お兄ちゃん
蝋燭も貴重だから前世よりは早く寝る。相変わらず時間は解らないが、遠くから鐘の音が聞こえると就寝時間らしい。寝る格好に着替え準備をする。
「さて、そろそろ寝るか。」
「…うん。」
正直、寝るのが気が重い。いや眠いです。眠気が無い訳ではない。ただ夢をまた見そうで怖い。
アレは私では無い。記憶が無くなる前の、私の記憶が蘇る前のヒロインが見てる夢だ。
アレは私の夢じゃない。私じゃない。
「…今日も一緒に寝るか?」
「!」
パッと顔を上げると、らしくなく少し照れたようなファインがいる。おぉう無理してる。
「メルディと一緒に寝ると暖かくてさ、よく寝れるんだよな〜。一緒に寝てくれたら俺は嬉しいな〜」
うん、無理してる。そしてよく寝れるのはきっと、私の方だ。…ありがとう兄さま…。
「…私もお兄さまと一緒に寝れたら嬉しい…」
嬉しいような、この歳(享年28)で恥ずかしいような、むず痒い気持ちで笑うとファインは安心したような顔で肯いた。
布団に二人で潜る。
「ところでメルディ。ずっと気になってたんだけどさ。」
「ぅん?」
「『お兄さま』ってさ…。」
「うん」
「他人行儀っぽくないか?」
「うーん」
ゲーム上でヒロインは『兄様』とファインを呼んでいた。だけど最初私はなんとなく、慣れなく『お兄さま』と言ってしまったから後戻りが出来ずそのまま呼んでいる。確かに言いづらいと思ってたんだよね。
「俺は別に『兄ちゃん』でも『兄さま』でも『兄』が付いてれば良いんだけどな…でもなんか『お』を付けられるとな、距離感感じるんだよな…。」
ファインは、どう言えば伝わるか一生懸命言葉を捻り出しているように首を仰向けながら言う。
現在一緒に寝ている視点から、私の目の前はファインの首元に顔があり、上に顔を上げるとファインの顔がある。そして足はファインの股辺りにあるので、えいっと足を上げたらきっとファインは大変なことになるだろう。
「記憶が無くなるまで、私はなんて呼んでたの?」
意地悪な質問だと思う。でもファインの要望が聞けると思った。
ファインは迷ったけど、下を見るよう私を見て。
「…呼び捨て?」
正直に答えた。そして何故疑問形?
「じゃあ兄さマン」
「なんだそりゃ」
ぷふふと笑いながら言うと釣られたようにファインも笑う。
「私の英雄だから、兄にマン付けて兄さマンだよ」
「…勘弁してくれ」
英雄に困ったような笑みを浮かべて笑う。私にとって本当に英雄のような存在だと本心から思ってる。冗談も混ざってるけど、本当に感謝してる。
でも困らすのは本意じゃない。
「じゃあ、『お』をつけちゃうけど。」
「…。」
「『お兄ちゃん』って呼んでいい?」
ファインは最初眉が下がり寂しそうな顔をされたけど、答えると打って変わって蕩けそうな顔をして、仕返しとばかりにゴツっと額に頭突きされた。あまり痛くないけど頭に響く。
悪戯っぽい顔をして「それなら許す」と笑うファインは、多分この顔が素なんだろうと他の皆に向けるような自然な顔をしてた。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。そのうち『兄ちゃん』になって『兄さん』に昇格して『アニキ』って呼んじゃうんだから。」
顔がニヤけながら言う私に苦笑いしながら、「それはそれで寂しいな」と肩を震わせて二人で笑って朝までぐっすり熟睡した。
ここまで長かったですが説明が多いプロローグみたいなものは終わりです。
次回から孤児院の子供達との関わりとメルディが行動していきます。
文字数とか考えず書いてるので長かったり短かったりしますが、お付き合いしていただけると嬉しいです。




