エルビンスの策略
遅くなりすみません!
評価、ブクマありがとうございます!
貧民街の教会が火事になり、辺りが騒がしく人が慌てる。
一部は荷物をまとめ逃げ出し。
一部は火事を収める為奔走し。
一部は恩恵を使ってまで収拾に当たった。
人の怒鳴り声、逃げ惑う声が現場を支配し騒然としていた。
邪魔にならない端に幌馬車が停まっている。
馬も付いておらず、商人がただ一時的に停めているのだろうと思われる馬車の中には人が居てその様子を眺めている。
外見は古い幌馬車なのに、中は真新しく内装されており荷物をおく空間は無くなってる。
その代わり人が座れる場所が設置されふかふかのクッションまで敷かれていた。
そのクッションに身を委ねているのは紳士然としたエルビンス男爵だ。近くには光が紡がれたような金の髪の少女が清楚な真っ白いドレスを身に纏って人形のようにエルビンスの脇にちょこんと座って大人しくしている。
さらりと背中に流れる光は真っ直ぐで癖がなく、髪から覗く耳は長く尖り人でない事が伺える。光に縁取られる大きめの瞳はまるで夏の明るく広い快晴の空の様。
透き通るような白い肌は子供特有の柔らかそうな肌で滑らか。だけどその表情には子供らしさが抜けており表情がなく、まるで人形のように生気を感じなかった。ただ横でじっと座っている。
「遅い…。計画が失敗したか…!」
悔しげに拳を握り占め腕が震える。
本来の予定ならばトリヴィスに説得してもらい、成功すれば良し。失敗した場合確保。
子供を確保したと同時に魔道具で連絡が入り迎えに行く手筈だった。
雇った集団に誘拐させ、それを助けたと見せかけて子供を保護。
そして修道院では面倒見きれてないと糾弾し正式に私のモノにし屋敷から出さない予定だった。
子供には疑われるだろうが、発言権は無いに等しい。そのまま屋敷に住めば気が変わると言うものだ。
「…お義父さま…。」
二の腕まであるドレスグローブに包まれた華奢な手がエルビンスの手に伸びる。
エルビンスは表情を一変させ慈愛を込めた目で少女を見る。
「おお、アリアーゼ。これからお前の友人となる子を手に入れるから楽しみにしていなさい。」
天使の輪が輝き小さな頭を撫で自信満々にいう姿は親が子にヌイグルミを買ってあげるような気安さだ。
アリアーゼと呼ばれた少女はそんなエルビンスを見上げ、俯くと小さく「はい」と返事をした。
それにいたく満足したように微笑むエルビンスは少女の『対』になれそうなメルディに思いを馳せ名案が閃いた。
「そうだ。これから迎えに行こうではないか!」
現在襲撃されてパニックに陥っているであろう孤児院に援軍と共に助けに入れば感謝されるに違いない。
少し計画がずれたが当初の計画とそんなに誤差はない。エルビンスはそう思った。
手を軽くあげ控えていた従者に合図を送る。
別の所に控えていた家の紋章入りの馬車に乗り換え教会の前に向かった。
教会の前にはさっきまで見ていた通りの光景で人がごった返していたが馬車の音に気がつくと人々が慌てて道を開けていった。
燃え盛る教会の近くに停め外に出ると、人々は何事かこんな時にとでも言いたそうな視線でこちらを見ていた。
歓迎されてないようだが、これから彼らの見る目も変わるだろうと無礼を許す。
「これは何事か!私はランハルト・フォン・エルビンス!私は男爵の地位を賜っており水の恩恵を持っている!
私がやろう!道を開けなさい!」
エルビンスは固まる人々に名乗りながら早足で駆け寄り腰に差した剣を地面に突く。
剣は鞘にも細かい意匠が施され、剣の柄に埋まった青い宝玉が微かに光った。
その瞬間回りの人間が出していた数十倍もの水が宙に覆い、エルビンスが剣をひゅんと教会に向けると一斉に津波のように教会の炎を飲み込む。
水はまるで炎に食らいつくように飛び出し余った水量が建物にぶつかり轟音が響く。教会に併設された孤児院の中庭に面している一部の建物も壊れ、炎は完全に消え失せ沈静化した。
誰かの息を飲むような音が響き、何処からかすげぇ…と声が聞こえる。
エルビンスの口角が上がり剣を上に上げた。
「私共が護衛と共に中を確認してきます。
民衆の皆様はここでお待ちになさってください。
あともし此処に住む人が先に出てきたら保護をお願いします。」
エルビンスの側に仕えていた身なりの良い剣を差した護衛らしき人達がいつの間にか5人エルビンスの近くに控えている。
「私に続けぇ!」
次回からメルディ視点に戻ります。




