屋敷、二日目の朝
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「おいバカネキー、生きてっかー?」
ガチャッとマンションの鉄の扉が突然開く。
あれ?鍵かけてなかった!?
バッと後ろを振り向くと短く刈り込んだ短髪の黒髪に試しに空けた片ピアス。
髪と同じ黒い目は少したれ気味で姉弟で顔が似てると不名誉な事をよく言われた。
それが私の2つ下の弟だ。
私、何してるんだっけ?
部屋の中は乱雑でゲームの本体横にはパッケージが積まれている。服装も長年着たよれたシャツに短パン。棚の上には推しのフィギュア達がショーケースに飾られそこだけ綺麗に整頓されていた。一人暮らしマンションの私の部屋だ。
なんで弟が突然入ってくんの?
というか、何勝手に乙女の部屋に入ってんだ愚弟!!チャイム鳴らせ!鍵はどうした?!
「何勝手に入ってきてんだ愚弟!」
怒る私に弟は飄々と何かを振りながら返す。
「別にいーじゃん、どーせ独りなんだろ?
ゲーム持ってきたんだ、一緒にやろうぜ!」
持って来たゲームの表紙は『真拳5』と書かれている。私の苦手な格ゲーだ。
「げぇ〜格ゲーじゃん私苦手なの知ってんでしょ!コンボ覚えらんないの!」
「いーじゃんよ、サンドバックにはなれんだろ!」
「ふざけんな、リアルで卍キメてやろうか?!」
「それは勘弁!」
そんなやり取りをしながらも弟はズカズカと部屋に入って来てゲーム機の中身を入れ替えて起動させる。
私も仕方ないと気分を変えて2Pのコントローラーを握った。
「もー、私箱ゲー派なのに…。」
「昔エアライツやってたじゃん」
「好きな別ゲーキャラ出てたから仕方ない」
「…ヴァンパーもやってたじゃん」
「メルシアたんが可愛すぎるから仕方ない」
「…ちゃんと必殺コンボ決めてたろ」
「だって子猫達召喚するんだもん、やるしかないじゃないか!」
「お前のその『好き』に振り切れる癖なんとかしろ、真拳だって推しキャラ出来るかもだろ!」
「人から紹介されると触手動かねーんだよ!察しろ愚弟!」
カチャ、カチャチャチャと二人のコントローラーが悲鳴あげるように動きヒートアップしてくる。
「あ!ハメ技!ハメ技禁止!」
「勝てば正義だ!」
K・O
「もう、貴方達仲いいわね。
ゲームばかりしてないで手伝いなさいよ。」
母親がキッチンから話しかけてくる。
いつの間にか実家のリビングで、子供の姿になっている。
ゲームもパイオに切り替わって私だけがプレイしていた。
だけどソレに違和感を覚えることは無い。
「だぁーーー!なんでそこでゾンビに向かって行くんだよ!死にてーのかヘタクソ!」
「仕方ねーだろ!焦らすな愚弟!犬!犬がぁぁぁあ!」
GAME OVER
「おい!遊理王しようぜ!」
「えー」
「ふぅん、怖気づいたかこの雌豚!
この絶対的の力で粉砕してやろう!」
「おい!どこで覚えたその言葉!
まったく…ふはははん、良いだろう!この攻撃力0デッキで返り討ちしてやんよ!」
「行くぜ姉貴!」「かかってこい愚弟!」
「「ディアハ!」」
YOU WIN
「ぃよし!!」
「ま、負けた…」
「はははははははは!」
弟が床に両手をつく傍らで笑いながら何度も力一杯ガッツポーズを繰り返す。
母親が呆れたように声をかけてきた。
「まったく本当に仲良いんだから、男兄弟みたいだけど…。」
「だって!愚弟が勝負吹っかけてくんだもん!」
「バッカ!俺が一人寂しい姉貴を遊んでやってんだよ!」
お互いに指をさしながらわめく。
母親はエプロンで手を拭きながら微笑ましい物を見る目で笑った。
「ふふ、それなのに…先に死んじゃって。
私達が、どれだけ悲しんだか思ってるの?」
ドクっと心臓が跳ねた。
いつの間にか子供の姿から大人の姿に変わっていた。
大人になった弟は母親の隣に立って私を睨んでいる。
「バカネキ、未だにゲームの相手出来るのだって姉貴くらいだしOCGだってTRPGだって、ずっとメンバーの中に入ってたのに…。
何で、勝手に消えてんだよ!!バカ姉貴!」
お前はゲームばっかだな!愚弟!
そっちこそ自分で友達作れバカ!
