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閑話 ダリルの日常(ダリル目線)

本編に関わりない話です。

出番の少ないダリルの話。

ブクマ、ありがとうございます!

リーゼンブル中層街、ここは主に一般層とも言われている広い街だ。

中央大通り、正門から王城へと続く広い通りは商店や出店で賑わい大勢の人が通っている。


中には上層街の富裕層から来る馬車も良く通っており、真ん中は馬車、端は歩く通りと自然に別れていた。


この国は山のなだらかな斜面のように王城が坂の上に建ち、そこから緩やかな坂を下るように街が建っている、まるで扇のような形になっていた。


噂では、王城の中には美しい湖があり、そこの水源が街を麗しているらしい。

そして国の王様はその湖の精霊様の子孫であるらしい。眉唾だけど。

正直俺は信じてない。


カーン

カーン

カーン


金槌を一定のリズムで熱した鉄に叩きつける音。


カーン

カーン

カーン


ここはダリルが引き取られた金物屋。店名はグリッド金物店。

大通りから少し外れた場所に工房があり、そこで金槌を振られている。


店は工房の隣に建てられており、それなりに客が来ている。

金物は鍋や包丁などの日用品や蝶番に庭の柵など色々、時に修理を請け負ったり包丁を研ぎ直したり、それ以外にも他の店の工具や商売道具を作ったりしている。それなりに忙しい。


「おいダリル!そったはどーだ!!」


鉄を打ちながら大声で叫ぶ親父、離れているわけじゃない。

8畳くらいの部屋の端と端ばかりしか離れてない。

だけど金槌振ってたり、鉄を削る作業等していると自然に耳が遠くなったり声が大きくなってくる。


解ってる。解ってるが…。


「うっせぇー!オヤジ!聞こえてんだよ!」

「かーっ!オメェの返事の方がうっせーわ!

部品出来てっかよ?!確認してやっから持ってこいや!」


「今微調整してっからちょっと待て!」

「待ってやるから早く持ってこいよ!」

「せかしてんじゃねぇか!」


まだ半人前でオヤジが土台を作りパーツを俺が作っている。

サイズを合わせて細かい調整で荒いヤスリで削って整える。


パーツは半人前の仕事と言うが、実際難易度が高い。

合わなければハマらないし、補強出来ないと直ぐに道具は壊れてしまう。

適当な仕事など出来ない緻密な作業でとても大事だ。

ゴーグル越しに真剣に測りながら削って息を吐く。


手で摘み全体を確認してからオヤジの元に持っていった。


「出来たぞオヤジ!」

「おお!確認してやるから有り難く思えよ!」


ハゲで強面で口は悪いが丁寧に受け取り確認する。

土台にも嵌まり不備はないと確認出来たところで俺は力が抜けていくのが解る。


「腕を上げたじゃないかダリル!合格だ!

そろそろ1から作ることも許してやろう、だがな!店頭に並べるのはまだだ。

あと出来上がったら必ず俺の元に持ってくる事!いいな?」


「わかった」

ゴーグルを上に上げて汗を拭う。

ここの工房は鉄を扱ってるだけに暑く、冬でも夏の様に暑い。

それで更に気を使うことが多いから神経が削れそうだ。


…でも、一つ一つ出来上がり…褒められると…悪い気は、しない…。


8歳の時から孤児院に暮らし、10の時から此処で働き始めた。

褐色の肌、濃い灰色の髪にオレンジの目。

明らかにこの国には居ない異国の色。


この国は色白で茶色の髪に緑系の目が多い。

その中で自分はとても珍しいんだとすぐに気になった。


まだあの頃、孤児院の子供は俺たち含めて9人居た。外見で何か言う奴はいつの間にかシスターが物理で諌めていたが、裏でなにもない訳じゃなく、いつの間にか俺は捻くれた言い方しか出来なくなっていた。


そんな時、ラルに守られているという昔の自分を縊り殺したい黒歴史があるわけだが9歳の時このオヤジに会って俺も変わった。


元より、俺は弱かったが手先は器用な方だった。

包丁研ぐのは俺の仕事だったし物を作るのは楽しかった。

初めてオヤジに会っときは今でも覚えているくらい衝撃的だった。


今まで会った大人の中でも特に大きく、始めて自分以外の褐色の肌でツルツルのハゲで濃い顔をしているのに、強面の顔の目はどんな子供より無邪気だった。


「お!お前がダリルか?

