防犯意識
「じゃあまだ時間あるよな?俺も恩恵持ってるし一緒に基礎を教えてやろう。リンダ、俺の代わりにシスターと昼飯の手伝いしてやってくれ。
…ちゃんと説明するんだぞ?じゃないと後で俺が打ちのめされるから…」
「うん!わかったー!」
リンダはいい返事をして元気に走っていく。
「リンダって初対面の時、すごく大人しそうな子だと思ったけど意外と活発な子なんだね。」
「君に言われたくないけどね…姉さんはただ人見知りなだけだよ。」
「そうそう、慣れるとあんなもんだよ。じゃ、始めようか!ところでどこまで教えたんだ?」
ファインがリュートに問うと苦虫を噛み潰した顔になる。
「…水の恩恵で水を出して動かしたところをみせただけ…。」
「…。うん…ごめんな。」
リュートがじとりと私を見ながら答える。なんでファインが謝るんですかね?
「き、気を取り直してやるか!とりあえず昼飯出来るまでにやれるとこまでやろう!
ところでメルディは何が出来るとかあるのか?もしくはやってみたいものとか。」
「私の恩恵混ざって解らないけど青系があるから水を出来るかもなんだって、だから水の生活に役に立つこと覚えたいな。」
ちょっとファインが拗ねたような表情をする。
「んー、じゃあリュートの方が適任なのか…いやでも基礎くらい…」
考え込むように、ファインがブツブツ言い始める。リュートは呆れたような顔をファインに向けてこっちを見た。
「まぁ、いいや。んじゃまず両手をこっちに出してくれる?」
私は両手をリュートに任せるよう出すと両手を掴まれて手のひらを上にされた。
「じゃあ、今から恩恵魔法を伝えるから感覚掴んで。いくよ。」
「え?」
返事を待たずに上に向けられた手のひらにリュートの手が重ねられる。
リュートの方が私より少し身長が高いくらいだけど、手は私よし一回り大きかった。重ねられると私の手は隠れてしまう。
そしてリュートの手から体温の暖かさとは違う感じが手に伝わってきた。
これ?
私の隣でファインが目を皿にするように目を大きく見開いてジッと重ねられた手を見ている。
「どれか解った?」
「…たぶん?」
自信がないまま頷くとリュートからの違和感は消えた。
「あ、消えた?」
「うん消した。今度は君から僕に流してみて。」
「うん。出来るかな…。」
不安を抱えたまま唸るように手に力を入れてみる。
「ふぅぅぅゔん!!」
「くはっ!」
リュートがまた吹きだしたらファインがその皿のような目のままリュートに向いた。
「お兄ちゃん、さっきからなんか怖い!」
「ごめん」
ファインがパッと元の顔に戻ると私はまた手のひらに集中した。
「ん~~~、ぅん~~~???」
「君、さっきからうるさいよ。」
手のひらから何か出ろと思ってもよく解らない、そうこうしてるうちにすまし顔に戻ったリュートに注意された。
「出てる?」
「まだ。」
「手を握っていい?力入れたら入りそうな気がする。」
「そういうのじゃないんだけど…まぁ、やりやすいようにやったら」
「ありがと」
許可を貰ったから力の限りリュートの手を握った。警戒してなかったリュートの手がメシっと音を立てる。
「ふん!」「いっだぁぁ!!」
バッと手を振り払われてしまった。
「痛いよ?!そんな手加減なしの力の入れ方あるか!!」
「え~、受け止めてよ!よく解らないんだよ!」
「解らないからって握りつぶすな!握るなら握りつぶすと前置きしてよ!」
「握っていい?って聞いたじゃん!」
「握るなんて可愛らしいもんじゃなかったよ!?」
「ちょっと!ちょっとストーーップ!!」
言い合いを始めた私たちの間にファインが入る。
「喧嘩しない!まぁ、ちょっとメルディがやりすぎで悪いからリュートに謝ろうな。」
「うっ…リュートごめんなさい。」
正直薄々とやりすぎたのは解っていたけど、つい言い訳をしてしまった。
リュートも謝られて勢いをなくしていく。
「…まぁ、解らなくてイライラするのも解るから、いいよ。…許してあげる。」
口を尖らせてプイッと横を向く。
「じゃあ、今度は俺の番な!メルディ、俺はメルディが本気で握っても大丈夫だぞ。
まぁ…あと、ちょっとリュートの説明は解りにくいかもな。」
「…。」
今度はファインが両手の手のひらを差し出してくる。
ファインの横ではリュートが悔しそうな顔をして様子を見ていた。
私はファインの手に自分の手を重ねる。
「じゃあ、さっき感じた恩恵の感覚解るな?」
こくりと頷く。
「今度はその感覚が体に入るのを追え。目を閉じると感じやすいかもな。
そして自分の中に恩恵を感じたら教えてくれ…行くぞ?」
「うん。」
私は目を閉じて待つと、重ねた手のひらにリュートと同じような感覚がした。
少し違うような気がするのは個性かな?それとも恩恵の種類?解らないけど、ファインからあの感覚が手の平から更に腕に、肩に、胸に流れてくるような感覚がした。
ファインに言われた通り流れを追うと胸に何か引っかかった気がした。
目を瞑りながらその引っかかった場所に神経を集めると濃い青…紺色の気配がした。
「…あった…。お兄ちゃんあったよ。」
ファインが笑った気配がした。
「あぁ、じゃあ次はその色を伸ばして俺の流れを逆流してみろ。流れに沿うように、侵食してもいい。
シスターの洗礼を思い出せ。光の帯に色が侵食し行くのを想像してみ?」
紺色が体の中で広がるのが解る。それをファインが流してくれた帯のような恩恵に纏わりつく様に、光を追う様に、飲み込むように。
…前世を思い出す。人体図の血管を。水彩画の絵具を。流れに乗せる。
紺色の流れを押し返してファインに逆流させる。
「お!きたきた!そうそう上手いじゃないか。
じゃあ、本番な。その色に何をして欲しい?水になるか?塊になるか?粒になるか?」
靄になって形にならない。そこで頭に浮かぶのはリュートの手のひらの水の魔法。くるくる踊る魔法。
思い出す水球が回る、水がパキパキと氷に変化したのが頭に思い浮かんだ。
「メルディ、目を開けていいぞ。」
そっと目を開けるといつの間にかファインの手は離れていて、私の目の前に頭に浮かんだのと同じ氷が浮いていた。
「…あ、氷。」
「よしよし、出来たな!よくやった!」
呆然とした私のファインが優しく微笑み頭を撫でてくれる。正直全く魔法使った感覚ないけど、確かに私の目の前に氷が浮いていた。…やった、やった!!