「友達の問題じゃないんだよ!
ずっと、ずっと一緒遊んでいた人間が消えたんだよ!察しろよ!!バカ!」
弟が悲痛に叫ぶように声をあげると、滴が落ちる。
…弟が泣くのは、何年ぶりに見たのやら。
泣かれるのは、苦手なんだ。
「……ごめんね」
私はメルディの姿で弟を抱き締めた。
ベットから起き上がると朝だった。
「はぁぁぁぁぁ〜〜。」
朝一発目からデカイ溜息が漏れ両手で顔を覆う。
母親と弟の夢。
…父親もいるんだけど印象が薄いのか出て来なかったな。
そんな事より、大人になった弟を泣かせる夢は心が痛かった。実際泣いたか判らないけど、泣かないでくれと思う。
勝ち気で、生意気で口の悪い愚弟。
死んだ後の部屋で涙引っ込んでくれないかな。
まぁ、いつも突然遊びに来ては最後に部屋を掃除して帰ってたから慣れてるかもだけど。
姉ちゃんは、新しい世界で楽しくやってるから。
一緒に遊んでくれる彼女でも見つけてくれ。
自己嫌悪に陥っているとノック音が響く。
柱時計を見ると7時を回ったところだった。
「メルちゃん起きてる?」
「うん。リンダおはよう。」
メイド服を着て髪が整えられているリンダが入ってくる。
ドアノブが少し高いから開ける時がなんか可愛いはずなんだけど、一緒にファインも入ってきた為ファインが開けて閉じていた。
「お兄ちゃんもおはよう。」
「おはようメルディ、ちゃんと寝れたか?
夢は?」
「…う、うん。ちゃんと寝れたよ。」
夢はノーコメント。
「そうか。」
誤魔化されてくれたのか伺うような目だけど優しく笑う。
「ファインね、ずっとそこで―ンン」
リンダが笑いながら何かを言いかけるとパッと口を塞がれた。
リンダが不思議そうにファインを見ると人差し指を口に当て「しーーっ」とか言ってる。
内緒なのに目の前でやるとか何か可愛いな。
リンダもコクコクと了解をして外してもらっていた。聞かないどこ。
「メルちゃん、朝の準備するね!その後朝ごはんに行こー。と言う訳でファインは出てってね!」
「え?何で?一緒に行けば良くないか?」
そう言えば一緒にいる時は目の前で着替えてましたね。眼福でした。
「シスターが女の子の着替えをわざわざ見る人は変態だって言ってたよ?」
「別に見たいから残るわけじゃないぞ。」
「別にファイン手伝ってくれるわけじゃないじゃない。邪魔だから出てって!」
そこまで言われては立つ瀬のないファインは少しむくれながら「解った扉の前で待つ。」と部屋を出ていった。
リンダはよし!と仁王立ちしながらファインを見送った後、私に向き直る。
「じゃ、顔洗って着替えよっか。」
「うん。」
昨日知った事だけど、この部屋の続きに洗面所と風呂場もあった。
孤児院から見たら凄く近代的なんだけど、機械とかもあるんだろうか。
因みに風呂は陶器の猫脚が可愛いバスタブが置いてあり水とお湯の蛇口を捻って温度を調整する物だった。因みに切り替えるとシャワーになる。
追い焚きは出来ないけど限られたお湯で体を拭いていた孤児院に比べると感動するぐらい嬉しかったのは言うまでもない。
リンダに真っ白な柔らかいタオルを渡され顔を洗い戻ると服をもう選んで待っていた。
「今日はコレね!」
手に持ってるのは七分の袖口が真っ白いレースのフリルをあしらったラベンダー色ワンピースだった。過度な装飾はないけどレースのフリルが痒そう…。
引いて見てるとリンダが悲しそうな顔をして「せっかく選んだのに…。」としょぼんとした。
「え!あっ!いや!あの!か、可愛い服だなって!!自分なんかに勿体無いくらい可愛くって!
折角選んでくれたのにゴメンね!着る着る!着させて欲しいな!」
そう言うと、パァと春の花が花咲いたように笑顔になるリンダに『これは敵わない』と悟った。
髪はまだ難しいのは出来ないのでハーフアップに髪を整えて貰い廊下に出ると、壁に寄りかかって腕を組んでファインは待っていた。
「お、準備できたか?じゃあ行こうか。」
「うん!待たせてゴメンね。」
ファインは気にするなと言いながら、いつものよくに頭を撫でようと手を伸ばしたけど、途中でピクリと止まってファインの大きい節くれ立った手の指が前髪だけをサラッと撫でた。
髪型を気にしてくれたのだろうか?