俺はアウィー・グリッド、グリッド金物店店長だ!

シスターに跡継ぎの子供が欲しいとお前を紹介されたんだがどうだ?

うち来ないか?歓迎するぜ!」


がははははと大きな口をあけて笑う顔はこれから俺を取って食う凶悪な顔に見えた。


「あぁ?!テメェ、俺が変わった毛色で異国の血だからって奴隷でも確保しに来やがったのか!

俺はそんな安くねぇ!!」


太い幹のような腕を組み、焦げ茶色の太い眉が怪訝に潜める。


「おい小僧!聞いていたのか?

お・れ・は、『跡継ぎの子供』が欲しいっつったろーが!」


「うるせぇ!!どーせ最初だけだろ!異国の血が入ったガキなんざ本気で欲しがるやつはいねぇんだよ!!」


両親は海難事故で喪ってこの国に流れてきた、言葉も最初知らなかった、変わった毛色から見られる奇異な目、この国の血が流れてないことから一部の見る目は異端者を見るそれだ。


ラルが守ってくれる(だけどそれはコイツの正義感からくるだけ)

ファインは普通に話してくれる(孤児院を空ける事が多いから俺に興味ないだけだ)

年下のガキ共は懐いてくれる…(それは小さい頃に世話してたら誰だって懐くだろ)


理由を上げ否定する。希望は持ちたくない。

それだけ心無い言葉が胸に突き刺さった、いつの間にかズタズダになりジクジクと膿が出るように攻撃的な言葉を吐くようになった。

優しい言葉より、悪意の言葉の方が真実に聞こえた。


「…小僧、誰かにそう言われたのか?」

「…っ…。」

俯いて、口を引き結んで黙る。

コイツの顔を見ていると否定する言葉しか出て来ない。


酷い言葉を言った。

八つ当たりだった。でも…信用なんてできるはずも無い。


「小僧…お前に会う前にな、包丁を見させてもらった。」


ガバっと顔を上げる。


「綺麗で、丁寧に磨がれていた。

安物の筈なのに切れ味も抜群だった。

うっとりする腕前だな!」


「…っ。」


「あと食堂に置いてある椅子。

隙間なく嵌められてそれだけでも丈夫なのに、ちゃんと補強もされていた。

背もたれも体に合わせて反りもいれられていたな。

ちゃんと人の事を考えて作られていた良い代物だ!」


「…っ…ぅ…。」

思わず顔が歪む。

考えた、誰にも褒められなかった自分のこだわり。泣きたいわけじゃない。気付いて欲しかった訳でもない。

褒められたかったわけでも、なかった。


「俺はな、そんなお前だから跡取りに欲しくなったわけよ。

シスターに紹介してもらったのは本当だ。

だがな腕前を見る前に、考え無しに欲しいと言ったわけじゃねぇ。

まして技術を教えなく、小間使いの為だけに声なんてかけるかってんだ!


俺はな、俺の技術全てを遺せるダリルという人間が欲しいんだ。

そこにガキだとか、この国の血がとか全く関係ねえ!

まして毛色だぁ?!てめぇ俺に喧嘩売ってんのか!だったら買うぞコラァ!

今度テメェにそれ言った奴俺の前に出せ!ギタギタに教育してやるからよ!」


目に涙を溜めながら口を引き結ぶが最後の言葉で吹き出した。

「ぶっは、くは…くくく、はは」


笑いと一緒に涙までぼろぼろと溢れる。


オヤジは息を吐いてニカッと笑った。

「ガキが我慢しねんじゃねぇよ。…うちで修行するか?」


「………する」


「よし!

