シスター・ローザ
ファインが連れてきた子、メルディちゃんはとても変わった子なようで無邪気な子供の反面、時折大人のような表情もする。
そしてとても物知りで、記憶が無くなったと思えないほど知り得ない知識を持ちながら誰でも知っていることを知らなかったり、とてもちぐはぐな子。
それでも悪い子ではなく、馴染もうと話をしたりお手伝いをしてくれるいい子なのは確かだ。
でも「闇の恩恵」を持っているということは…とても重大なことであるのは確かだった。
これは前提の話。
恩恵は継承されることがある。それは精霊がその者を気に入った証であり血ごと愛した証拠だ。
一般的に髪の色が綺麗、瞳の色が好み。その魂が美しい。魔力が美味しい。そしてたまに気まぐれに祝福を贈る気まぐれな優しい精霊。
精霊から恩恵を授かるが大体一世代のみの授かりものだ。
たが継承したい、する場合はその精霊を信仰し、正しい生き方をすると精霊がその子をも愛し祝福して恩恵をくださるとされている。
そして、稀に血筋に恩恵を与える精霊もいる。
かつて愛した人だから、その子孫を祝福する精霊、かつて契約を成した人の血筋などだ。
そしてそれは過去の英雄の血、つまりその子孫は現在の貴族が多い。
だから古い血筋は恩恵持ちが大半だ。
そこで「闇」や「光」になる程混ざる血筋。
限られた血筋…であると誰もが気付くだろう。
何世代も血筋に恩恵を授かり、継承し、それ程までに濃く愛された血筋はとても少ない。
それこそ…王家、とか。
深くは踏み込まない。
きっと踏み込まれては困ってしまうだろうから。
嘘を簡単に言うような子ではないみたいだから、すぐに口を割ってしまいそうだもの。
自分から言ってくれないと意味のないものだ。
ファインは…少し鈍い部分があるからちょうど良い距離で接している方だと思う。
私の教育の方針で『孤児院に子達は、同じ仲間である』としてるから、初めて自分の『妹』であると認識してるみたいだけど…距離を測りそこねているような気がしないでもない。
まるで物語を参考にした兄妹関係、偽りだとしても大切に思う気持ちは高いみたいだけど今の関係が崩れるとどうなるのかが少し心配ではある。
見てる分には楽しみでもあるし楽しくもあるのだけど。
心のうちに楽しいものを想像して目を瞑る。
「………これで如何ですか?シスター・ローザ。決して貴女に悪い話ではないはずだ!
いえ、むしろこれ以上の好条件は他ではあり得ないでしょう!」
興奮しているのか瞳孔が開いているエルビンス男爵が両手を広げて机の上に置いてあるものを自信満々に広げる。
机の上には革袋に入った大量の金貨。
契約書の羊皮紙、大粒の鮮やかな翠緑の輝きをしたエメラルドの宝石。そしてせっかく出した一口も付けられてない冷めきった紅茶。
「好条件も何も…私は条件を出した覚えはありません。そのような高価な品々は、とても目に毒なのでお引取りなさってくださいませ。
それに現在、我が院にはそもそも養子に出す子がいらっしゃいませんわ。」
「御冗談を、有望な児童が三人もいるではありませんか、それに他のお二人も優秀でグリッド金物店とリセットという服飾店の跡取りとしてお育てだとか…。」
「あらあら良く御存知で、前にもおっしゃいましたが一人はお預かりしている子で双子の子達は貴方様に相応しくありませんとお断りさせて頂きましたが?」
お互い微笑みを絶やさず笑い合う。
「では私の元で私に相応しくあるよう貴族の教育を施しましょう!いつまでもこのようなところにいては時間がかかり満足な教育など施せそうにありませんからな。
私の所には優秀な者が多いので教育させるに相応しいでしょう。…如何ですかな?」
目を細めにたりと笑う。胡散臭い笑みを貼り付けていたところに本性が出たのだろう。
整えられたカイゼル髭を満足気にゆびで撫で付けている。
ローザは口元に手を当て声を殺して上品に笑う。
「あらあらまぁ…、それこそ御冗談を…。
私が言う『相応しくない』のは貴方様の事で御座いますよ。」
「なっ‼」
「それとも貴方様を私の子達に相応しくあるよう教育してくださる方がいらっしゃいますの?
それはそれは、とても優秀な方ですね。」
ふふっと口元に手を当て嘲笑うローザにあからさまに馬鹿にされ怒りで口を鯉のようにしているエルビンス男爵は我にかえると顔を真っ赤に染め上げた。
「馬鹿にしてるのか!!」
理性があるとしたら机じゃなく自らの膝に拳を打った事だろう。
怒りと憎しみを混ぜ合いにした瞳でローザを射抜き、先程の余裕は無く声を荒げた。
しかしローザは、まるで親しい人と談笑してるかのように笑っていた。
「あらあら、馬鹿になどしてませんわ。
冗談に冗談を返しただけでございます。お気に召されませんでした?」
あらあら残念そんなことも理解できないの?だと言うように眉根を下げる。
エルビンスは身体を怒りで震わせ歯を食い縛りながらローザを睨めあげた。
「冗談…、冗談ですか。それは面白いですね。」
浮かせてた腰を乱暴に下ろし怒りを鎮めるよう一瞬俯く。オールバックの前髪が少し乱れ目に影を作った。その刹那目に危険な感情が宿る。
「…そんな余裕をかましていられるのも今のうちですよ…。」
口から漏れ出た言葉に本人が気付いているか謎だが紳士風の態度を脱ぎ捨てているエルビンスの言葉をローザは聞こえないふりをする。
「聡明な男爵様はとても理解の深い方であると存じてます。お受けしたようで何よりです。」
エメラルドの宝石に負けない翠緑の瞳を無邪気に輝かせながらエルビンス男爵を見ると、一言「私はこれで失礼する」と立ち上がった。
ローザはあらっと微笑んでエルビンスを外の馬車まで見送った