「お兄ちゃん!やったぁ!!」
嬉しいのを全身で表現してファインの腰に抱き着く。
「お兄ちゃん!ありがと!」
そしてパッと離れてリュートに抱き着いた。
「リュート!やったよ!ありがと!」
「なにも、してないけどね」
「そんなことないよ!最初の感覚とリュートに見せてもらった例があったから固めることが出来たの!恩恵魔法凄いね!ありがと!」
心からのお礼と感謝を伝えるとリュートが笑う気配がして私の腕を軽くポンポンと叩いた。
「…どういたしまして」
「リンダ!リンダにも報告しないと!あ、あと感覚忘れないようにしないと!」
やる気を出して自分の両手を握りしめると出入り口から声が聞こえた。
「まず先にご飯を食べましょうね。続きは後で…昼の準備が出来ましたよ。冷めないうちに食べましょう。」
「あ、シスター!はーい!」
そう言えばお腹を減ったような気がして、皆で食堂に移動した。
ご飯はお馴染みの野菜のスープとパン。
ラルとダリルは仕事なので、その他のメンバーだ。
食堂な入って真っ先にリンダに報告すると「メルちゃんおめでとう!」と天使の笑みで褒めてくれる。微笑むとサンゴ礁の海のような瞳が柔らかく細められもっと頑張ろうという気持ちにさせてくれる。
あ〜癒やされるんじゃあ〜。抱きつける瞬間女の子で良かったと思うけど男じゃないのが悔しくとも思う。複雑だが役得…ギュ
悦に浸ってたらリュートに引き剥がされて食事になった。
席は大体は決まってるが時と場合によって違う。
年齢順だったり親しかったり、因みに決まってるシスターは毎度固定で上座に座ってる。簡単に言うとお誕生日の主役席だ。
「あの…シスター、あの男は帰りました?」
「あの男?」
最初は他愛のない話をしていたけど、リュートが思い詰める表情でシスターに聞く。
その中でいち早く反応したのはファインだった。
いつも優しく笑う顔が少し鋭さを帯びている。
「エルビンス男爵様ですね。今日は少ししつこ…諦めが悪かったですが大丈夫ですよ。」
今本音言いかけた?言ってること同じ意味だけど。あと大丈夫ってリュートの答えになってないよね?とじーっとシスターを見る。
シスターはチラッと私を見たあとに困ったように微笑んだ。
「…少し、メルディちゃんを気に入ってしまったようで…断っても往生際が悪かったのです。
まだ来て日が浅いと言えば『環境が変わったばかりならなお好都合』だの、預かった子だと言えば『誰から』だの、…言うわけないでしょうに…。
仕方ないから、『では裏へお越しへ』と聞いたら帰りましたが…あれはまた来るでしょうね。」
困った人、と頬に手を当てて微笑んでいる。
きっと私は嫌っそーな顔をしていただろう。
でも裏に来いと言ったら帰ったってどういう意味だろう…なんか怖い。
シスターはあらあらと笑って大丈夫よ。ともう一度言った。
「あの方はちょっと異常なまでに子煩悩と収集癖が強いだけなのです。顔を見せなければ問題ありません。
メルディちゃん、教会に顔を出してはダメよ?お買い物も出来ないし、ずっと孤児院の中にいるのは窮屈ですけどリンダちゃんとリュートと一緒に遊んでてくださいな。
リンダちゃんとリュートも教会に顔を出しちゃ駄目よ?危ないからね。」
「はい。」
「「はーい!」」
リュートは真剣に、私とリンダは元気よく返事をした。
しかし…異常な子煩悩と収集癖…ね。怖っ!
今後、一生無縁でいたいな。