じゃ、話は纏まったしシスターに挨拶しに行くか!宜しくなダリル!」


「…あぁ…オヤジ…。」


それから15歳に引き取るまで通う様になった。

シスターのお試し期間と言うものだった。


引き取った途端豹変したり、所有物扱いしたりする人間もいる。

関わっているうちに本性が覗くこともある。


そうなったら迷わずシスターに助けを求める方針。ここだったら守って貰える、安心出来るからと言うことだ。


決してオヤジを信用してない訳じゃない。

可愛がるだけじゃなく仕事ではとても厳しいオヤジ。

出来たら褒めてくれるオヤジ。


オヤジの手をかけた物を見ると尊敬に値する出来栄えだ。


ただ…。

「ダリルの気持ちもあるからな。

俺達はもう家族の一員と見なしているが、徐々になれた方が良いだろう。

俺達の愛情は血の何よりも濃いからな!」


と言う訳で通わせて貰っている。

実際オヤジの店に行くと猛烈歓迎する義母親と義姉二人。毎度揉みくちゃにされ、思わず口汚く拒否るが『可愛い!』とか言って怯むことなく可愛がってくる。そしてオヤジと取り合いになる。

勘弁してほしい。


そして義兄、仕事の日は必ずと言っていい程仕事(城勤務の兵士)帰りに寄ってくる。

因みに義兄の仕事の終わる時間と俺の帰る時間がほぼ同じな為、最初足に捕まえられ『もうちょっと!もうちょっとで良いから帰らないでぇぇ!』と泣き付かれた事が何度かある。

勘弁してほしい。


最初は怖かったが慣れてくるとあしらい方を覚えてきて今は何とか説得出来てると思う。


認められたからか、受け入れられたか、もうあのジクジクした痛みを胸に感じることは無くなった。

自分でも何とか戦えるようシスターから剣を習った。守られてばかりはもう嫌だ。


何となく、過去の事を思い出しているとバーーンと工房の扉が勢いよく開く。


「義弟よーーー!!」

「どわ!!」


抱き着かれる前に両手でガシっと重ねるように捕まえる。

抱き着こうとする兄と拒否るダリルの力は今の所拮抗している。


「一々抱きつこうとするな!ウィリー!」

「兄と呼んでくれ!!」

「一回兄と呼んだら全力で鯖折りしてくるだろうが!二度と呼ぶか!!」


「アリ姉とイル姉は呼ぶじゃないか!」

「あの二人はただ喜ぶだけだから良いんだよ!!」

「俺も喜んでるぞ!」

「お前の愛情はただ痛いだけだっつってんだよ!!何故兄になると馬鹿になるんだお前ら!」


グギギと両腕と足腰に力をいれて何とか押し返す。

ウィリーはファインより一つ上の17だ。

身長も体格もデカイし兵士なだけ強い。

俺が力一杯押し返しても向こうは余裕なのがクソ腹立つ。


だがリミットが外れると全力でくるから始末悪い。

しかしファインといいウィリーといい、何故コイツラは弟妹が出来ると暴走するんだ!?


「そりゃお前が可愛いから仕方ない。

…心配するな、孤児院にいた子供たちは皆大丈夫だよ。」


「っ…!」


「あーあ、素直じゃないのが可愛い!

どーせ素直になれなくて新しい妹分につれない態度とってたのを気にしてんでだろ?

それなのに新天地で元気にやってるか心配で仕事に打ち込んじゃって〜。

リンダとリュートも何だかんだ面倒見てたしね〜。

同じ王都にいるんだから見に行けば良いのに。」


グググと上から抑え込まれていく。

「うううう、うるせぇぇぇぇぇえ!

べ、別に気にしてねぇよ!!

別にシスターもファインも着いているし大丈夫に決まってんだろ!!気にするかバーカ!バーカ!!」


腕が疲労でプルプル震えだした。

恥ずかしさのあまり「オラァ!」と横に投げるように手を離して息を整える。


ウィリーは「ちぇー」と言いながら両手をワキワキしながら口を尖らしていた。


「たく、お前らじゃれ合いは外でやれ。

これ以上暴れたら拳骨落とすぞ。」


「うぇーい」

「へーい」


「おらおら、母ちゃんが飯作ってから湯を浴びてこい!!」


「「へーい」」


中層街には「湯屋」という金を払えばお湯を浴びれる場所がある。

オヤジを待って、男三人で汗を流した。



なんか男臭くてすみません。

因みに姉二人は既婚済みだけど、旦那と子供連れてちょくちょく会いに来ている。家族仲はすこぶる良い。


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