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シスター・ローザ

リーゼンブルにたどり着くと町を囲む城壁に、検閲の兵士がいた。

パスのような身分証明を確認して、商人や旅の人を中に入れていた。


私たちは、大丈夫だろうか?

正直15歳までゲーム知識が役に立ちそうにないんだよね。

思わずファインを見上げると大丈夫だと言う感じにニカっと笑って安心した。


今、私に頼れるのはファインだけ…。

彼はゲームでも最後まで裏切ることがないことを知っているから信用できる。


門に近づくとファインが兵士に片手を上げて気安げに挨拶をする。

知り合いだったのか。


「よっ、お疲れさん」

「おー、ファインじゃん。何?パシり?その子は?」

笑いを含んだように人懐っこい笑みを浮かべる兵士の一人は相当気安い仲のようだと伺えた。


話を振られたから挨拶をする。

「初めまして、メルディです。宜しくお願い致します。」


スカートを広げ何となく淑女の礼をとる。

体の反応のようで特に何も考えずした。

「おー、ご丁寧にどーも!メルディちゃんかぁ。可愛いね!俺はリックス・スターリ、ファインの腐れ縁みたいな感じだな!

あ!後ろ詰まってるからあとでなー!」


ファインは話が終わったと城門の中に入る。

顔パスじゃん、いいのかな…。

途中まで手を振っていたリックスは仕事に戻ってた。


「さて、俺の…いや俺達の実家みたいなところに行こうか。そこで一旦落ち着こう。」


「じっか?ですか?」教会の孤児院のことかな?


「あぁ、あと無理に敬語使わなくていいぞ、兄妹なんだから」

「うん!」

ファインはよし、と柔らかい笑みを浮かべると、細い路地裏へと迷いなく進む。


生前も今世もこういう道に入ったことはなく、辺りを見てしまう。家がボロボロの木で出来ており、窓ガラスなんて物は存在しなかった。

でも通る人は普通で表の人と大差無い。清潔感があり普通の町の服を着ていた。


ファインは貧民街の孤児だとゲームな説明に書いてあったけど思ったより普通だ。

ファイン自身も性根は真っ直ぐで純粋で真面目キャラだし、環境はよかったんだなと此処を見て思った。


まぁ、確かに富豪の屋敷の警護に入れる時点で優秀なだけじゃなく、国の環境が良かったのかもしれない。


ふと気付くと、広く開けた場所にたどり着いた。

古ぼけた石作りの教会。でも纏う空気が清らかな静謐な雰囲気をしていた。


「メルディ、ついたぞ。ちょっとシスターと話してくるから此処で待っててな。

動くんじゃないぞ?」


私はこくこくと首を縦に振ると、くしゃりと頭を撫でられファインは教会の中に入っていった。


近くでは子供のはしゃぐ声が聞こえる、目をやると教会の裏に建物がある。あの木造の建物が孤児院かな。


二階くらいありそうな教会の入り口の左右には女神象像が飾っており、女神の手のひらに灯をともせる部分が見える。


「メルディ!ごめんな!待たせて、何もないか?」

「おかえり、お兄さま大丈夫だよ。」


笑って迎えるとファインはあからさまにホッとした表情をした。もうシスコンの気が現れてる。


そのファインの一歩後ろを歩く年配のシスターがクスクスと上品に笑っていた。

「こんにちは、メルディちゃんね。私はシスター・ローザです。此処をあなたの家だと思って寛いでちょうだいね。」


「こんにちは、宜しくお願いします!」

黒を基調とした足首まであるスカート、肌を最小限見せないよう設定された長袖。白髪の髪の後ろ髪を覆うようにバンドをしたベールが肩に流れていた。


修道服を身に包む女性の年を刻む皺で40歳頃だと推測するが可愛らしく笑う表情が年齢を不詳にしていた。宝石のような緑色の目は優しげに細められて微笑む。


そっかー、ゲームでは出てこなかったけどこの女性がファインの母で育ての親なのかー。

優しく笑ってる顔の印象がファインと似てるや。


ローザはメルディの視線を合わせるようにしゃがみ、髪をすくように撫でる。その時にパラっと小さな欠片が落ちた。

(なんだろう?)


目で追おうとすると、ローザが私の手を取り優しく撫でる。


「怖い思いをしましたね…。」ポソっと小声で労るように言う。

目を合わせるとローザはニッコリ笑って立ち上がり私の手を引いてファインと共に教会の中に連れていってくれた。


教会の中に入ると参拝する人がちらほらいた。

奥の中央には段差があり、台にはローブを纏った清楚な女神像。

表にいた女神とは違うデザインで別の女神だと思う。


正直ゲーム上で施設に教会はあるけど、仲間の幸福度を上げるだけで宗教的な話なにも無いんだよね。だから神話とか教会の話は全く解らん!


女神像を遠い目で見てるとローザが女神像の奥の扉を開け中に招き入れてくれる。

そこにファインと一緒に入ると、長い大きな机があった。


10人は座って食べれるような机なことから、多分食堂だろう。

ローザは「ここで待っててちょうだいね」と扉がない出入口の奥に消える。奥はキッチンかな?


手伝わなくて良いのかな…。

待つだけだとソワソワしちゃう。


「どうした?メルディ、落ち着かないのか?」

「うん。手伝わなくて良いのかなって…。」


ローザが消えた出入口をチラチラ見てると驚いた様にファインが私を見る。変なこと言ったかな?

あーでも、令嬢だと思うと変なのかー?変か?でもヒロイン普通に動き回ってた気がするけど。


ファインはくしゃりと私の頭を撫でると「いいんだよ、今はな。シスターに甘えとけ。ご飯食べ終わったら水を浴びような!」


水ですかぁー。お湯ではないんだなぁー。

水使えるだけでも有り難いのか…。これは心の準備していかないと心臓麻痺をおこしそうだ。


前世は偉大だったと思いながら心の準備をしているとローザが木の器に入ったシチューを持って来て私たちの前に置く。

「朝の残りで悪いけど、パンは沢山あるからおかわりしてね」


「ありがとうございます」

「「いただきます」」

ファインと声が揃ってシチューをいただく。

薄い塩味で具はほぼなく、ミルクが引き立っているが美味しい。透明の液体が降ってきて手の甲に当たった。


「え?」

どこから落ちたんだろうと思ったら自分が泣いててビックリした。あっという間に視界が歪み涙が溢れる。

隣でわたわたとファインが動いてるのが判って笑うがそれでも涙が止まらなかった。泣きたいわけじゃないのに。


ローザが音もなくスッと横の椅子に座ると私の頭ごと抱き抱えるように抱き締めて頭を一定のリズムでポン、ポン、とたたく。


どうやら、私の心は思った以上にズタズタだったようでされるがまま嗚咽をもらす。よく思えばそうだ。だって本来は記憶を失うレベルで心の防衛本能が働いてるのだから。


多分過去の記憶…。前世を思い出すまでの私の記憶が他人事のように感じるのはこの防衛本能のお陰だろうな。ヒロインの父と母の仲は良くて幸せに生きてきたのに、この出来事だもんな。


幼女にこんな気持ちを味遇わせてたなんて黒幕許すまじ!ヒロインに変わって全力で殴ることをひっそりと誓った。



真っ赤に腫れた目でご飯を食べ終わり、水行タイムでっす。ドキドキします。色んな意味で。




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