろう。
もう一人の仲間は動けない程ではないが継続は不可と判断し駐屯地へ戻った。まだこの辺りは見ないが奥に行けば肉食の獣が血の匂いを嗅ぎつけてくるかもしれない。俺は単独で跡を追う。逃してたまるものか…。
しかし道中に剣を持った汚れたシャツにズボン姿のまだ若い茶髪の男とその小姓か?綺麗な面に執事服のような物を着ている。それなりに金持ちそうだった。
もしかしたらさっきの変わった毛色だった子供の飼い主?いや、まだ青そうだ。屋敷の主に命令された小間使い辺りが妥当だろう。
「た、助けてくれぇ!!ミミットベアに襲われたんだ!!」
必死に逃げてきたように装って助けを求めると青年は少年の前に出て剣を構え警戒する。なかなかやるようだと見受けるが護衛か?これは使えるかもしれない。ミミットベア相手に一人ではキツイからな。
「誰だ?」
「俺は近くの村の猟師だ。この怪我はちとミミットベアに襲われてな。今追っているところだ。あんた達、腕に覚えがあるなら手伝っちゃくれねぇか!」
「俺達は――」
青年が口を開こうとすると面の良い少年が手で制し前に出る。どうも上下関係は少年の方が上らしい。どっかのお忍び貴族か?
「僕達は迷子の女の子を探してる。知らない?」
『迷子』の女の子ね。それに偉そうな口振りだ。真偽は判らんが答えといた方が良さそうだ。
「み、見た!変わった髪色の女の子だろ!?
実は猟師の俺がミミットベアに殴られたのはその女の子を助けようとしたからなんだ!」
少年はどこか厳しい目つきで見てくる。
しかし後ろの青年は「な、な…」と青い顔で口を挟んできた。
「そ、その女の子は!!」
呆れた様に少年は青年を見ている。その表情で上下関係は解るが、恐らく少年は貴族ではなさそうだ。貴族だったら狼狽えるような人間は雇わないだろう。…それに、どうも青年の方があの子供と接点がありそうだ…。
愛玩奴隷かと思ったが雇われている者の家族か?
そういえば汚れたシャツにズボン姿をは似ている気がする。
「貴方達は…」
身元を聞こうとすると、少年が青年のシャツを引っ張り耳打ちをする。
すると青年は、くわっと目を見開き「メルディィィィイイイ!!」と叫びながら駆け出して行った。護衛対象置いてくなんて何考えてんだ?
少年は小さな溜息を吐いた後、跡を追うように駆け出す。少年は青年の教育に苦労しているようだ。俺も二人の跡を追った。
ミミットベアの毛は柔らかいし暖かい毛だけど丈夫です。
ただ針金のように切れないと思っていただければと思います。




