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トリヴィス

主の悪い癖だ。孤児院に気に入った子がいれば引取育てる。孤児院の方もパトロンの不興を買いたくないから喜んで差し出す。


トリヴィスもその一人だ。トリヴィスの孤児院はエルビンスが治めるリンデルの端にあった。


そこの孤児院には子供が多く、孤児院の補助金だけでは足りず働ける子は働いて足しにしていたが学のない15歳未満の子供では一般の大人の雀の涙にも届かないくらい少ない。どうしてもギリギリの生活になっていた。

その時に視察でエルビンス男爵が訪問してトリヴィスを養子候補として屋敷に召し上げられ孤児院には報奨金を渡した。


最初は喜んだ。満足な食事を三食食べれ甘いお菓子を貰ったから。

男爵に感謝した。そこは今でも感謝している。

側に付けば仕事なんてしなくて良いと言われたけど執事長に仕事を教えて貰った。

エルビンス男爵も好きに過ごして良いと笑いながら言っていた。

そして勉学を励む間にエルビンスに呼ばれ息抜きと報告としてお茶をして話をしてるのはとても幸せだった。


トリヴィスはエルビンス男爵に恩を返すため、勉学を学び、洗礼をしてもらって火の恩恵を持っている事を知った。

それから恩恵を学び恩恵魔法を使えるように鍛錬した。


それから知った、知ってしまった。


自分以外の子供を屋敷に召し上げていること。

最初は養子『候補』として、そうだと思った。だから更に認められたくて頑張った。


でも養子候補の子供達は皆、容姿端麗で変わった髪色か変わった瞳の色をしていたりした。

中にはただ可愛い子もいたけど。男爵が面食いなだけだと思った。


違和感は、あった。

何故か男爵は皆好きなようにさせる。

俺みたいに勉強をしたい子、働きたい子もいれば、ドレスを強請って宝石を身に着けて傲慢になる子もいた。


でも皆への態度は変わらない。

いつもニコニコと微笑んで幸せそうに子供達の相手をしている。

たまに旦那様の部屋に個人個人を招いてはお茶をし子供を愛でているくらいだった。


俺も他の子供達と滅多に会いはしないし、忙しいし屋敷も広いからすれ違うのは稀だ。増減なんて意識もしていなかった。


ただ、気付いたきっかけは友達が出来たからだった。


友人は男で当時10歳の俺と同い年だった。

友人の名前は「ノイン」

男だけど女の子の様なパッチリとした優しそうな空のような青い瞳、そして猫っ毛の真っ黒な黒檀の髪の毛をしていた。

黒い髪は珍しく、おそらく彼は可愛らしい容姿と髪色が気に入られ屋敷に召し上げられたのだろう。


特にやることを制限されてなかった俺達は、ノインと話をした切っ掛けは図書室だった。

俺は本を目当てに、ノインは復習に来ていたのをばったり出くわした。

最初は養子のライバルみたいなものだし無視をしようとしたけどノインが話しかけてきたから会話するようになった。


それから待ち合わせをするようになり他愛のない話もするようになるまで、さほど時間はかからなかった。


だけどある時突然待ち合わせに来なくなった。

確かに約束はしていない。用事があったのかもしれない。何か不快なことをしたかもしれない。

暗黙の了解になっていた不確かな約束だ。


だけど、探すには十分な理由だと思った。

仕事の合間に、夜の寝静まった時間に。

何となく、誰にも聞かず探した。

『友達』と言うのも恥ずかしかったし、今思うと無意識に疑っていた。


そんな折見てしまった。

深夜に知らない大人が養子候補の子供を連れて何処かに出かけて行ったことを…そしてそれから養子候補の人数をそれとなく覚え数えた。

そして知ってしまった。旦那様が『不合格』と見なした子供が減り新しい子供が召し上げられていたことに、そして俺自身も泳ごされていたことをこの後で知った。


信頼が、尊敬が、大事な記憶が、音も無くガラガラと崩れていくのを感じた。

…それでも俺は、あの人を嫌いになれない。

それに、逃げるにも帰る場所もない。


そうこう執事見習いを励んでる間に旦那様の部屋にお茶に呼ばれた。


「こんにちは、トリヴィス。

ちょっとこちらにいらしてください。」


いつものようにニコニコと微笑みを絶やさない旦那様。

ただ、いつもの明らかにふかふかな高そうな椅子の対面に勧められるのに、旦那様は足の太腿を叩いている。


「?」

「こちらにどうぞ座ってください。」

判らずにいると旦那様が自らの太腿を叩きながら手で示す。


「…え…?」

「さぁ、遠慮なさらずに」


ウェルカムとでも言うように両手を広げながら待ち構えている。

いや、まじかよ。


渋々…いや恐る恐る旦那様の膝に座る。

孤児院に居た時院長先生の膝に座って数少ない絵本を読んでもらったことあるけど、だいぶ小さい頃だ。

昔も今もこんなに緊張したことはない。


「あ、あの、旦那様。あの…えっと…?」

聞きたいが言葉に出てこない、どう聞けば?いやなんて聞けば?

そもそも聞いていいのか?どうすればいい!?


目が泳ぐ、こんなにどうすれば良いか分からない事は初めてだ!

そんな事を考えているとギュッと抱きしめられた。ぎゃあ!


旦那様が子供好きだとは聞いてるしそうだろうと思うけど子供の事を性的な目的とかそういう目で見てるとか聞いたことないし今までも他の子に手を出したとか無かったしそんな貞操の危機とかそういうの本の中だけとかそういうの思った訳じゃないけどだけど旦那様に限って、いや身近とか自分に限ってそんなことがおこるとかいやいやいやおこるそんなことあり得ない―――


「トリヴィス、私に隠してることがあるでしょう?」


心臓が飛び出ると思った。汗が吹きでる。後ろを見ることが出来ない。


「夜に部屋から出て『何か』を探してるとか、お仕事中に遠回りをしているとか…。」

「…いえ、ただ屋敷の散策というか、通りを覚えたいだけですよ。」

喉が渇いて掠れた声が出た。意識しないと上擦ってしまいそうだ。


「そうですか、やはり貴方は勤勉な子です。…ノインも優秀な子でしたね」

「っ!!」

意識せず旦那様の言葉で体が跳ねた。しまった…。

警戒してない訳では無かったけどノインが出てくると思わなかった。


「今日はその事で呼んだのだよ。君も気になるでしょう?」

首に息がかかって笑ってるのだと解る。

もはや知らないことはないのだと、調べはついてると言っているも同義だった。…俺が疑ってることも知っているだろうか…。


「はい。」


10歳のこの時から俺の道が決まった。

旦那様が人知れずやってる事の一端を知ることになり、そして子供達の教育と管理をすることになる。

それから呼び出される度にこの体制になることになった。

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