マジフザケンナ
・・・・・・
ごおぉぉっと燃え盛る炎。
火花を散らす剣戟、私の手を握って焦りながら何事か叫ぶ男性。
え?何事ですか?
涙で視界が歪んで視界が悪い、両目から涙が溢れて止まらなかった。
あ…。なんかこの光景みたことある。
涙を拭って燃え盛る屋敷を見る。
“わたしの、おうちが…ママぁ、パパぁ!いやぁ…いやぁぁぁ!!”
そうだ、これはオープニングスチルの…?おーぷにんぐ?すちるの?
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「お嬢様!!ここは危険です!!早くお嬢様をお連れして逃げろぉ!」
剣を切り結ぶ初老の執事服を着た男性が叫ぶ。
私は愕然としすぎて涙が枯れ視界がクリアになる。私の手を握っていた若い男性が「申し訳ありませんお嬢様!」と私を肩に抱き上げ走る。
男性の肩から燃える屋敷と襲撃していたと思われる倒れている黒服の男たち、そして戦ってる初老の執事服の男性、そして何処からか目視できるレベルの火球が飛んできて後ろで大爆発がおこる。
「はんす…」
さっきの初老の男性の名前が頭に浮かんで涙が浮き出る。小さいころの記憶があるような。
この感情は私でないはずなのに、私の胸を締め付ける。
安否は解らないが、無事であることを祈った。
そして真っ暗な森の中に入り、私を担いでいる若い男性の息遣いと森をかき分ける音が静かな森に響く。
足の速さはかなりの距離を走っているはずなのに、未だに衰えない。
私だったら50メートル走っただけでゼハゼハ息が切れる。鍛え方が違うんだろうな、私鍛えた覚えないけど。
森の中を暫く走ると男性の速度が歩きに変わって止まった。
流石に息が切れたのか息が荒い。
後ろを振り返ると、真っ暗くて見えづらいが、草木に覆われた山小屋があった。
男性は私を下し、目線を合わせるように片膝をつく。
「お嬢様、中を確認してきます。少しここでお待ちください。」
何も言えず、こくんと了承の意を伝える。
男性…名前はファイン…が柔らかく笑って山小屋に向かった。
あー、イケメン…。
こんなこと思ってる場合ではないのは解ってる。
ファインは私の家の護衛の新人剣士だ。
私より10歳年上、えーと記憶の通りだと現在私は6歳だから彼は16歳なんだが、大人過ぎませんかね?
私とまだ若いファインを逃がす為、ハンスはファインに私を託して逃がしてくれたんだ。
この記憶って、『ナイト・ガーデン』のヒロインの記憶だよね…。
『ナイト・ガーデン』に転生させてくれると彼は言ったが、まさか…ヒロインとか…。
いやぁ~~~、ちょっと無理じゃね?無理無理。マジ無理。
頭抱えて蹲るの我慢して俯いて考えてるとファインが戻ってきた。
「お嬢様、まだ敵の手はここまで来ていないみたいです。
ここで休憩いたしましょう。」
ファインはこの状態でも笑顔で私の手を引いてくれる。彼も不安だろうに…。
山小屋の中に入る、調度品は最低限ありベッドとソファ、長机、暖炉がある。
「今日はここで泊まりましょう。夜が明けたらすぐに出発するので、それまで寝てください。」
ファインは私をベッドに座らせると靴を丁寧に脱がしてくれる。
至れり尽くせりで少し恥ずかしい。
「ファ、ファインも…ファインも休んで?」
声の違和感がすごい!生前の記憶と違いすぎて思わずどもってしまった。
ファインはマジマジと私を見た後笑って両手をとった。
「はい、私はあのソファで仮眠をとらせて頂きます。すぐ近くにいるので安心して眠ってください。」
私はこくっと頷いて薄いシーツのような布団の中に潜った。
そして今までの事を思い返す。
たぶん、今起こっている出来事はオープニングスチルと彼女の生い立ちで何度も見たシーンだと思う。
家が何者かに襲撃されて家族は皆殺し、幼い彼女と新人騎士だけ生き延び、この後貧民街の教会に身を寄せ生き延びる。
そして何故この良いところのお嬢さん(ヒロイン)が、その境遇に耐えられたかというと、あの襲撃事件の時に幼いころの記憶を全て失ったからだ。
なぜ記憶を失う場面で失うどころか余計な前世の記憶全て思いだしてんねん!逆だろ!!フザケンナ!
そして記憶を失ったヒロインを守るためファインは兄としてヒロインに接するのだ。
これは乙女ゲー、そうファインも攻略対象のキャラです。
柔らかい色の薄い短髪の茶色い髪、精悍顔立ちなのに笑うと可愛いく戦士だから鍛えられた体、頼れる血の繋がってない兄、そして重度のシスコン。
まぁ…こんな過去があるなら仕方ないと言えば仕方ない。
過保護になってしまうのもシナリオ知っていれば理解できる。
ヒロイン(私のことと思いたくない)はウィリント国の先王の孫なのだ。因みに現王は先王と血が繋がってない。
内部分裂というか、先王の子供つまり父は王家の血を継いでいたが『王』としての素質が無いとか言われ、当時宰相であった現王に命を狙われたのだ。
宰相VS正当な血筋、水面下で繰り広げる攻防。王(つまり祖父)が動こうとしたとき暗殺で殺され(詳細不明)
当時、成人間近だった父は後ろ盾に宰相がなることを知り、王家に忠誠を誓った臣を連れ隣国リーゼンブルまで逃げた。
その臣には有能で爵位を持つ人物が何人もおり、その穴と国の運営が大変なことになったせいか、追っ手はくることなかった。
無事生き延びた父は、そこで商売を行い元々優秀なメンバーが揃っていたおかげで一代で富豪になることが出来現在に至る。
そう、このシナリオはヒロインが正当な王家の子供の革命ストーリーである!因みにファインはヒロインが正当な血筋だと知らない。かなりトップシークレットだと思うしね。
…いやだぁぁぁぁぁーーーーーーーこんな世界のヒロインなんてやってられっかぁぁぁぁ!!
布団の中で悶絶をする。ヒロインをサポートする立場だったのなら喜んだ、だけどヒロイン本人とか荷が勝ちすぎる。そして重要なのは、このゲーム人死ぬ。お亡くなりになる。私の選択次第で!
ゲームだったしエンディング埋めにルートを何週もした。その時に死んでもイベントだったし感動するけどそれ以上何も思わなかったけど、転生とかで嫌すぎる。関わりたくない。
だって私が選択するから、私が動く結果とか…おっもぉ…。ただでさえ、このゲームは嫌いなキャラがいない。リアルで会えたら是非友達になりたいと心から思う。実際に会えるとして、絶対好きになるじゃん。
…考えるのを止めよう。オープニングではこの幼少期の記憶から一気に15歳にまで行く。夢を見た的な感じで。つまり明日から何が起こるか解らない。つまり私の自由時間。
それまでに、身の振り方を考えよう。この物語のような現実とも向き合わなければいけない。