エルビンス男爵
12/22一部変更しました。流れは変わりません。
「はい!おひさしぶりです、男爵さま!」
「…お久しぶりです。」
リンダは満面の笑みで、リュートは軽い会釈でエルビンス男爵に挨拶をする。
男爵はほっこりした様な笑みでうんうんと満足気に頷いていた。
「君たちも相変わらず仲良しだね、良かったよ。そして君が新しい子かな?」
深い青い目がこっちを向く。
「はい、エルビンス男爵様。始めましてメルディと申します。」
ぺこりとリュートと手を繋ぎながらお辞儀をする。というかリュートが離してくれない。
顔をあげるとエルビンス男爵と目が合う。
優しい顔をしているのに、深い海の様な双眸と目が合うと…違和感があった。まるで深海を覗くような深く沈む感覚というか…。全体見られてるというか…。
カイゼル髭で穏やかに見える顔が得体のしれないモノに見える。なんだろ…、この気持ち。あんまり良いものでない。
そんな時間が経ってないはずなのに、やたら目を併せてたのが長く感じた。エルビンス男爵はにこりと笑って立ち上がる。
紳士的な穏やかな表情のはずなのに、なんか気持ち悪い。得体のしれない不安が胸を絞めた。
「とてもお行儀の良い子ですね。おいくつかな?」
「…6歳、です。」
「ほほう、そんなに小さいのにしっかりした子だ。将来有望な淑女ですね。」
上機嫌に声を上げて笑うエルビンス男爵にリュートが声をかける。
決して大きい声ではないのに、良く通った声で現実に帰った気がした。
「エルビンス男爵様。僕達はこれから仕事が控えてますので、これで失礼させて頂きます。
シスター…では失礼します。」
いつの通りのリュートなのに、それがひどく頼もしく思えホッとた。
リュートは去る間際に軽く頭を下げ私達の手を引き孤児院に繋がる扉を目指す。手を引かれてたから余裕なかったけど私も会釈すると、リンダも上目遣いで会釈した。
教会につながる扉を閉めて息を吐く。
いつの間にか緊張してたようで、今やっと呼吸がちゃんと出来た気がした。
「…なんなの?あの人…」
あの深海のような目に今更寒気を覚える。
最初の印象と打って変わって得体のしれない恐怖の対象になった。
「エルビンス男爵。リーゼンブルのリンデルって場所の領主をしてる男。子供を欲しがって孤児から養子を得ようとしてる人だよ。最近来なかったから僕も名前忘れてた。
前はよく、僕と姉さんに声かけてたけど…シスターが断ってたら来なくなってたんだ。」
リュートの影からぴょこんとリンダが嬉しそうに顔を覗かせる。
「そうだよー!良くね、お菓子持ってきてくれてたんだよ。」
なるほど、お菓子ね…。リュートが警戒してる意味が良くわかった。ヤッバ…、そんな人にお行儀よく挨拶しちゃったじゃんか…。早く教えてくれ。
チラッと今だに握られた手を見た。
コレがリュートがあの状態で出来る警告か…悪いことしたな。
「…折角手を繋いて教えてくれたのに気付かなくてごめんね。無駄にした。」
あの時、あからさまに警戒してたのに…。
自分の察しの悪さに申し訳なくなる。そうだよな、この下層の教会に貴族が来る時点で可怪しいと思うべきだった。今思うとあの男爵とシスターの会話…嫌味の応酬だったのでは?
ははっ、と渇いた笑いが私の口から漏れる。
自分でも口角が引き攣ってるのが判ったが笑うしかない。
そんな私を見て、リュートが俯きながら…でも力強く確信を持って言う。
「大丈夫。シスターが僕達をあの男に渡すはず無いから。…大丈夫。
ほら行こ、今日はシスター勉強出きなさそうだから僕が恩恵魔法の基礎教えてあげる。元々基礎教えてくれってシスターに頼まれてたし…。いいかな?姉さん。」
「いいよー!」
リュートは感情乏しく言うが、こっちを気遣いながら言うのが解る。
私の返事を聞かず手を離して、さっさと奥に進む二人を追いかけた。