前髪に手を当て笑うと満足そうにして先頭をファインが歩く。
実は、ファインが頭部を撫でようとした時。
リンダが『せっかく頑張ったのに!』とショックを受けた顔でファインと目があった為躊躇っただけだった。
食堂では先にお爺ちゃん執事とリュートとトリヴィスが控えていた。
たぶんあのお爺ちゃん執事の人が、この家の人を取り纏めている人だろう。
視線を巡らせるとシスターとマルコさんはまだ来ていないようだ。
「皆、おはよう。」
「おはようございます。お嬢様。」
「「おはようございます。」」
三人の執事に挨拶したら予想以上にピシッとした挨拶が返ってきた。正直勘弁してほしい。
自分でも、口の端が引き攣ってるのが解る。
「…あの、その『お嬢様』とか止めてください。二人も普通にして欲しいな。」
「いえいえ、お嬢様は我々にとってかけがえのない至宝。大切に想いこそしすれば、そのような扱いなど出来よう筈もございません。」
その大切にしたい人の思いはどうなんすかねー。
「そんな恐れ多いです。
それに私は、ただ保護をしていただいた客に過ぎません。
私のような者にこんな良くして頂いて、更にそれ以上望むなど分不相応です。」
ニコリと笑ってリュートとトリヴィスに『ね?』と同意を求めるように見ると二人して驚いた顔をしていた。
え?なんだよ。
え?猫かぶっている事に驚かれた?
「どうしたの?」そんな変な顔して。
「…いや…いえ、何でもありません。」
リュートが私に敬語ぉ?すっごい違和感!
きっと私は凄い顔をしていたんだろう。
リュートがムスッとした顔をした。
ここは何時もなら『なんだよ。』と言われるところだが、リュートに「何でしょうか。」と言われてモヤモヤというかイライラというか心の中に黒い気持ちが湧き上がってくる。
「リュートに、敬語使われるの、イヤ。
似合わない。気持ち悪い。腹立つ!」
「凄い言われよう。」
こっちだって言いたくて言ってるわけじゃないし。
と心の声が聞こえてきそうな表情をしている。
「だって、『仲間』なんでしょ!
『仲間』に上下関係強いる場所なんてすぐにでも出ていきたいなー。
出ていく時は勿論リンダ連れていからね!」
やさぐれたように言うとお爺ちゃん執事の方が慌てて止めてきた。
因みにリュートは無言で呆れたように見ている。
「そ、そんな!お嬢様!お待ちくだされ!」
「感謝していますが私は仲間に何かを強いる事は嫌です。
そんな事なら全て願い下げです。」
相手が下手なのをいい事に要求を通す。
そんな事をしているうちにマルコさんとシスターが来た。
「行こ、リュート!」
リュートの手を掴んで引っ張っぱって進むと、トリヴィスは付いて来なくてボーッと突っ立ってた。
リュートの手を引いたまま踵を返してトリヴィスの手も掴んで引っ張る。
「…ほらトリウィスも…トリビス、も。
トリウィス、トリウィズ…」
い、言えない!?ヴィスが言えない!
ビスになる!なんか思った発音が違う!!
手を引いたまま固まる私にクツクツと笑う声が降ってくる。
「言えないなら仕方ないな、リビで良いよ。」
「…ごめんなさい、じゃあ有り難くリビって呼ばせてもらうね。」
「どーぞ。…初めてあった時は悪かったな。」
金茶の切れ長の目が優しく細められる。
「そんな事気にしてないし大丈夫だよ。
それより一緒に朝食いただきましょ。お腹減った。」
「最後は言わないほうが花だったんじゃない?」
「花よりご飯よ、当たり前でしょ。」
リュートに突っ込まれたけど腹減ったんだから仕方ないね。
皆揃ったんだから早くご飯食べたいじゃん。
結局席に一番遅く席に着いたのは私たちで、全員座った後和やかな朝食が始まった。
ゲームのタイトルが何か解ったら同世代かなって思う。
一応濁しましたが全部実在するゲームです。
追記
OCG
普通にOCGって読んで大丈夫です。
TRPG
別呼び、テーブルトークRPG(話しながらサイコロでシナリオ進めるゲーム)
私は「クトゥルフ神話TRPG」と「魔道書大戦RPGマギカロギア」と「永い後日談のネクロニカ」しか知りませんがとても楽しそうです。
実プレイはクトゥルフくらい。学生時代に知っていれば、結婚してなければと、知った後で悔やんでます。ちょうやりたい。
もし興味ある方は調べたり動画見てから始めるのをオススメします。




